Target!
第一話「邂逅」 TAKE 4
「くっ!!」
狩魔検事が悔しそうに鞭で一発思いきり地面を叩いた。
「今度こそ、現行犯逮捕してやるわ!!」
「逃げられちゃったねえ……惜しかったなあ」
屋上に着陸したヘリから降り立ち、罪門検事が僕達の方へ近づいてきた。
惜しかった、と言う割にはたいしてその口調は変わっていない。
表情もさほど残念そうには見えなかった。
「でも、結構上等じゃない? ここまで追い詰めたのって初めてだし」
そう言って僕達と並んで、怪盗が消えた方に眼をやった。
……追い詰めた?
僕は罪門検事の言葉を聞きながら、何気なくカードを拾い上げ、付けられていた発信機に眼を落とした。
奴はこの機械の存在に気付いていた……
だとしたら僕たちは、奴に遊ばれていたことになる……
それを言ったら、罪門検事は小さく肩を竦め笑って見せた。
「良いじゃない、遊んで貰えたんなら……今までの連中は遊んですら貰えなかったんだしさ。
ま、初めてのチームにしちゃ、上等じゃない?」
「初めての……チーム?」
「僕も冥ちゃんも、そして君も、ね」
知らなかった……
狩魔検事と僕はともかく、罪門検事までとは……
狩魔検事は未だ気が収まらないらしく、手に食い込むほどに鞭を握りしめている。
震える肩が、凄まじい怒りを物語っていた。
僕はそんな狩魔検事に声を掛けることも出来ずにいた。
「あ、そうだ」
ふと思い出し、僕はパーカーのポケットを探った。
固い感触が指に触れ、それを取り出す。
それはあの、小さな女神像だった。
改めてみると思っていたよりもさらに小さい。
そしてよく見ると彼女は小さく微笑んでいた。
「狩魔検事……これ」
僕はその像を狩魔検事に差し出した。
狩魔検事は鞭を握りしめていた手を緩め、それを受け取る。
しばらくそれをじっと見詰めていた狩魔検事の口元に同じような笑みが灯った。
「それ、もしかして……?」
罪門検事が覗き込み、口笛を一つ吹く。
「もしかして取り戻したの?」
「いやいやいや、取り戻したというか何というか……」
「そうよ、彼が取り戻したのよ」
返答に詰まった僕を遮って、狩魔検事が口を開いた。
でも、僕にはまだ肯定しきれないんだよなあ……
「もしかしたら偽物、ってこともあり得るかもしれないし……」
「それは今から精査するわ…………しっかりと、ね」
意味深に微笑む狩魔検事の思惑に思い当たり、僕はそれ以上何も言わない事に決めた。
罪門検事もある程度事情を把握しているのだろう。
彼もそれについては何も言わなかった。
その代り帽子のつばをちょっと引き下げる。
「もし、それが本物なら……更にお手柄だね、成歩堂くん」
言って、僕の肩を叩く。
「初めて怪盗×Mが何も盗らずに退散したことになるからね」
「……そうとばかりも言えないわ」
再び狩魔検事の声が低くなる。
「彼はその代りに大事なものを奪って行った……」
巻き取られた鞭が軋む。
殺気に似た気配に僕はたじろいだ。
「え? え? えっ!?」
僕は奪われたものの正体が判らず、思いきり首を捻る。
その僕に凍りつきそうなほどに低温な瞳を向けて、狩魔検事は低い声で宣告した。
「奪われたのは……あなた自身の唇でしょ? 成歩堂龍一」
「え、えっ、えっっ、ええええええええええええっ!!!」
狩魔検事の発言に僕はさっきのニアミスを思い出す。
まさかとは思ったけど……
やっぱり唇が触れてたんだ!!
僕は思わず自分の口を手で覆った。
混乱し、必死に言い訳めいたことを始める。
「でも! あれは! きっとはずみで……」
「はずみだとしても……」
今度は罪門検事の声が低くなる。
眼を向ければ彼はテンガロンハットをさらに目深にかぶり冷たい笑みを口の端に上らせていた。
「許せないねえ……ね、冥ちゃん?」
「この次は無いわ……必ずやこの手で制裁を加えてやる」
こ、怖ェエエエエ…………
何故か取り逃がした時よりも今の方が怖くないか……?
って言うか、何で今の方が二人とも怖いんだよッ!!
って言うか、って言うかッ、って言うかッッッ!!
「僕、まだ女の子とだってキスしたことも無いのに……ッ」
大混乱に達した僕は、虚空に向かって大声で叫んだ!
「僕のファーストキス、返せ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!」
おまけ――
「ところで狩魔検事」
「何かしら?」
「黒水晶の瞳って、宝石か何かですか???」
「…………………………(ギシリ)」
「(こ、怖ェエエ!)か、狩魔……検事……?」
「(ポン)成歩堂君、あんまり冥ちゃんを刺激しない方がいいかもよ?」
「えっ!?」
「…………(ギロリ)身の周りに用心しておくことね、成歩堂龍一……それが答えよ」
「身の、周り……? 答え???????」
「…………全く無自覚? ダメだ、こりゃ」
チャンチャン♪
次回予告
御「フホホホホホホ! $##!##$*#&$#%%##!(見たか!私の華麗なる姿!)」
成「全然分かんないし!!!! 薔薇取れよ! 薔薇!」
御「*&#*$#&#*%、#%**%(惚れ直したであろう、成歩堂)」
成「だから判んないって! って言うか惚れるか! バカ!!」
御「$*&&%&##$#(聞こえてるではないか)……」
成「いらん突っ込みすな~~~~ッッッ!!
もういい! 僕がやる!
取り敢えず!
次回、『Target!』第二話、『接触』
お楽しみに!」
御「&#‘#&**##%##$……(狙った獲物は逃がさない……)」
成「…………だから薔薇取れよ…………」