『BL(山崎×小狼)』


(※この先、少年同士の同性愛的表現を全く含みませんのでご注意ください)



「奈緒子ちゃん、なに読んでるの?」

さくらが声をかけたのはお友達グループの一人、奈緒子だ。
お昼休みが始まってからずっと熱心に本を読んでいる。
小説好きの奈緒子にしてはめずらしくマンガを読んでいるらしい。
あまりにも熱心に読んでいるのも気になったが、それよりも本を読んでいる奈緒子がなにやら妙な表情をするのが気になっていた。
時折、顔を赤らめたかと思えば、「クスリ」というか「ニヤリ」というか微妙な笑いを浮かべるのである。

「ホントにさっきから熱心に読んでるけど、何の本?」

一緒にいた千春も気になったのか声をかけてきた。
二人に声をかけられてようやく奈緒子は顔を上げる。

・・・が。
その顔にはなにやら「妖気」とでもいうものが漂っている。
この場に知世がいれば何か注意をしたのであろうが、いつものメンバーは席を外しており、ここにいるのはさくら、千春、奈緒子の3人だけだった。

「あ、さくらちゃん。千春ちゃん。なに?」

読書に熱心なあまり質問の内容が耳に入っていなかったらしい。

「ん〜もう、奈緒子ちゃん話を聞いてなかったの?そんなに熱心になんの本を読んでるのかな〜って聞いたの」
「え?あ、この本?この本は・・・え〜と、ちょっとね」

なぜかえらく歯切れが悪い。
知世であればこの時点で質問を打ち切った方がよいと判断できるが、さくらと千春にはそこまでの深読みはできない。

「な〜に?いったいどんな本なの?ちょっと見せてよ」

っと言って千春は奈緒子の手から本を取り上げてしまった。

「え〜と・・・『ご主人様と執事様』?ずいぶん変わったタイトルのマンガね」
「どんな本?わたしにも見せて」

パラパラパラ・・・

「あ、さくらちゃんは読まない方が・・・」

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
さくら・千春「・・・・・・・・・(汗)」

ほ、ほえ〜〜〜〜〜〜!!!この本、男の子同士でキスしてるよ〜〜〜!!!」

そう、奈緒子が読んでいたのはBL(ボーイズ・ラブ)マンガだったのである・・・

「こ、こんなの・・・男の子同士で・・・きゃ〜〜〜!!!」

黄色い悲鳴をあげる千春。
だが、視線はしっかりと本に釘付けである。
さくらも手で顔を覆って「ほえ〜〜〜」を連発しているが、指の隙間からちゃっかり覗いている。

「今、こういうマンガがすっごく流行ってるんだよ!本屋に行くといっぱい売ってるんだよ!」

たしかにすごく流行っている。
だが、断じて小学生が読むものではない。

「で、でも・・・その、なんていうか男の子同士なんて変じゃないの?」
「そんなことないよ〜。ほら、テレビで人気の『がんだむ』だってキレイな男の子がいっぱい出てくるでしょ?」
「そ、そうかもしれないけど・・・?」
「あれはキレイな男の同士でキスとか、いろんなことするのが人気だからなのよ!」
「ほんとなの???」
「ホントよ!それにね。このあいだ新聞にも出てたけど、日本の男子学生の42%は男の子同士でキスしたことがあるし、55%は男の子を好きになってことがあるんだって!」
「ほえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

もちろんウソだ。
少し考えればわかりそうなものだが、さくらには兄の桃矢と雪兎という実例がある。
千春はさすがに半信半疑のようだが、
「(そういえば山崎くん最近、李くんか柊沢くんと一緒にいることが多いのよね・・・まさか?)」
と考え始めてしまった。
モンモンとする二人を前にさらに奈緒子の演説が続く。

「それでね〜。わたしも男の子同士の恋愛小説を書き始めてみたの!ちょうどいいからさくらちゃんと千春ちゃんで読んでみてくれない?・・・って、あれ?」
「どうしたの?」
「おかしいな。ランドセルの中に入れてたはずなんだけど?どこかで落っことしちゃったかな?」

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ところ変わって校舎裏。
小狼は山崎と二人で弁当を食べていた。
今日は男子と女子でお昼の時間が合わなかったためだ。
弁当も食べ終わり、教室に戻ろうかというところで小狼は『それ』を見つけてしまった。

「ん?」
「どうしたの李くん?」
「こんなところにノートが落ちてるぞ」
「ホントだ」
「『柳沢 奈緒子』って柳沢のか」
「そういえば奈緒子ちゃん、よくここで小説を書いてたね」
「小説?そういえば、あいつ小説家になりたいとか言ってたな」

