『4月1日生まれは?』


小狼は目の前の光景に少しだけ困惑していた。

(さくらのやつ、胸をどうにかしちゃったのか?)

今、彼の目の前には一人の少女が横たわっている。
木之本さくら。小狼にとって己の命よりも大切な人だ。
それが身に何もつけていない、生まれたままの姿で真っ白いシーツの上に横たわっている。
夕暮れの迫るこの時間、部屋は少し暗くなっているが、少女の肌の白さを隠すほどではない。
羞恥に染まる頬も、緊張のためかかすかに震える肩も、なだらかな下腹も、和毛に縁取られた秘密の箇所も・・・その全てが余すことなく彼の目に映っている。

両手で隠された胸のふくらみ以外は。

もちろん、男の子の前で胸を隠すという行為自体に不思議なところはない。
肌を重ねあう仲となった今でも、明るい場所で身体を見せてもらったのはまだ片手で数えられる程度だ。
いくら恋人同士だといっても、やはり明るい部屋で全てを見られるというのは恥ずかしいだろう。
恥じらいで胸を隠すというのはわからないでもない。

しかし、今のさくらは全裸だ。
女の子にとって胸よりも恥ずかしいところを晒しているのに、そちらは隠そうとしていない。見られて恥ずかしいと言ったらそっちの方が恥ずかしいはずだ。
それに、胸の隠し方も少しおかしい。
これまでも胸を隠すことはあったけど、それは本当に軽く手を添えるだけで、まるで小狼に引き剥がされるのを待っているかのような隠し方だった。
なのに、今日は両手をガッシリというの似合うくらいに固く胸に巻きつけて隠している。
絶対に胸を見せないと言わんばかりの隠し方だ。

最初のうちはまあ、そんな日もあるのかと軽く考えていた小狼だったが、胸を隠すさくらの手に予想以上の力がこもっているのがわかった時にはちょっと面食らった。
思いっきり力が入っている。ちょっとやそっとでは離しそうにない。
何が何でも胸を隠したいらしい。

ひょっとして今日はさくらに拒否されてるのか?
オレ、さくらを怒らせるようなことしちゃったのか?
とも思ったのだが、さくらの表情からは嫌悪の感情は読み取れない。
いつもと同じように、ウットリとした顔で小狼の愛撫を待ちわびている。
試しに大事なところへ軽くキスをしてみたら、可愛らしい声をあげて身をよじってくれた。
そのまま秘所への愛撫を続けると、そこはすぐに温み始める。
無論、小狼を受け入れるためにだ。
けっして拒否はされていない。

ならば何故?
胸に何か悪いデキモノでもあるのか?
さすがに気になった小狼はさくらに問いただしてみた。

「なあ、さくら。胸をどうにかしたのか?」
「え、なんのこと?」
「お前、さっきからずっと胸を隠しっぱなしじゃないか。何かよくないモノでもできちゃったのか?」
「特にそういうことはないけど」
「じゃあ、なんでそんなに胸を隠してるんだ」
「う・・・それはその・・・ほ、ほら!やっぱり明るいところで見られるのは恥ずかしいから」

アヤシイ。
たしかに恥ずかしいだろうけど、胸よりも恥ずかしいところをこうまで自由にさせておきながら胸だけ隠すというのは変だ。
絶対に何か隠してる。

「お前、何か隠してるな?胸を見られたくない理由があるんだな」
「そ、そんなことないよ!」
「ウソだな。お前のウソはすぐわかる。悪いが確めさせてもらうぞ」
「小狼くん!?そんな、無理やりってひどい・・・ほ、ほぇぇぇ〜〜〜!!」

小狼はさくらをベッドに押し付けると、力ずくでその手を胸から引き剥がした。
女の子を無理やりというのは問題のある行動だが、ただの好奇心でやっているわけではない。小狼がこんなことをするのはそれなりの理由がある。

さくらの身体はただの女の子のそれとは違う。
比類なき強力な魔力を秘めた特別な身体だ。
魔力の影響で身体の一部に異常をきたすというのは十分にありえる。
それが女の子にとって恥ずかしい部位で、人に相談できずに悩んでいる可能性もある。

そこまで考えての行動だったが、あらわにされたさくらの胸はいつもと全く変わらないものだった。
小振りだが形のいいふくらみも、上品な陶器のような白さも、その頂点にあるピンク色の突起も何一つ変わったところはない。
いつも通り、いや、いつ見ても慣れることのない素晴らしい胸だ。
どこにも異常は見当たらない。

「たしかに、おかしなところは無いみたいだな」
「ね、ね、そうでしょ。もういいでしょ?」

そう言いながらもさくらは再び胸を隠そうとする。
やっぱりアヤシイ。なにかある。

「おかしなところが無いのはわかったけど、だったらなんでそんなに胸を隠すんだ。いつもはちゃんと見せてくれるのに」
「だって・・・」
「だって、なんだ。誰かに何か言われたのか?」
「ううん。あのね、ほら・・・わたしの胸って小さいでしょ」

