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第二話「接触」 TAKE 5

「……おい! しっかりしたまえ!」

誰かが呼んでいる……

頬を軽く叩かれ、僕はうっすらと眼を開けた。
ぼんやりとした視界に浮かぶのは二つの影……

一人は髪の長い女性と……
もう一人は……

ちらちらちら……

街灯の灯りに浮かび上がる銀色の髪……

「か、かいと、う、……?」

怪盗×M……?

「ど……して……ここ、に……?」
「寝ぼけているのかね……?」

呆れたような低音の声に、ふと違和感を覚える。
ぼんやりする眼をしばたき、もう一度良く目を凝らすとだんだん焦点が定まってきた。

「…………!! あ、あなたは!?」
「やれやれ、やっと気が付いたようだな」

怜悧な瞳の男が苦笑を漏らして僕を見下ろしていた。
その反対側の方からもう一人、髪の長い女性が幾分ホッとしたような顔で僕を覗き込んでいた。

「大丈夫ですか……?」

少し高い柔らかめの声が心地良く僕の耳をうつ。
僕は大丈夫だと主張するように微笑んで見せた。

「ええ、僕は……貴女の方こそお怪我は……?」
「おかげさまで……ありがとうございます」

そう言ってその人は微笑んだ。
その笑みに、僕は唐突に相手が美人であることに気が付く。

「あ……いや……」

僕は顔が真っ赤になりそうになりながら、ついしどろもどろになってしまう。

「お礼は……その人に……」

実際自分はこの人を危険な目に遭わせる所だったのだ。

お礼を言うなら……

しかし銀髪の男は既に僕達の傍から離れ、人攫い達を連行して行く警官たちと何か話していた。
赤いランプが忙しなく明滅しているところからすると、既にパトカーがここら辺りを包囲しているらしい。
あちらこちらで聞こえてくる喧騒も耳に入り始める。

と言う事は、僕は少しばかり気を失ってたんだろうか……

このまま地面に倒れっぱなしと言うのもカッコが付かない。
だんだん意識がはっきりとしてくると同時に僕は言いしれない羞恥心に襲われ、身体を起こそうとした。

途端に身体中に走る激痛――――

「ツッ!」
「! ダメよ! まだ無理しちゃ……!」

女性が驚いて声を上げる。
その声に気付いたのか、銀髪の男が振り返った。

「……気が付いたはいいが、まだ動くな。救急車は手配してある」

こちらを一瞥してからそう言うと、更に警官と2、3言交わして僕達の方へと戻ってきた。

「かなり殴られたようだな。じっとしていたまえ」
「いえ、もう大丈夫です……これが有ったから」

言って僕は着ていたスーツの裾をめくる。
その下に着込んでいたのは防刃用のチョッキだった。
これもまた有事の為に支給されていたものだ。

これのおかげで幾分かの衝撃は和らげられていた……はずだ。
しかし男は首を振ると、フッと笑った。

「確かに幾分かは違うだろうがな……」

……見抜かれている。
僕の強がりを完璧に……

よく見れば僕と大して齢も違わない感じだってのに!!

僕は何となく悔しくなって、話題を変えるべくもっとも聞きたい事を口にした。

「それよりも、あなたは……警察、……ですか?」

少なくとも、僕の所属する1課にこんな刑事はいない。
確かに所轄の刑事全員の顔を知っているわけではない。
にしても、こんなに目立つ男ならば何かしら記憶の隅にでも引っかかって良そうなものなんだけど……

それにこの男の物腰は少し違うような気がする……

さっき、僕にこの男は、暗に自分が警察関係者であることを仄めかした……
そう思ってたんだけど……

「関係者……と言えばそうなるな……」

含むような笑いを男がして見せ、自分の着ていた上着を脱ぎ、僕の上に掛けた。
そしてそのまま起きようともがく僕の上体を抱き起す。

いやいやいや!

それって普通女性にするもんでしょ!!??

僕が突っ込みを入れようとしたその時――

「成歩堂くん!」
「罪門、検事!」

声のした方に眼をやると、直人検事がこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。

「……無事かい!? 成歩堂くん!」

慌ててきたのか、少しばかり息が切れている。

「はい、僕は大丈夫です……すみません、勝手をやってしまって……」
「そんなことは良いんだよ。でも、無茶したみたいだね……」
「…………」

僕は言い訳できずに黙り込んでしまった。

今思えば無茶だらけだったとも思う。
でも、初めにあの少女の悲鳴を聞いたとき、僕はもう、じっとしてられなかっ……

「……あっ!」

そう言えば……!

