『BL(エリオル×小狼)』


(※この先、少年同士の同性愛的表現を含みますので苦手な方はご遠慮ください)




















小狼は暗闇の中で目を覚ました。
あたりを見回すが何も見えない。
真の闇の中だ。
絨毯らしき敷物の上にうつぶせにころがされている。
両手は何か縄のようなもので縛られているようだ。
全く動かすことができない。

なぜこんな目にあっているのか。
誰の仕業なのか。
それははっきりしている。
エリオルだ。
さくらのことで相談したいことがある、と言われてエリオルの屋敷へ出向いた。
だが小狼はエリオルを信用していない。
小学生時代からエリオルに関わってとろくな目にあった記憶がない。
だからエリオルと向かい合っても油断せずに身構えていたつもりだった。

それが甘かった。

ふいに首筋に冷たいものを押し付けられ、あわてて振り返ろうとしたところで意識が途切れた。
気を失う寸前に針のようなものを持って微笑む女性が見えた。
こいつはたしか・・・ルビー・ムーン!
しまった、こいつがいるのを忘れていた!と思ったがもう遅い。
単純な能力では月をも凌ぐルビー・ムーンならば気配を消したまま小狼の背後を取ることも可能だったろう。
エリオルに気をとられすぎて従者たちのことを失念していたのはやはり油断というしかない。

(くそ!柊沢のやつ、何のつもりだ!)

悔し紛れに毒づくがこの状況ではどうにもならない。
そのまま10分もたったころだろうか。ふいに周りが明るくなった。
あわてて周囲の様子を確認する。
場所は・・・変わっていない?
気を失う前と同じエリオル邸の大広間のようだ。
ただ、テーブルは片付けられており広い部屋がやけにガランとした印象を受ける。
部屋にあるのは高価そうな椅子とその上に腰掛けて微笑むエリオルだけだった。

「気分はどうですか?李くん」
「柊沢・・・!」

身動き出来ぬ体の中でただ1箇所、自由に動かせる首を持ち上げてエリオルを睨みつける。

「ふふっ、怖い目ですね。でもその目・・・とってもそそりますよ」
「柊沢!これはいったい何の真似だ!」
「いえ、なにね。貴方と一度ゆっくりと話し合ってみたいと思いまして」
「オレと話だと?さくらのことで相談があるんじゃなかったのか!」
「勿論それもありますよ。ですが、その前に貴方と話したいこともあったんですよ。そうですね、まずその『柊沢』という呼び方はやめていただけませんか?僕達は他人という間柄ではありませんし『エリオル』と呼んでいただきたいのですが」
「それが用件か?『柊沢』!」
「いいですねその強がり。そんなところも好きですよ」
「好き?お前いったいなにを言ってる?・・・何をする気だ?やめろ!」

小狼の反論はエリオルの唇に封じられた。
さくらとも数えるほどしかしたことがない唇へのキス。
それをあろうことか男に奪われている。
誇り高き李一族の当主が同性の男に唇を奪われている。
目が眩むほどの屈辱。

(くっ・・・このっ!)
「?・・・ッッ!」

ふいにはじかれたようにエリオルが小狼から身を離した。
その唇の端から血が滴っている。
小狼に噛み千切られたのだ。

「ふん・・・」
「やってくれますね。ますます好きになってしまいそうですよ・・・」

ドゴォッ!

いきなり小狼の下腹部にエリオルの靴がめり込んだ。

「ぐっ・・・!」

いかに小狼が拳法の達人とはいえこの体勢ではどうにもできない。
苦鳴を漏らす小狼をエリオルはさらに蹴り付ける。

ドゴッ
ズグツ

柔らかいものを叩く不快な音が部屋に響く。
美麗な少年が淡々と、いや微笑みさえ浮かべながらもう一人の少年を蹴り続ける。
少年達が美麗なだけにかえって不気味な光景だ。
音が10を数えた時、ようやくエリオルは足を止めた。
つま先で小狼の顎を持ち上げて再び話しかける。