さくらの答えに小狼は再び面食らった。
たしかに、さくらの胸は少しばかり小振りだ。
知世や利佳と並んで歩いているとハッキリそれがわかる。
でも、それは昨日、今日始まった話じゃない。
急に胸を隠すようになった説明にはなってない。

「それはいつものことだろ。なんで今日はそんなに気にしてるんだ」
「あ〜〜〜、やっぱり小狼くんもわたしの胸が小さいって思ってたんだ!」
「あ、いや・・・ゴメン。でも、ホントにどうして今日に限ってそんなに気にするんだ。やっぱり何かあったのか」
「そうじゃないけど。その、わたしの誕生日って4月1日でしょ」

誕生日?
意表をついた答えに小狼の困惑はますます深くなる。
たしかにさくらの誕生日は4月1日で、つい最近に迎えたばかりだ。
こうして二人で逢瀬を交わしているのも、ちょっと遅めの誕生日祝いを兼ねてのことだ。
しかし、それと胸の大きさに何の関係があるのだろうか。

「誕生日?誕生日と胸の大きさに何か関係があるのか」
「関係あるよ!だって、知世ちゃんは9月生まれでしょ。わたしより半年以上も早いんだよ。利佳ちゃんとはもっと離れてるんだよ」
「それで?」
「それで、その・・・あの二人、胸がすっごくおっきいでしょ?やっぱり半年以上差があると胸の成長にもこんなに差が出ちゃうのかな〜って。そう思ったら、胸が小さいのが恥ずかしくなっちゃって・・・はぅぅぅ〜〜〜」

なるほど。
そういうことだったのか。
さくらが胸を隠す理由はわかったものの、なんとも見当外れなさくらの告白に小狼はため息をついた。
どうやら、女の子と男の子では考え方に大きな違いがあるらしい。
女の子には『男の子は胸が大きい女の子が好き』という思い込みがあるみたいだ。
でも、実際には女の子が思うほどに男の子は胸の大きさは気にしていない。
小狼もさほどに気にかけたことはない。
胸とか腰とか、そんなところじゃなくて女の子自身の魅力に男の子は惹かれる。
実際、男子グループの中でさくらの人気は知世や利佳よりも上だ。
胸の大きさなんかよりも、さくら自身の魅力が男の子たちを惹きつけているのだ。
それが小狼にとって大きな悩みの種になっているのだが、それを今、さくらに説明しても理解してもらえなさそうだ。
なので、説明の言葉の代わりに胸に優しくキスを落としてあげた。

びくっ!

唇が触れるだけの軽いキスに、さくらの身体は敏感に反応する。
まったく。
こんな可愛い反応を見せる胸を好きにならない男なんかいるわけがない。

「あ・・・ダメ・・・小狼くん・・・お願いだから、今日は胸はかんべんして・・・」
「どうしてだ?こんなに綺麗なのに。オレは好きだよ。さくらの胸が」
「だって、こんなに小さいんだよ。利佳ちゃんみたいにおっきくないよ。男の子は大きな胸が好きなんじゃないの?」
「大きさなんか関係ないよ。オレはさくらの胸が好きなんだ。さくらの胸だから好きなんだ。どんなに小さくてもさくらの胸ならオレは大好きになれるよ」
「小狼くんって、ひょっとして貧乳派?」
「・・・お前、意味分かって言ってるか?」
「知世ちゃんが教えてくれたの。世の中にはおっぱいが小さい方が好きな男の人もいるって。小狼くんがそうなの?」
「やれやれだな。違うよ。オレは貧乳派でも巨乳好きでもない。オレがスキなのは・・・」
「好きなのは?」
「さくらの胸だけさ」
「小狼くん・・・。あ・・・あぁ・・・」

そう、大きさなんか関係ない。
自分が好きなのは『さくら』なのだから。
自分が愛したいのはさくらの、愛する人の胸だけなのだから。
だけど、そんな自分の想いはこの女の子には伝わってなかったみたいだ。
それはきっと、愛し方が足りなかったから。
だからたっぷりと愛してあげなければならない。
この可愛い胸を。自分の想いが伝わるように。
この小さな胸が、自分の想いでいっぱいにふくらむまで・・・

END

オチ編


かなり遅れてオタオメ話です。
ちょっと誕生日話になっているかは微妙になってしまいました。

元ネタは他のサイト様のさくらオタオメ作品です。
「4月1日から1日でも遅く生まれてたらみんなと一緒の学年になれなかった」
というお話を見て思いつきました。
さくらの誕生日は4月1日ですが、4月1日生まれの子は前の年の子と同じ学年になるのですね。
自分、しばらくそれに気づかず、さくらは小狼や知世よりも早く生まれたと勘違いしていました。

小学生だと1年の成長の差はかなりあるので、4月1日生まれは体力的にかなり不利になると思いますが、実際のところどうなんでしょうか。
劇中のさくらはむしろ、他のキャラ以上の体力を見せつけていましたが・・・?

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