露店を巡り、
朝食をとると同時に必要な物を見て回る。
特に欲しいものは見つからないものの、
目の保養にはなる。
(まぁ… 
これで欲しいものが見つかるならもっといいのだけどね…
これが欲しいというものがあるわけではないけど、
そう易々とはいかないわね。)
欲しい物があって見つかるというのならば分かるが、
欲しい物がないのに、
何か欲しいものが出来るというのは本当に稀。
そんな運命の出会いなんてない…のだが…
「あら…」
案外、そんな時に親しい人物と出会うのはままある事で…
「…レイナさんも買い物かしら?」
「あ、魅月も来てたんだ。
 そーだよ。買い物。
 何かいいものみつかったかな?」
「特には…レイナさんの方は?」
「こっちも特には…
 といいたい所だけど、
 綺麗なアクセサリーを向こうでみつけたんだよねぃ。
 良かったら一緒に見てみない?」
仲間のレイナさんと出会う。
(それにしてもアクセサリー…ね。
いいかもしれないわね。)
1つ頷き…
「そうね…
 いきましょうか。」
「オッケー!
 じゃ、早速行こう行こう!」
レイナさんにひきずられるように、
露店を巡る。
この島に来てから独りである事の方が少なくなった。
(そう。
それは喜ばしい事。
それに…
私の霊に屈するほど皆弱くはない。
それが何よりも嬉しい事。
感謝…すべきなのかもね。
でも、何に?)
本来であれば神にでも感謝するのが普通なのだろう。
しかし、
伊賦夜魅月にはそれは出来ない。
何故ならば――
その身は神に呪われているのだから。

「いや〜なんだかんだで色々かっちゃったねぃ。」
「…本当にね。
 独りだとどうでもよくても、
 2人でわいわいやりながらだと、
 あれもこれもと楽しくなってついつい買いすぎてしまうのよね。
 まぁ、無駄なものなんて何一つないけれど。」
「うん。
 楽しかったし、やっぱりこうして買ったものには愛着沸くしね。
 精々大切に使わないと」
――買い物を終えて、
2人昼食を取る。
別に店には入っているわけではない。
適当に色々かって、
外れで2人のんびりピクニック気分で楽しんでいるだけ。
悪くはない。
そう、実に悪くはない――
「しかし、あれだねぃ…」
「?何かしら?」
「最近、霊は大人しいのかなと思って。」
「…相変わらずね。」
「…そっか。
 本当になんで魅月ばかりこんな目にあうんだろうね。」
「さぁ…」
だが――
それは知らない。
そう告げようとした所で――
(…ッ…!)
魅月の意識が暗転する。
何が起こったのか全く分からない。
だが、魅月の意識が暗転したというのに、
魅月は微笑んだ。
『それは、伊賦夜だから。』
そして、魅月ではない何ものかの声が魅月の唇から流れ出る。
「…ッ!魅月じゃ…ない…?
 誰…!
 そしてそれはどういう事…!」
空気が凍りつく。
咄嗟に魅月の姿をしたものから距離をとり攻撃の態勢に入るレイナ。
『攻撃はやめてもらおうか。
 この身体はまごうこと無き伊賦夜魅月のものだから。
 我はこの身体を借りて話をしているのみ――
 少しだけ、そう。
 少しだけ教えてやろうと思ってな…』
魅月の身体ときいて、攻撃の態勢を解く。
「卑怯な…ッ!
 …むー…
 とりあえず、こちらの質問にも答えて。
 貴方は誰?
 そして…教えるって何を教えてくれるのさ?」
警戒は怠らないままレイナは魅月の身体を借りたものに問う。
『…我は古において、伊賦夜の一族より神と呼ばれたもの。
 その…断片。
 そしてこの身に宿りて苛み続ける存在。
 伊賦夜の一族が約定を違えた故に。』
「…!
 すぐに、すぐに魅月を解放して!
 もう十分に魅月は苦しんだはず、
 これ以上苦しめる必要なんてない!
 幸せになる権利は誰にだったあるんだから――!」
発せられた言葉。
それは魅月の身体を借りている存在こそが元凶だという事。
語気を荒げ怒りを隠さず全てをぶつけるレイナ。
『――それは出来ない。
 例え、それを認めたとしても…』
「なんで、だって――!」
『伊賦夜は現世と黄泉路を繋ぐ扉。
 それは狭間に存在するもの。
 故に――
 全ての死を引き寄せる。
 故に…我の巫女たる資格を持つ。
 それは債務。
 それは責任――
 そして…可能性――』
声が小さくなっていく、
段々と消え行き――
「待って!まだ、まだ知りたいことは一杯ある!
 どういう事なのかもっと詳しく――」
魅月の身体が崩れ落ちる。
「ん…ん…
 …急に意識が…
 …怖い顔をしてどうしたの?」
それと同時に意識を取り戻し、起き上がろうとする魅月。
「え、あ…いや、うん。
 なんでもない。
 なんでもないよ。うん。」
――その様子を見て、
直に表情を笑顔に戻し、
「大丈夫?起きれる?」
魅月に手を差し伸べる。
「…大丈夫よ。
 ありがとう。」
それでも、きっとあの邂逅(かいこう)が影響を及ぼしていたのだろう。
最初のうち、ぎこちない感じが多少あったものの、
すぐにいつも通りに戻る。
だが…
(…私が気絶している間に何かあった…
恐らく…
私が聞いても答えてはくれないだろう。
答えることならば、きっと正直に言ってくれている。
…一体何が…何が起こっているというの…!)
苛立ちが魅月を支配する。
別に怒っているいるわけではない。
ただ…
もどかしさが身体を支配している。
そう。それだけの事――