「すいませんね。本当はこんな真似はしたくないのですが。でも貴方が素直になってくれないのがいけないんですよ」
「これで終わりか?『柊沢』!だったらもう帰りたいんだがな!」
「本当に強情ですね。でも、これを見てもそう言っていられますか?」

そう言ってエリオルが懐から取り出したのは透明な瓶。
中にこれも透明な液体が満たされている。

「なんだ?それは」
「ソーマですよ。貴方もご存知でしょう?」
「ソーマだと!」
「さくらさんのことで話があるといったでしょう?さくらさん最近、魔力が安定していないようですね。ずいぶん苦しんでいるのではないですか?」

エリオルが言っているのは本当だ。
さくらは最近、魔力が安定していない。
思春期で急激に成長する体と魔力のバランスがとれていないのだ。
ここ2、3日も高熱を発して寝込んでいる。
小狼がアヤシイと思いながらもエリオルの誘いに応じたのはこのためだった。

ソーマ。
神々の雫。
今は絶滅してしまった植物から抽出された神秘の薬。
魔力や精神を安定させる作用があるという。
ソーマがあればさくらの苦しみを和らげることができる。

「柊沢!それをよこせ!」
「それが人にものを頼む態度ですか李くん。いえ、『小狼くん』?」
「・・・エリオル。それをオレに、いやさくらにくれ!頼む!」
「エリオル?呼び捨てですか?僕は貴方のご先祖様ですよ。それにふさわしい口のきき方があるのではないですか?」
「貴様・・・!」
「さくらさん、今日も寝込んでるそうですね。ケルベロスに聞きましたよ。うなされながら貴方の名前を呼んでるですってね。小狼くん、小狼くんって」

小狼はギリギリと歯を噛み締めた。
こいつの、こいつの言いなりにだけはなりたくない!
絶対に!
だが、

『小狼くん・・・小狼くん・・・』

熱にうなされて弱々しく自分を求めるさくらの声が小狼の中で響く。

・・・さくらを守る。
それがオレの全てだ。
たとえオレがどうなっても。

「・・・・・・」
「なんですか?よく聞こえませんね。もう少しはっきりと言ってくれませんか」
「エリオル様。どうかわたしにソーマをお譲りください・・・」

ついに小狼は卑劣な脅迫に屈した。
自分のことであればどんな脅迫にも苦痛にも耐えてみせる。
だが、さくらを助けるためには自分の誇りなどかまっていられない。
どんな辱めをうけようと。

「ようやく素直になってくれましたね。ご褒美ですよ」
「う・・・く・・・」

再び唇を奪われる。
今度はそれだけではすまない。
舌が口腔内に侵入してくる。
ぬちゃぬちゃと音をたてて舌を絡められる。
ようやくキスから解放された時、小狼は涙目になっていた。

(ふふふ・・・いい顔になってきましたね。お次は・・・)
「さて、今度は貴方からキスしてくれませんか」
「オレから・・・か」
「お返しのキスですよ。それくらいは当然でしょう?」

これもさくらのためだ・・・そう覚悟を決めてエリオルの顔に己の唇をよせる。
が、その瞬間にまたしてもエリオルの蹴りが小狼の無防備な腹を襲った。

「!?ごほっ!な、なにを!?」
「何を勘違いしているんですか。貴方からのキスはここへですよ」

示された「ここ」はエリオルの革靴の爪先。
これ以上はないくらいに惨めなキス。
服従の証のキス。
さすがに躊躇する小狼にトドメの一撃が加えられた。

「どうしました?さくらさんを助けたくないのですか?」

悔しい。
惨めすぎる。
だが、どうにもできない。さくらを助けるためには・・・
小狼は目をつぶり震えながらエリオルの爪先にキスを落とした。
屈辱の涙が小狼の頬をつたう。



そこへ

「エリオル〜準備できたよ〜〜〜」

場違いなほど能天気な声を響かせながら奈久留が部屋に入ってきた。
いびつで卑猥な形をした器具を満載したワゴンを押している。
何の知識がなくても一目でまともな用途に使うものではないとわかる。
まさか、あれをオレに使うつもりか?
いや、それよりも奈久留が手にしている見覚えのある物体。
アレはまさか・・・?

