『BL(エリオル×小狼)』
(※この先も少年同士の同性愛的表現を全く含みませんのでご注意ください)
マズイ。
非常にマズイ。
あの日以来、クラスの女子のオレと山崎を見る目がオカシイ。
どうやら柳沢の書いた小説のせいらしい。
一応実名は伏せているが、「目の細い少年」と「狼」ではバレバレだ。
完全にオレと山崎は「そういう関係」だと誤解されている。
いや、別に誰にどう思われようとオレは気にならない。
問題なのは・・・
「なあ、さくら」
「なに?李くん」
・・・これだ。
あれ以来、オレの呼ばれ方は「小狼くん」から「李くん」に戻ってしまったのだ。
名前で呼び合う特別な関係は山崎に譲る、というさくらの気遣いらしい。
さくらカード編も終盤になろうというのに、この手戻りはあまりにもイタイ。
「いや、だからお前、この間のことは」
「大丈夫だよ、李くん。奈緒子ちゃんも言ってたけど最近は男の子同士のカップルも多いんだから!」
「だから、あれは・・・」
そこまで言いかけてオレは話をやめた。
クラス中の女子が聞き耳をたてている気配を感じたからだ。
特に奈緒子は視線は別の方を向いているが、全神経をこちらに集中しているのがわかる。
マンガだったら耳がダンボのごとく誇張されているところだろう。
「(お前のせいで・・・!!!)」
と文句の一つも言いたいところだが、本人の許可なくノートを盗み読んだという負い目もある。
それに、そもそも山崎のアホウな提案にのってしまった自分が悪いのだ。
奈緒子に文句をつける筋合いではない。
その山崎だが、こちらも気になる。
あれ以来、山崎と千春の仲も冷えきっており山崎がどんなウソをついても千春は無視!という厳しい状況が続いていた。
なのに、昨日から
「〜って言うのはね〜〜〜」
「ハイハイ!」
と、元の関係に戻っている。
どうにかして千春の誤解をといたらしい。
先週までは山崎がどんな説明をしても全く聞き入れる様子はなかった。
なのにいったい、どうやって?
是非ともその方法を聞きたいところだが、そもそも全てコイツが悪い!という思いもあって聞くに聞けない。
あまりの居心地の悪さに
「(くそ!こんな時こそ事件があればさくらの信頼が取り戻せるのに。クロウ・リードは何をやってるんだ!)」
などと死んだはずのご先祖様にまで愚痴をこぼしてしまう始末だ。
たしかにここで魔法がらみの事件を解決してみせれば、さくらに「二人だけの特別な関係」を再認識させることができるし信頼も取り戻せる。
クロウの気配があらわれるのを今か今かと待ち続けているのだが、何故かこういう時に限って何も起こらない。
(※エリオルがこの状況をおもしろがっているためです)
こういう時の頼みの綱、大道寺だが
「月城さんは桃矢さんと落ち着いて、李くんは脱落・・・
もう邪魔者はいませんわ!
これでさくらちゃんはわたしのものですわ!」
という邪悪なオーラを放っているのがわかる。
この機会にさくらを自分のものにしようとたくらんでいるらしい。
こいつもアテにできない。
「(このままじゃ埒があかない!なんとかしなきゃ!)」
このままでは大変にマズイ。
このままでは全てのカードを変え終わってもさくらに告白できない。
下手をすると桜の舞う中、山崎と抱き合って
「これからはずっと一緒だ」
〜カードキャプターさくら(完)
というエンディングを迎えることになりかねない。
なんとかさくらと二人きりになって誤解を解かなければ・・・
――――――――――――――――――――――――――――――
待つことしきり、ついにその機会が訪れた。
今日はさくらと二人で日直だ。
放課後になれば二人きりになれる。
オレは授業が終わるのをひたすらに待ち続けた。
そして放課後。
「(ようやく二人きりになれた!今こそさくらの誤解を解くんだ!)」
と意気込んでいたら意外にもさくらの方から話しかけてきた。
「ねぇ、李くん」
「(う・・・まだ『李くん』か・・・)な、なんだ?さくら」
「この間からゴメンね。わたし、李くんと山崎くんのこと誤解してたの」
「え?」
「あの時、李くんの『一番好きな人』は山崎くんなんだって思っちゃったの。でも、後で千春ちゃんからあの時のこと教えてもらったの」
「三原から?」
「うん!千春ちゃん、あの時なにがあったのか山崎君から聞いたんだって」
山崎から?