暫く、レイナさんと話し込み別れる。
その頃にはもう日が沈みかけていた。
今日もまた一日が終わる。
また、明日。
そう…明日からまた頑張らないと…
静かに眠りに落ちていく。
ゆっくりと…眠りに…

* * * * * * *
――再会――
それを望むのか、
それを望まぬのかは別として、
それは巡り来る。
巡り来た時…
何が起こるのか?



帰路へつく。
学校が終わり、
特に用事もないので、
1人で真っ直ぐ家へと帰る。
最初は大勢他にも生徒がいたけれど、
1人、また1人、と違う道へと進み、
今では私1人この道を歩んでいる。
たった1人…そして今日、
私は普段は使わない道を歩く。
其処は人気が少なく、
襲われるのならば絶好の場所。
――そして、誘いだすにも。
「――私をつけてきてなんのつもりかしら?」
静かに語りかける。
ずっと、後を誰かがついてきていた。
どういうつもりかは知らないが…
家につくまでになんとかすべきだろう。
こういう場合、家を知られるとろくでもない事になる事が多い。
「すまないな。
 …あんまり人気の多い場所で話し込むと――
 色々そちらが都合が悪いのではないかと思っただけだ。」

もう少し知らない振りをするかとも思ったが、
じきに相手の声が背後から聞こえる。
それにしても、敵意がない。
(一体…)
振り向いてみる。
…其処に居たのは…
私が先日助けた男だった。
(…来るとは思っていたけど…ね)
何食わぬ顔をして対応することに決める。
「…一体何の御用かしら?」
「何、助けてくれたお礼を言いたくてな。」
「…人違いではないかしら?」
…助ける以上の介入はしない。
それは助けた時にきめた事。
それに彼は私の事を良く見たわけではない。
誤魔化せるはずだ。
「よく似た人も一杯いると思うけど。」
「いいや、間違いない。
 …証拠が必要というなら…
 その瞳だ。」
…だが、その考えは甘かった。
なるほど、
私の目を気絶する前にみていた…
というわけね。
ならば…誤魔化しきることは不可能か。
私の瞳は特徴的過ぎるのだから。
「…なるほど。
 それは迂闊だったわね。
 …もう一度聞くわ。
 何の御用かしら?」
「…今は何も出来ない。
 今日はただ宣言しに来ただけさ。
 …絶対に借りは返す。
 それだけな。
 それと…ありがとう。」
くるりと踵を返し立ち去ろうとする男。
その姿を見て、
…呆気に取られた。
それだけをいう為に態々私に話かけたというのだろうか。
しかも、己のことを省みてわざわざ1人になるタイミングを狙ってまで。
…面白い男。
「…私の名前は伊賦夜魅月。
 名前くらい教えてくれてもいいんじゃないか…とは思うわ。」
「…それは失礼したな。
 俺の名前は深川砕斗。
 ただのチンピラさ。」
折角なので名前を告げる。
すると男は振り向きもせず、名前を告げて角を曲がって消えていった。

面白い男ね。
これも運命。
結末は…考えるのはよしましょうか。

――誓い――
それは果たすべきこと。
声に出すことで、
文に書くことでそれは意味を持つ。
誓いを果たすか、
それとも果たさないのかは――

* * * * * * *


朝がやってくる。
出発の朝が。
用意は整っている。
朝の用事を済ませ、
合流し、遺跡へと足を踏み入れる。

遺跡に入り道を進むと、
すぐにベルクレア兵の姿を見つける。
リーダー格は…
間違いない。あの黒いジャケットの男と鎧を身につけた女。
ただものの雰囲気ではない。
恐らくは実力ある相手だろう。
「……ハハッ!来やがった来やがった!
 待ちくたびれたぜッ!!」
「14隊は突破されましたか……
 あの状態では仕方ありませんね。」
言葉からもその自信が見て取れる。
男はギル。女はシズクリアスプリズムというらしい。
エキュオスともいわれていたが…
何か意味があるのだろうか?
「我らベルクレア第15隊!
 魔王エリエスヴィエラの守護のもと、いざ参るッ!
 …ってかぁ?ハハッ!
 隊長の半分が消えてるってぇのに
 探索より足止め優先たぁ騎士団長様は余裕なもんだねぇ?」
「……。
 …いきますよ。」
「はいはい。敵さんは全力出せよぉ?
 …でないと、一瞬で終わっちまうからなぁぁッ!!」
面白い。けれど、黙ってやられるほど大人しくはない。

「そう容易くはいかないわ…
 貴方には見えないのかしら…
 この私を取り巻く者達が……!」






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