「そのカメラはまさか大道寺の・・・?」
「そう、知世ちゃんから借りてきたの!小狼くんを写すっていったら喜んで貸してくれたよ〜〜〜」

奈久留の返事を聞いて小狼の顔が青ざめた。
さくらの勇姿を撮り続けたビデオカメラ。
あれで自分の痴態を撮るつもりなのだ!
もちろんエリオルがそれだけで済ませるわけがない。
知世やさくらに見せるつもりだろう。
淫らな器具でエリオルに弄ばれる自分の姿を。

「やめろ・・・やめてくれ、それだけは勘弁してくれ・・・」
「や〜ん、かっわいい〜〜〜。女の子みたい〜〜〜」
「そう、その顔ですよ。貴方にはその泣き顔がよく似合っていますよ。では始めましょうか。撮影の方はよろしくお願いしますよ」
「おっけ〜〜〜。ま〜かせといてよエリオル!」
「いやだ・・・やめて・・・やめてくれ・・・」

子犬のように震えて哀願する少年に2匹の淫魔がにじりよる。

そして・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


――――――――――――――――――――――――――――――


「なにを読んでるんだ、さくら?」
「ほ、ほえ!?しゃ、小狼くんいつのまに戻ってきたの?」
「何をそんなに驚いてるんだ。さっきから声をかけてるのに全然気づかないで。そんなに熱心にいったい何を読んでるんだ」
「こ、これ?えっと、その、恋愛小説なの。あ、女の子向けだから小狼くんが読んでも面白くないよ!」
「そうなのか?まあいいけど」
「そうだよ!(あ〜びっくりした〜〜〜)」

さくらがあわてるのも無理はない。
さくらが読んでいた「女の子向けの恋愛小説」の正体は「BL小説」だからだ。
さすがにそんなものを読んでいるところを恋人には見られたくないだろう。
しかも、そのタイトルは「眼鏡をかけた少年と狼」。
奈緒子がエリオルと小狼をモデルにして作成したBL小説だ。
魔法についての知識は知世の入れ知恵だろう。
小狼が買い物に行っている間にちょっと読むだけのつもりだったのだが、あまりにハードな内容についつい引き込まれてしまい、小狼が帰ってきたのも気づかなかった。

(あ〜あぶなかった〜〜〜。でも奈緒子ちゃん、本当にお話考えるのが上手いよね〜〜〜特にこの小狼くんがいじめられるところ・・・)

そういえばこれまで小狼が泣いたところなど見たことがない。
さくらの前ではいつもキリッとしてかっこいい小狼。
いったい、どんな顔で泣くんだろう。
奈緒子の小説のように淫靡な泣き顔を見せてくれるんだろうか?
見たい。
見てみたい・・・

(そうだ!あのカードを使えば!)

なにやら思いついたらしいさくらが取り出したのは2枚のカード。
『眠(スリープ)』に『夢(ドリーム)』。
カードを手にするさくらの顔にエリオルにも劣らぬアヤシイ笑みが浮かぶ。

(『眠』で眠らせてから『夢』でさっきのお話の夢を見てもらえば・・・うふふ、小狼くんどんな顔してくれるのかな〜〜〜)

「星の力を秘めし鍵よ真の姿を示せ。契約のもとさくらが命じる・・・」

小狼、ピンチ!

END


小狼誕生日企画(小狼イジめ企画?)
「HoneyHoneyTrapBirthDay」
発足記念。

実はこの話、冬コミで見つけたエリオル×小狼の同人誌に触発されて書いたものです。
(サイトはこちら。もちろん同人誌もサイトも18禁ではありませんので念のため)
1月ごろ書いたのですが、ツバサの悲壮な展開に引きずられてなかなか掲載するチャンスがなかったものです。

いい機会?だったので掲載しました。

ですが「HoneyHoneyTrapBirthDay」
「お誕生日だから美味しい思い(さくらちゃんとイチャイチャ)はさせてあげるけど、どっこいオチがあるよ〜」
って・・・
ゲェー!先週アップした「新月の恋人たち」がコンセプトかぶってるーーー!
しまった、この企画用にとっておけばよかった・・・

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