「もう、売り切れだぜ。」

爽やかな顔で倒れる栗鼠。
…これ…突っ込んでいいのかしら…
どうみても、某大手ファーストフードの…
…気のせいよね。
それにしても…
まさか、
こんな身近なネタが存在するなんて予想してなかったわ。
それに、中々強かった。
あまりにも肉を狙いすぎて、
霊達に完全に翻弄され、
完全な私のワンサイドゲームだった。
こちらの戦いがこの結果ならば、
他の皆もきっと大丈夫だろう。
多少ダメージをおっていても、
しっかり合流して戦えば問題は無いはず。
でも、油断は禁物。
気を引き締めないといけないわね。

しかし、
久しぶりの一人というものは、
少し寂しい感じがするものの、
それと同時にほっともする。

一人であるがゆえに、
迷惑はかける事はない。
それは安心。
決して――
他人を傷つける必要のない安心。
本当ならば、
こんな安心を捨てきらないと、
本当の意味で打ち解ける事にならないのではないか、
そんな事も何度も思った。
けれど――
今なら分かる。
…これはこれで必要なものなのだと。
それでも、どちらかを選ぶという時に、
仲間を、友を選ぶ事が出来る。
そして、選んだ以上、
傷つけさせない。
その意思を貫く事こそが必要なのだと。
そう。忘れてはいけない。
忘れそうになったら、
何度でも思い出そう。
己の心に刻みつけよう。
今の思いを。

「ここに来てから考える事は同じ事ばかりね…
 …私の本当の願いは…」
一体何なのだろう。
何を求め…どうしたいというのだろう?
呪いを解く。
それこそが求めていたもののはず。
それは変わっていないはずなのに、
今は…
そうだという事が出来ない。
もどかしい気持ちが私を支配する。
答えが欲しい。
己でみつけねば意味が無いが…
それが分かっていても尚、求めずにはいられない。
「…」
ため息をつく。
分かっている。
疲れているだけなのだと。
どうして疲れているのかは全く分からないけれど、
心も身体も疲れ切って――
今にももう崩れ落ちそう。
それでも、負けない。
負けるわけにはいかない。
答えが見えぬ未来を…
本当に望むべき未来を手に入れるまでは――

「…ログを検索…
 該当件数一件。
 伊賦夜魅月様を発見。」
「ん?ほんまや。
 最近よう会うなぁ。
 元気してるん?そっちは順調?」
余裕が無くて弱音を吐く時、
吐きたい時に、人は現れるもの。
実際に弱音は吐く事は滅多にないが、
こうして出会うと心が安らぐ。
――ああ、本当に良い時に来てくれたと思う。
どちらも最近知り合った。
何か色々ややこしい事情を向こうは向こうで抱えているらしいが、
詳しい事情は良く知らない。
そして、もっぱら会話するのは…
金色の髪をもつ元気で優しい女の子。
名前は――アイ…と呼ばれていた。
そこまで考えてクスリと笑う。
私は知り合ったものの、
こんなにも物を知らない事を。
「…どうも、そちらも順調なようね。」
「まぁねぇ。
 少なくともこうして元気にしてるわけやし…
 それにしても、うん。
 やっぱり断然笑ってる方がええねぇ。」
「――フフ。
 そうね。
 なんだかいつもそう言われてる気がするけど、
 笑ってない時の私は、そんなに暗いのかしら?」
「うん。暗い。」
挨拶をするついでに、
少し疑問に思っていた事を尋ねてみる。
すると…
予想通りではあったものの、
真正面からドストレートな返答が来た事に少し面食らってしまった。
「――そこまで正直にはっきりいわれると思わなかったわ。」
「まぁ、せやかて他にいいようもないし?
 こういう事ははっきりいうんが、
 相手の為やと思うてる。
 ――それほどまでに、影は濃く深い。
 自分でも気づいてるんやしょ?」
「それは――そうね。」
「だから、笑わないと。
 これが不細工やったらどちらでもええけど、
 折角持ってうまれたもんは最大限にいかさな。
 そう思っていつもいうてるんよ?」
「…」
…会って間もないというのに、
いつも他人について思いやれる心。
とても尊い心を持っている。
それは素敵な事――
「ま、それ以上何か理由いわれても、
 何もないから聞かれてもこまるけどな。」
「――いえ、十分よ。
 …
 ふふ。良縁が続くわね。」
「…?」
「なんでもないわ。
 これからも宜しくね。
 3人共。
 それじゃ、私は仲間が待ってるからいくわ。
 またね。」
「…了解しました。」
「え?3人って…え?え?」
手を振って立ち去る。
そう。
3人。
私には見えている。もう一人の存在が。
またねという言葉と、
怖い事いわないでよという声を背に受けながら、
その場を後にする。
――またゆっくりと会話したいものね。
――特に――

