すっぱいぶどう


世界迷作劇場その11 すっぱいぶとう2

キャスト
きつね:知世様
???:黒鋼

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むかしむかしのその昔。
ある街の細い通り道をきつねさんが歩いていました。
てくてくとさらに歩いていくと、おいしそうなぶどうが枝から成り下がっているところに通りかかりました。
見るからにおいしそうなぶどうにきつねさんは。
きつねさんは。
きつねさんは……?

てくてくてくてく

完全スルー。
見向きもしません。
そのまま歩いてきつねさんはお家に帰ってしまうのでした。
きつねさんのお家はなかなかにゴージャスな豪邸です。
きつねさん、お金持ちみたいですね。
きつねさんはこれまた豪勢なお部屋に入り、これもまた高級そうな椅子に腰掛けると机の上においてあった呼び鈴をチリンチリンと鳴らすのでした。
なんとも優雅な仕草です。
このきつねさん、モノホンのお嬢様なのでしょう。
それにしてもドラマとかによくこの呼び鈴みたいの出てきますけど、お金持ちの人の家には本当にこういうのが置いてあるのでしょうか。
ちょっと見たことないですね。

「おう。なんだ」

鈴に呼ばれて出てきたのは。
う〜〜ん、なんといいましょうか。
その。
黒のスーツの上下はそれなりにきまってはいるものの、その目つき、口の悪さはあきらかに筋者。
どう見てもかたぎには見えません。
お嬢様然としたきつねさんには不似合いな男です。
いや、意外と似合うのかな。
気のせいかもしれませんが、二人並べてみるとよく似合っているような気もします。
きつねさんが見た目によらずちょっと不思議な雰囲気を持っているからかもしれません。
出てきた男にきつねさんは冷たい口調で命じます。

「黒鋼。ぶどうを持ってまいりなさい」
「はあ? 何言ってんだ」
「ぶどうです。ぶどう。急に食べたくなってきましたの。すぐ持ってきなさい」
「ほんとに何言ってんだ? 今はぶどうの季節じゃねえぞ。あるわけねえだろ」
「逆らうのですか。ならば。念念念……」
「ぐぅっ!? な、なんだ? あ、頭が」

素直に言うことを聞かない執事さん? に向かってきつねさんが謎の呪文を唱えるとこれはまたどうしたことでしょうか。
執事さんが頭を押さえて倒れこんでしまうのでした。
そうとうに痛そうな顔をしています。
これはいったいどういうことでしょう。

「て、てめえ、いったい何しやがった!」
「おほほほ。緊箍児ですわ。ほら、あの孫悟空の頭にはまっているあれですわ。有名でしょう」
「そんなものをいつの間に!?」
「貴方が寝ている間に蘇摩にはめてもらいました。貴方のような男にはこういうものがありませんと。ほらほら。早く持ってこないともっと締めますわよ」
「く、くそっ! ちょっと待ってやがれ!」

う〜〜む、このきつねさん見た目によらず、というか見た目どおりというかかなりアレなお嬢様のようですね。
頭の輪っかの締め付けがよほどに酷かったのか、よろめきながら出て行った執事さんでしたが、しばらくすると一房のぶどうを持ってきつねさんの前に現れました。

「ほらよ」
「ご苦労ですわ。それでは」

執事さんが持ってきたぶどうを一つまみしてお口に運ぶきつねさん。
ですが。
お味が気に召さなかったのでしょうか。
これも優雅な動作でぷっとぶどうを吐き捨てるとジロリと執事さんを睨みつけて一言。

「黒鋼。これ、どこから持って来ました?」
「あぁ? あぁ、そこら辺歩いてたらちょうどぶら下がってるやつがあってな。そいつを持ってきたぜ」
「……。念念念」
「ぐぁぁぁ! な、なにしやがる!」

きつねさん、よほどに気に入らなかったみたいですね。
無言でまた輪っかを締め付け始めました。
痛みに耐えかねて床の上でじたばた悶える執事さん。
この執事さん、どうもかなり幸の薄いお方のようですね〜〜。
ま、CLAMPワールドにはよくいるタイプの男性です。

「バカですのお前は。そんなものがこのわたしの口に合うわけないでしょう」
「てめえにはそれで十分だ!」
「とにかく。早く次を持ってまいりなさい。そうしないと。念念念……」
「ぐわぁぁぁ! く、くそっ、おぼえてやがれよ、この!」

さてさて。
その後、数回に渡って同じようなやり取りが繰り返され、きつねさんが満足するまで執事さんはのたうち回る羽目になったそうです。

めでたしめでたし?

今回の教訓:
ブルジョアは無駄な努力はしない。
もしくは男性の献身は報われない。

その3


続く。

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