見るとノートには女の子らしい丸い文字でびっしりと文章が書いてある。
学習用のノートではないようだ。

「ねぇ、李くん。どんな小説を書いてるのかちょっと見てみない?」
「いいのか?柳沢に無断で」
「奈緒子ちゃん小説家志望だもん、今から作品を人に見てもらうのもいいんじゃない?」
「そんなものか?」

本人の断り無しに読むのは気が引けたが、結局、山崎の誘惑に負けて二人で読み始めてしまった。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

「・・・おい。この小説って・・・」
「・・・僕たちがモデルみたいだね」

奈緒子のノートには香港からの留学生「小龍」と目の細い少年「タカシ」の熱いラブ・ストーリーが綴られていた。
誰がモデルかは言うまでもない。

「あいつ、いったい何を考えてるんだ!」
「あははは〜。最近、女の子たちの中でこういうのが流行ってるらしいよ〜」
「だからって、なんで俺たちが!」
「だって、李くん。この間まで月城さんだっけ?木之本さんのお兄さんのお友達が好きだったんでしょ?」
「(かあああぁぁぁ〜〜〜)な、なんでそれを!」
「見てればわかるよ」

(まっ赤になっちゃって。ほんとうに可愛いなあ、李くんは。眉毛がもう少し細かったら女の子みたいだしね。もうちょっと、いじめてみようかな〜〜〜?)

「ねぇ、李くん。ちょっとこの小説の通りにしてみない?」
「な!?なにを言ってるんだ!お前までおかしくなったのか!?」
「いや〜奈緒子ちゃんの小説、あんまりよく出来てるんでちょっとね〜。特にほら、この二人が別れるシーンなんかよく書けてるよね〜〜〜」
「たしかによく書けてるけど・・・」

たしかに奈緒子の小説は良くできている。
特に「小龍」が香港に帰らなければならなくなり、二人が別離を惜しむシーンの描写は圧巻だ。
小狼はその「小龍」の姿をいつか香港に帰らなければならない自分に重ねてしまい、山崎の提案にのってしまった。
(あいかわらずその場の雰囲気に流されやすい少年です)


「山崎・・・オレはお前のことが・・・」
「やだなぁ『小龍』くん。僕のことも名前で呼んでよ」
「タカシ・・・」

そしてキス(のふり)をする二人・・・


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『ガサッ』

アホウな寸劇に気をとられていた二人は、背後からの物音に振り返った。
そこにはお約束通りにさくら・千春・奈緒子の3人が立っていた。
ノートを探してここまでやってきたらしい。


(しまったぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!よりによってさくらに見られるなんて!!!)
(千春ちゃん・・・やばっ・・・)


「さ、さくら、あの・・・えっと、これは・・・」
「そうなんだ・・・小狼くんの『一番好きな人』って・・・山崎くんだったんだ・・・」
「いや、ちがう!ちがうんだ、さくら!これは・・・」
「ううん!いいの。山崎くん、物知りだし、スポーツもできるし(ポロポロ)・・・・・・あれ?やだ、なんでわたし泣いてるんだろ。なんで・・・うぅっ!」

「千春ちゃん、えっとね、キスっていうのはね」
信じてたのに・・・どんなにウソをついてもわたしのこと好きだって言ってくれたのは本当だって・・・信じてたのにっ!」

だ〜〜〜〜〜〜〜っ!
泣きながら走り去るさくら・千春。

「さくら〜〜〜〜〜〜!ちがうんだ、待ってくれ〜〜〜!!!」
「千春ちゃ〜〜〜ん、待ってよ〜〜〜〜〜〜」

あわてて後を追う小狼・山崎。
そして最後に残された奈緒子は

「スゴイ!やっぱりあの二人できてたんだ!二人の物語、もっと書かなくちゃ!」

とんでもない結論に達していた・・・

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こうして完成した奈緒子の作品、「目の細い少年と狼」は同級生のみならず下級生、上級生まで含めた同好の士から絶大な好評を博したそうです。

END


「次回予告」

そうなんだ。
小狼くんの「一番好きな人」って山崎くんだったんだね!
小狼くん今までわたしのこといっぱい助けてくれたもん、今度はわたしが小狼くんの恋を応援しなくちゃ!
でも、なんでかな?
なんでかわからないけど涙が出てくるの。
なんで・・・?
ううん、泣いちゃダメ!
泣いちゃダメだって小狼くん教えてくれたもん!

カードキャプターさくら
『さくらと小狼とエリオル(!?)と』

次回もさくらと一緒にレリーズ!


CCさくらでBLというとエリオル×小狼でしょうが、当サイトでは山崎×小狼を推します。
でも次は「BL(エリオル×小狼)」に続きます。

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おまけ(※R指定+BLなのでご注意)