――そのまま真っ直ぐと合流地点へと迎う。
明日には皆と合流できるだろう。
とりあえず、目的地点の手前で野営する事にする。
ゆっくり眠って、
疲れを取ろう。
そう。
休息こそが最高の安寧…
その休息すらも満足に与えられぬが現状ではあるものの、
構わない。
肉体的な疲労は取れる。
それで十二分――
さぁ、だから…
堕ちていきましょう、どこまでも…
深い闇の中へ…
深く…
より深く…
………
……


* * * * * * *
――悪縁――
縁には悪いものもある。
その最たるものは、
厄を呼ぶ。
どんなに逃げようと、
どんなに回避しようと、
必ず訪れる厄を――


「…ふぅ。」
無事に帰れた。
あの男と対峙する事にならずに助かった。
――もっとも…
私には対峙してもどうにかする手はあるのだが…
必要以上にそれを振るってはいけない。
これは、この世に在らざる力だから。
そして、
この力は必ず悲劇を巻き起こす。
それを回避する方法は、
己がこの力を自制する事。
そう――
その被害の対象を己のみに留めればいい。
シンプルにして実に単純な解決方法。
それでも…
暴発する時はするのだが――
それは考えたくはない。
さてと…
これからこのまま帰るのもいいけれど、
文句を言わずにいるというのも何というか癪(しゃく)な話よね。
なら――
せめて文句をいいに行くとしましょうか。
くるりと踵(きびす)を返し、
別の方向へと歩きだす。
かならず、
あそこにいるはず。
――さぁ、会いに行きましょうか。
深川砕斗に。

――目的地はそう遠くはなかったので、
すぐにつくことが出来た。
別に後をつけている人物も無さそうだし、
気にせず気軽に入る。
「――診察の時間はもう終わって――おや?」
「…こんばんは、先生。
 診察の時間は終わっていても、
 面会の時間が終わっていても――
 深川砕斗に会う事は出来るんでしょう?」
「…まぁ、他ならぬ君のいう事だし、
 聞いてあげたいのはやまやまだけど――」
「冗談。
 貴方があんな面白い人を他にやるなんて考えられないわ。
 ――こちらにも来たんでしょう?
 彼を探しているがらの悪い男達。」
「――やれやれ、
 お見通しか。
 ああ。その通り。
 ――こちらでかくまわせてもらってるよ。
 ついでに顔も少し変えるよう小細工もして中々楽しい感じだ。
 いつばれるか――
 それとも、私の完璧な偽装が勝つのか、
 とても有意義な日々だよ。
 感謝しないとね。
 一番奥の部屋にいるから会ってくるといい。」
診療所に入って出迎えてくれたのは院長の二之宮誠二。
知り合いであれば、
診療外の時間に入っても文句言わない上に、
とても融通が利く。
とある事情で知り合ったのだが――
それはまた、別の話。
ともあれ、最初とぼけてみせるものの、
少し押せば簡単に頷き、私に鍵を渡してくれる。
どうやら鍵を閉めてあるから、
会うのならば鍵を開けてとの事らしい。
用心深い事。
まぁ――
それくらいの用心が出来ないと、
安心して訳ありの人物は預けれないのだけど。
「ありがとう。」
「どういたしまして――
 協力出来る事があれば協力するけど――
 ちゃんとどうなったかは教えてくれよ?」
「あら?
 まるで私が確実に最後まで巻き込まれるような口調ね?」
「――君はそういう星の下にうまれついてるのさ。
 そう、私の勘が告げている。」
「――あたらない事を祈ってるわ。」
お互いに笑い、奥へ行く私。
――全く油断のならない人ね。
恐らくは向こうも同じ事を思って――
楽しんでいるのでしょうけど。

――利害の一致。
それは時として、
何よりも強みとなる事がある。
友よりも…
恋人よりも…
頼りになる事が。
利害が一致しているのならば――
利用しあうのも悪くはない。

* * * * * * *


目を覚ます。
少し頭が痛い。
けれど、この程度の頭痛で、弱音は吐いていられない。
今日は皆と合流の日。
早く用事をすませ、
合流しなければならない。
朝の日課は毎日のようにしてきた。
直に終わらせれる。
そう、今日も同じ――
すぐに済むはず。
起き上がり、日課を済ませる。
だが、頭痛が止まらない。
否。これは頭痛ではない。
何かの声――?
…霊達の声とも違う。
もっと別の他の何か。
そして私はこの声を…

――知っている…

…この声は…
「…ッ!」
鈍い痛みが頭に走る。
次の瞬間声は消え、
頭痛も無くなっていた。
……
あれは一体…
否、考えるのはよそう。
今は一刻も早く、皆と合流を――

…朝の日課を済ませた後、
皆と合流する。
合流はスムーズに終わり、
無事次へと進めるように。
さぁ、まだまだ道程はあるけれど、
後一息。
頑張ろう――
そう思った矢先、いつもの敵が現れる。
相手は大きな不気味妖精と、
金色の可愛いハムスター。

「…可愛い…っていってる場合じゃないわね。
 頑張らないと――」








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