『ダークプリズン・3』




「たいか・・・?」
「そう、対価だ」

一瞬、さくらには小狼の言葉の意味が理解できなかった。
『対価』という言葉が日常生活でそう頻繁に使う言葉ではないこともある。
だが、それ以上にさくらには小狼に対する甘えがあった。
カードを捕まえる時も、クロウが起こす事件の時も、なんだかんだ言いながら小狼はさくらを助けてくれた。

『李くんはいつでもわたしを助けてくれる』

という甘えがあった。
小狼から見返りに何かを要求されるとは思ってもいなかったのだ。

「危険な場所に人を送ることになる。事故に巻き込まれるかもしれない。最悪、助けに行った者が命を落とす可能性もある。だから・・・」
「だから?」
「対価を・・・危険に見合うだけの価値のあるものをよこせ」
「価値のあるもの?でも、わたしそんな高いもの持ってないよ?」
「持ってるさ。とても価値のあるものを」
「え?」
「クロウカードだ。クロウカードをよこせ」
「!?」

さくらは愕然として小狼の顔を見返した。
そして初めて小狼の雰囲気がいつもとは違うことに気がついた。
無意識のうちに手がクロウカードを収めたポーチを庇う。

「そうか。そのポーチの中か」

かつて二人が始めて出合った場面の再現。
だが、あの時さくらを助けてくれた桃矢も雪兎もこの場にはいない。

「魔法の鍵も持ってきてるんだろう?鍵とカード、両方ともよこせ」
「で、でも、最後の審判でカードの主はわたしに決まっちゃってるよ?それに何枚かはさくらカードに変わっちゃったし。李くんにカードを渡しても・・・」
「お前の魔力も一緒によこせ。それでカードも鍵もオレのものになる」
「李くん・・・本気なの・・・?」


さくらには小狼の豹変が信じられなかった。
最初こそ険悪な関係だったが、カードを集めるうちに仲良くなれた。
最後の審判の時もさくらがカードの主に決まった時は一緒に喜んでくれた。
そう思っていたのに・・・
仲良くなれたと思っていたのは自分だけだったのか?
小狼の方は初対面のあの時から何も変わっていなかったのか・・・?


「もちろん本気だ。もともとそのカードは李家のものだ。正統な主に返すのが筋だろう」
「だけど、今はカードさん達はわたしの・・・」
「お前の父さんや兄貴はどうなってもいいのか?」
「そんな・・・」
「強制はしない。カードと家族、どっちが大切か・・・自分で選択しろ」


言いながら小狼は自分を嘲笑った。
何が自分で選択しろ、だ。
選択の余地なんかない。
さくらがどれほどカード達を大切に思っていても、家族の命と引き換えにできるわけがない。
それにカードの方は主が変わっても消滅したりはしないが、藤隆と桃矢の方は今助けに行かなかったら二度と会えない。
失うものの重さが違いすぎる。
一見、複数の選択肢があるように見えるが、実際に選べるのは一つだけ。
薄汚い詐欺師やヤクザがよく使う手だ。

これでオレも外道の仲間入りだな。
まあ、それもいいか。
李家のやり方はいつもこんなものだった。
魔力と権力で弱者を蹂躙して栄えてきた一族。
その当主にふさわしいやり方さ。


「どうした?あまり考えてる時間は無いぞ」
「・・・」
「いいのか?父さんや兄貴が助からなくても」
「でも・・・でも・・・カードさん達だって・・・」
「カード達はオレが主になれば何の問題もない。まだ生まれ変わっていないカードもオレが変えてやるさ。けど、お前の父さんと兄貴の方は今助けにいかなければ・・・どうなるかな?」


もはや選択でもなんでもない。
家族の命を盾にとった卑劣な脅迫。
この一言が最後のトドメになった。
さくらは震える手でカードと鍵を差し出した。


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