『歪んだ関係・2』



「あぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!」

壁から熱い喘ぎ声が伝わってくる。

「なかなか終わらないね・・・・・・」

ベッドの上で膝小僧を抱えた姿勢のサクラがポツリとつぶやく。

「そ、そうですね・・・・・・」

同じ姿勢の小狼がボソボソと答える。
それきり二人は口を閉ざし、部屋は気まずい沈黙に支配される。
聞こえるのは隣の部屋から洩れてくる、あられもない喘ぎ声だけ・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――

それは一行が辿り着いたいくつ目かの世界。
クロウ国に似た砂漠に囲まれた国でのこと。

「うぅ・・・・・・ん・・・・・・あれ? ここは?」
「気がつきましたか。サクラ姫」
「小狼くん。そっか。わたし、また眠っちゃたんだ」

サクラは宿屋のベッドの上で目を覚ました。
取り戻した羽を吸収した影響で眠ってしまっていたらしい。
心配そうな顔をした小狼が上から覗き込んでいる。

「体の調子はどうですか、姫」
「うん。もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね。それより、みんなは?」
「買い物にでかけています。オレはお留守番です」
「そう・・・・・・」

ここにいるのは二人だけ、そう聞いてサクラの頬がわずかに緩んだ。
小狼と二人っきり、それが嬉しい。
なぜなのかは自分でもわからない。
黒鋼も、ファイも、モコナも、みんな大事な旅の仲間で素敵な人達だ。
みんなと一緒にいるのもそれはそれで楽しい。
だけど、小狼と二人きりというのはそれとは別だ。
もっと違う何か、なにかはわからないけど胸の奥がキュ〜〜っと締め付けられるような、それでいて少しも苦しくない、むしろ心地よい不思議な気持ちになる。
初めのうちは小狼だけ自分と同じ世界の人だからそう感じるのかと思っていた。
それとも、年齢不詳の仲間達の中でただ一人、自分と同じ年頃とわかる相手だから安心できるのだろうかと考えた時もあった。

今はどちらも違うとわかる。
これは、小狼が自分にとって特別な相手だからなのだと。
だから、これほど二人きりが心地よいのだと。
それがハッキリとわかる。
旅の仲間たちの態度からもそれは読み取れる。
黒鋼とファイは、旅の合間合間に自分達が二人きりになれる時間を意識して作ってくれているらしい。
今日の買い物もおそらくそうなのだろう。

辛い旅の中に訪れる、ほんのわずかな安らぎの時間。
何の邪魔も入らない二人きりの時間。
何ものにも代え難い、貴重な一時・・・・・・


それをブチ壊しにしたのは、隣の部屋から洩れてきた女性の声だった。

「あぁぁぁ! いぃぃぃ〜〜〜〜〜〜!!」

最初、サクラはそれが何なのかわからなかった。
隣の部屋で急病人でも出て、悲鳴をあげているのかと思った。
だが、すぐにそれが別のものであることに気がついた。

「小狼くん、大変! お隣で誰かが苦しんでるみたい! 助けなきゃ!」
「い、いや、姫。あ、あれは違います」
「違う? どうして? あんなに苦しそうな声してるのに?」
「そ、それは・・・・・・あの、あれはですね。その・・・・・・」
「いいぃっ、いいわっ! いいぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!」
「あ・・・・・・? これって、ひょっとして・・・・・・?」
「た、多分・・・・・・」

そう、隣から聞こえてきたのは、男女のアノ時の声だったのだ・・・・・・
どうやら今回とった宿は、そういうことをするための宿らしい。
いわゆる、“ラブホテル”というやつだ。

「ほ、ほぇぇぇぇ〜〜! しゃ、小狼くん、どうしよう?」
「どうしようと言われましても・・・・・・大人しくしてるしか・・・・・・」
「で、でも!」
「姫、静かに! 向こうの声が聞こえるってことは、こっちの声も聞こえるってことです」
「う、うん・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

NEXT・・・・・・


※ツバサのサクラは「ほぇぇぇぇ〜〜」とは言わないのでは? とお思いの方もおられるかと思いますが、アニメ版で1回だけ「ほぇぇぇぇ〜〜」と言っているところがあります。

戻る