僕はもう一つの極めて大事な事を思い出し、声を上げた。

「あの子……あの女の子は……!?」
「それは心配ない……少女は無事に保護してある」

意外にもそれに応えたのは銀髪の男で……

「今、警察署にいるよ。怪我もしてないから安心して」

補足したのは直人検事だった。
そのままにっこりと笑い、僕に頷いて見せる。

「そうですか……」

良かった……

気が抜けた瞬間、身体中の力までが抜けてしまう。
不本意ながら僕の身体は男の腕に預けられる形になってしまった。

「それにしても助かったよ、レイジ君」

僕の状態を確認し、その眼を男の方に向けて直人検事がにこっと笑った。

れいじ……
それがこの人の名前なんだ……

「悪かったね、帰国早々だったのに……」
「いえ……問題ありません」

レイジと呼ばれた男は薄く笑うと、

「私の方にも関係してましたからね」

そう言いつつ、銀糸の髪を掻き上げた。

遠くから独特のサイレンの音が聞こえてくる。

「どうやら救急車が着いたようだな」

呟く声はレイジのものか……
聴こえる音が遠くなり、目の前まで霞んでいく……

「……! 急がないとまずいね」

直人検事の声が聴こえ、隊員を呼ぶ声が続いた。

「…………う」

何とか眼を開こうとするけど、僕の身体はいつの間にかそれすらも出来なくなっていた。

「もういい……休みたまえ」

低い声音が柔らかい色を帯びて僕の耳に届く。

「よくやったな……成歩堂刑事……」

幻聴だったのか、どうだったのか……

その声を最後に僕の意識は途切れてしまった……

 
「マッタク……無様ね、成歩堂龍一」
「は、はい、モウシワケありません……」

身に染みて反省してます……

僕は病院のベッドの上で小さく縮こまっていた。

(あ~あ、外はこんなにいい天気だってのに……)

今にも落雷が起こりそうだ……

モチロン、発生源は狩魔検事……落ちる先は僕だ。

僕が入院して今日で二日目、昨日は随分と静かだったのに……
って言うか、あまり起きてなかったな……

結局、あの後すぐに僕は病院で手当てを受けて、そのまま入院ってことになってしまった。
思ったよりもやられちゃってたらしい。
でも幸い骨とかには異常も無くて、大人しくしていればすぐに退院できそうだ。

あちこちに出来た打ち身の跡はまだ少し痛むけど、もう動けないほどじゃない。

でも、無様なのは無様だよな……

助けに来てくれたレイジと言う男は全く無傷(しかも僕よりはるかに闘って!!)だったって言うのに、
僕の方ときたら……
ボコられて、現場で気を失って、挙句の果てに入院だし……

何なんだろ、この差……

その上に狩魔検事の雷では、泣くに泣けない。

そう思ってしょげかえりながらお小言を待っていた僕に、
しかし狩魔検事は意外にもキュッと唇を引き結び、視線を逸らした。

「…………? 狩魔、検事?」
「ホンットに……バカなんだから……でも……」

後の言葉が掠れて消える。
狩魔検事の唇が微かに震えていた。

「え……と……」

今一つ意味が解らず、僕は何と声を掛けるべきか迷ってしまう。
と、不意に狩魔検事がキッと僕を見据えた。

こ、怖ェェェェ!!

「良い事、成歩堂龍一。二度とこのような事が起こらない様、もう一度特訓よ!」

言ってるその手の鞭が振り下ろされんばかりに軋む。

いやいやいや! だからここは病院ですから!!

僕は心の中で悲鳴を上げつつも、心のどこかでホッとしたりもしていた。
やっぱり、狩魔検事はこっちの方がらしいや……怖いけれども。

でも、ちょっと待てよ……?

「あなたの特訓プログラムをもう一度見直すわ」
「いやいやいや! なんでそうなるんですか!!??」
「あら、私のプログラムでは不満かしら?」
「って言うか、そうじゃなくって! なんで狩魔検事が僕みたいな新米に……!」
「そんなの決まってるでしょ?」

僕の鼻先に鞭の柄をビシッと突きつけ、狩魔検事はニヤリと笑った。

「狩魔は完璧を持って良しとする……私の部下は完璧でなければならないのよ」

うわあああああああ…………………

あんまりにも強引すぎる理屈(?)に突っ込みも追いつかないッッッ!!