そうか、そういうことか。
山崎はちゃんと三原に説明して誤解を解いたんだな。
それがさくらにも伝わったのか。
「それにね。その時、李くんの『一番好きな人』も教えてもらったの!」
オレの一番好きな人?
それって、さくらか?
さくらのことだよな?
山崎・・・そこまで言ってくれたのか・・・オレのために・・・
ありがとう、山崎!やっぱりお前はオレの朋友(ポンヨウ)だ!
「李くんの一番好きな人って・・・」
ごくっ。
「エリオルくんでしょ?」
?
??
???
はぁ???
柊沢?
なんでそうなる???
「李くん、エリオルくんに告白したいけど男の子同士だと恥ずかしいからって・・・だから山崎くんが告白の練習台になってあげたんだって・・・ちゃんと教えてもらったよ!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
や、山崎〜〜〜〜〜〜!!!
謀ったなヤマザキ!!!
オレは全てを理解した。
真実を打ち明けても信じてもらえないと悟った山崎は得意のウソで三原を丸め込む手段に出たのだ。
オレをスケープゴート(生贄の羊)にして。
「なんでそうなるんだ!ちがう!オレが本当に好きなのはっ!」
ガシッ!
そこまで言いかけたところで背後から肩を掴まれた。
「誰だ!」
「李くん・・・」
「柊沢!?いつの間に?」
そんなバカな!?
教室にはさくらの他に誰もいなかったはずだ。
いや、今の今まで人の気配など全く感じなかった。
なんの気配も感じさせずにオレの背後をとるなんて。
コイツ、やっぱりただものじゃない!
「柊沢!お前、いったい何者なんだ!」
「知らなかった。貴方が僕のことをそんな風に想っていてくれたなんて」
「はぁ?」
ヤバイ。
なんかヤバイ。
本能が危険を知らせている。
それも極めて重大な危険だ。
「李くん。僕もこれから貴方を『小狼くん』とお呼びしていいですか?」
ぞわわわ〜〜〜っ!!!
ヤバイ。
ヤバすぎる!
山崎の時とは違う。
コイツ、目が本気(マジ)だ!
「よかったね、李くん!とってもお似合いだよ!
(な、泣いちゃだめ!泣いたり悲しい顔したら小狼くんを困らせちゃう!)
じゃあね!李くん、エリオルくん」
さくらは逃げるようにしてその場を離れた。
涙を抑えて走り去る少女。
それを見送る少年たち。
映画のワンシーンのように美しい光景だ。
当人たちのトンデモない誤解を除けば。
「さくら〜〜〜!待ってくれ〜〜〜さくらぁぁぁ〜〜〜!!!」
「李くん。いえ、小狼くん・・・」
「えぇぃっ、はなせ!(なんて力だ!こいつ、やっぱり・・・ってそんな場合じゃない!)
さくら〜〜〜!!!待ってくれ、さくらぁぁぁ〜〜〜!!!
なんでこうなるんだあああぁぁぁ〜〜〜!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――
その後に発表された奈緒子の新作、「眼鏡をかけた少年と狼」は眼鏡の少年の鬼畜な攻めの描写が新たなファン層を獲得したそうです。
END
「次回予告」
よかったね、小狼くん!
ちょっと突然だけどエリオルくんに告白できて、エリオルくんも小狼くんのこと好きだって言ってくれて。
本当にお似合いだよ!
でも・・・でも、やっぱりなんでかわからないけど、ちょっとだけ涙が出そうになるの。
小狼くんを応援しなくちゃいけないのに。
カードキャプターさくら
『さくらと小狼と桃矢(!?)と』
次回もさくらと一緒にレリーズ!(※次はありません。念のため)
当サイトは『カードキャプターさくら』の「木之本さくら」と「李小狼」のカップルを応援するサイト・・・のはずです。