すっぱいぶどう


世界迷作劇場その11 すっぱいぶとう3

キャスト
きつねさん1号:山崎くん
きつねさん2号:千春ちゃん

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むかしむかしのその昔。
ある街の通りをきつねさんが二人、仲良く歩いていました。

「あははは〜〜。っていうのはね〜〜」
「…………」

陽気に話しかけるきつねさん1号に対してきつねさん2号、ちょっと反応が冷たいような。
気のせいでしょうか?
そんな二人がてくてくとさらに歩を進めていくと見えてきたのは枝からぶら下がったぶどう。
あまりおいしそうじゃないですね。
まだぶどうの季節には早いですから。

「千春ちゃん知ってる? ぶどうっていうのはね。昔は凍らせてから食べるものだったんだよ〜〜」
「ふ〜〜ん」
「カチカチに凍らせたぶどうを一粒ずつもぎとってね。それを鉄板の上に置いてハンマーでこう叩いて……」
「山崎くん!」
「な、なに、千春ちゃん。突然そんな大声出して」
「山崎くんの話聞いてたらぶどうが食べたくなってきたわ。あれ、とってきて」
「え? で、でも。まだぶどうの季節じゃないし。あまり美味しくないと思うけど」
「わたしは今、食べたいの! 早くとって!」
「う、うん」

きつねさん2号にどやされてしかたなく、ぶどうをとろうとするきつねさん1号。
しかし、ぶどうはかなり高いところにあります。
きつねさん1号の背では届きそうもありません。
ぴょんぴょん飛び跳ねたり、爪先立ちになったりといろいろがんばりましたが、やはりダメです。

「千春ちゃん〜〜。やっぱり無理だよ」
「なんで無理なのよ。山崎くん、わたしのこと好きって言ってくれたよね。あれはうそだったの?」
「そ、それとこれとは話が〜〜」
「違わないでしょ! さ、早くとって」
「ち、千春ちゃん……」

う〜〜む。
きつねさん2号、やけに厳しいですね。
なにかあったんでしょうか。
きつねさん2号の剣幕に恐れをなしたきつねさん1号、もう一度がんばってみましたがやはりダメなものはダメです。

「やっぱりダメだよ、千春ちゃん。届きそうもないよ」
「あ、そう。じゃあこれを使って」

そう言いながらきつねさん2号が取り出したのは1本の長い棒。
これならぶどうに届きそうです。
きつねさん2号、最初から出してくれればいいのに。

「なんだ、千春ちゃん。そんなのがあったなら早く出してくれればいいのに」

棒を受け取ったきつねさん1号、さっそく棒でぶどうを落とそうとしますが、そこできつねさん2号の待ったがかかります。

「なにやってるのよ山崎くん。そんなことしたらぶどうをいためちゃうじゃない」
「え? で、でも。それじゃあどうやって」
「きまってるでしょ。棒高跳びよ。体育の授業でやったじゃないの」
「え、えぇ〜〜? ぼ、棒高跳び〜〜?? こんなところで〜〜?」

なにかの冗談かと思ったきつねさん1号ですが、きつねさん2号の目、マジです。
冗談を言っているようには見えません。

「棒高跳びって、ここにはマットもないし〜〜」
「できないっていうの? わたしを好きって言ってくれたのはうそだったの? わたしのためならなんでもしてくれるんじゃなかったの?」
「あ、あはは……。ぼ、棒高跳びっていうのはね……」
「その昔、ヨーロッパの羊飼いたちが杖を使って川や柵を飛び越してたのが起源ね。それからだんだん川の幅や柵の高さを競いあうようになって今の競技に繋がっていったわ」
「く、詳しいね……」
「無駄口はもうけっこうよ! さあ! 早く!」

ありゃりゃ〜〜。
これはきつねさん2号、そうとうにおかんむりのようです。
きつねさん1号、悪気はないのですけれどしょうもないうそやハッタリをかますちょっとよくない癖がありまして、度々きつねさん2号を怒らせていました。
きっと、今回もなにかやらかしてきつねさん2号を怒らせてしまったのでしょうね。
きつねさん2号の厳しい口調と氷のような冷たい視線にきつねさん1号もようやくそれを悟ったようです。
しかし悟ったところでもう、どうしようもありません。
もはやこれまでと覚悟をきめて棒を構えます。

「え〜〜い、やぁっ!」

気合一閃、棒を付きたて飛び上がるきつねさん1号。

ぱしっ

見事、ぶどうを手にするのでした。
……が、当然のことならがその下にあるのは柔らかいマットではなく、冷たい地面。

どっし〜〜ん!!

すごい音をたてながら地面に激突!

「ち、千春ちゃん。とったよ」

それでもなんとか手にしたぶどうをきつねさん2号に差し出すところはさすがに男の子といったところでしょうか。

ですが。

一粒ちぎったぶどうを口にしたきつねさん2号でしたが、お口にあわなかったのかぺっと吐き捨てるとぶどうもぽいっと放り捨ててしまうのでした。

「やっぱりまだぶどうの季節には早いわね。さ、いきましょう山崎くん」
「ち、千春ちゃん……がくっ」

まったくの無駄骨折りの上にボッロボロになってしまったきつねさん1号。
彼がきつねさん2号の機嫌を取り戻すのにはそれからかなりの努力を必要としたそうです。

めでたしめでたし?

今回の教訓:
男性の献身はやはり報われない。
もしくはウソもほどほどに。

END


えろえろな話を書いていたはずなのになんでこうなった。

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