「取り敢えず、私が居ない間にもう少し強くなっておきなさい」

頭を抱える僕の頭上から降ってきた言葉に、僕は思わず顔を上げる。

「…………へ?」

私が居ない間……?

口元だけを笑みの形に歪める狩魔検事を凝視する。

「どこかに……出張、ですか?」
「しばらくヨーロッパへ……ね」

そう言えば、今日は随分大きなボストンバッグを持って来ているな……

僕の眼がバッグに向かったのを察知したように、狩魔検事はバッグを開け、奥から何かを取り出した。

頑丈そうな綺麗な箱……
その大きさに何となく覚えがあるような……

「この娘を連れて帰るのよ……」

そう言って僕に向かって箱のふたを開ける。

「……!」

その中にはあの女神像が丁寧に納められていた。

「じゃあ、鑑定の結果が……!?」

僕の問いに、狩魔検事は頷く。

「間違いなく本物……件の女神像だったわ。
持ち主が返還を『申し出て』きたからこれから私が『返し』に行くのよ」

その口元の笑みが皮肉の色を交える。

『申し出て』きたって……
そこの所も怪しいもんだよな……

でも、これで、やっと『帰れ』るんだ……

(良かったね……)

僕は動かない像に微笑みかけた。

箱の中の女神は明るい光の中で、穏やかな微笑みを浮かべていた……

 
おまけ――
 
「よくも私の龍一を危険な目に遭わせてくれたわね……(ギシリ)」
「(うわ、怖いねえ)まあ、落ち着いて、冥ちゃん」
「覚悟は出来てるわね? 直人?(鞭を構え)」
「気持ちは解るけどさ(いろいろと)、でも成歩堂くんにも経験が必要だし、
でも、見事に引き当てちゃったよね~……
まさかあの時間にあんな連中に出くわすなんて(あはは)」
「笑い事じゃないわよ!! 彼のピンチ体質を甘く見ないでちょうだい!!(ギロリ)」
「(あわあわ)うん、期待してたのもあるけど今回は反省するよ。
手は打っていたとはいえちょっと危なかったかも……」
「命だけでなく、貞操もね……(ぼそり)」
「……え?(???)」
「……と、とにかくッ! あの連中にキッチリ落とし前付けさせないと承知しないわよ!
(顔真っ赤にしながら鞭を一発)」
「(なるほど、そう言う事ね)了解……
言われなくても……ね(帽子のつば引き下げ)」
「それともう一つ……(ギシッ)」
「な、何かな……?(ヒヤリ)」
「あなたも、手を出したりしたらどうなるか……いいこと?」
「あはは、肝に銘じておくよ(……一応ね)」
 
チャンチャン♪
 



次回予告
 
御「うぬぬっ、矢張ッ!! 私の成歩堂と同じ車に乗るとは……
許せんッ!!(ギリリリリリッッ!!)」
矢「ンなこと言いたってよォ? 仕方ねえじゃん? 成歩堂免許持ってねえしさ。
役得よ、ヤ、ク、ト、ク♪(ニヤニヤ)」
御「(き、キモッッ!!)何が、ヤ、ク、ト、ク、だ!! 
……ムッ!? も、もしや貴様、成歩堂の事を……ッ(更にギリイイイイッ!!!)」
矢「さ、て、ね~~でも俺たち、いい関係よ?(鍵くるくる)」
御「ぐおおおおオッ(白目) 
む、ムムう……こうなったら一刻も早く成歩堂を我が物に……」

バキッッ☆☆☆ドカッっ☆☆☆(お~ほしさ~ま~き~らきら~~)

成「バカなこと言ってんじゃない!!!(ドッカ~~~~ンッッッ!!)」
御「ムムッ、い、痛いではないか、成歩堂……(ぷしゅうううう)」
矢「……何で俺まで(デッカいたんこぶ)」
成「お前ら二人とも同罪だッッッ!!!!!!(ガ―――――ッ!!)
次回予告が滅茶苦茶だよ……
とにかくッ!

次回「Target!」第三話「陰謀」

お楽しみに!!(ヤケ)」
御「……たかが新聞紙でこの破壊力……ますます惚れたぞ! 成歩堂ッッ!!」
成「お、ま、え、は、黙れ~~~~~~~ッッッ!!!!!」
矢「結局これって……バカップル?(ぼそり)」

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