声もあげずに、
巨大で不気味な妖精…
大偽妖精が崩れ去る。
中々しぶとかったけれど、
大して…
というか全く強くはなかった。
これがこの辺りの敵の力なのだろう。
――
ほっとする。
前の探索ではとても強い敵が出て来て中々厄介だったけれど、
今回は安心に、
無事に終えることが出来そう。
これからの事を考えると、
まだまだ油断は出来ないのだけれど――
それはまた、
苦難に直面してから考えてもいい。
とりあえず、前途は明るい感じかしら。
悩み事が一つでも消えるのは良い事ね。
少しでも、
今は負担を減らしたいから――
限界といいたくはないけど、
結構追い詰められているのが、
とてもよく分かった。
だから――
その不安を取り除きたかった。
本当に丁度いい。
それにしても…
最近周囲の皆がますます強くなっている。
凄いわね…
どうやったらあんなに強くなれるのかしら?
…なんだか羨ましいわ…
…うーん…
まぁ、焦らない事にしましょう。
どうせ元々私自身には大した力はないのだし、
訓練した処で、
追いつけるものでもないわ。
肝心な部分が私には欠けているのだから――
――戦いも終わった、
という事で先を急ぐ。
それにしても――
「エモさん?」
「なぁに?」
「――最近、私によく引っ付いてくるけど…
どうかしたのかしら?」
――今、私はエモさんをおんぶしている。
そこまでは良い。
けれど、気のせいだろうか…
何か離してくれない、そんな感じがするのだけど…
こうも多いと、
何か意味があるのでは無いかと思ってしまう。
「どうもしないよ?」
「そう?それならいいのだけど――」
「うん。どうもしない。
ただ、心地いいだけ。
感情と力が満ちてるから。
二つは私の生きる源だから――」
「それは――どういう…」
「言葉通りの意味だよ?」
言葉通り?
――感情と心が生きる源――?
どういう事だろう?
「――」
考えが纏(まと)まらず、沈黙する私。
そんな私の疑問に答えるように、
エモさんは喋り続ける。
「とても大きな感情と力…
魅月お姉ちゃんの中にあるとても大きな感情と…
見えざる外から繋がる強大な力。
それに、辺りに満ちる無数の感情と力――
それはまるで――
ご馳走が目の前にあるかのようで――」
…
そういえば、エモさんはこんなにしっかり喋れる子だったろうか。
最初にあった頃と比べたら――
まさか、
もの凄い勢いで成長しているのだろうか?
これもこの島の――
「――だから、こうしているの。
ここが今一番心地いいから。
この島で――今の私の知る中で、
“ここが一番感情に満ちている”」
…不意に脳裏にとある疑問が思い浮かぶ。
まさか――ひょっとして――
「エモさん、まさか貴女は…
感情で出来ているの?
それも、この島に集まった感情で。
それが力と交わり生まれた存在なの?」
「うん。
そうだよ。
それで――
皆と一緒にいる理由は分からないけれど。
きっと――私と縁があったんだよ。
目には見えない縁が。
魅月お姉ちゃんも分かるよね。
“全ては目に見えぬ絆で繋がっている”。
“出会いも別れもその目には見えない絆から生まれる”…
その事に。
だって――それを分かって何度も口にしてたよね。
本当はもっといい言葉があるかもしれないけど、
私はそれ以上の言葉を知らない。」
――成る程、ね。
「――そう。
まぁ、どちらでもいいわ。
今まで旅して、助けてあって来た。
これからも旅が終わるまで変わらないし…
エモさんと私が仲間であり続ける事には変わらない。
それで…十分。」
「――うん。それで十分だよ。
だから――
まだ皆と一緒にいさせてね。
私の存在の存続の為もあるけど、
皆といるのは…楽しいから…」
「…勿論よ。」
笑顔のエモさんに微笑みかける。
――色々新しく分かった事は多いけれど、
それで何かが変わるわけじゃない。
けど――わかり合うことで、
絆がより深くなった気がする。
――エモさん、
とても不思議な子。
だけど――
貴女の心はきっと、
綺麗で――
とても優しいもので出来ている。
そんな気がするわ…
――先に進んでみると、
私達は壁に直面する。
文字通り壁。
壁があるがゆえに、
ここより先へと進めない。
――困ったものね。
とりあえず、
手分けをして道がないか探ることにしたが、
道は見つからない。
とりあえず、
どうするか相談し、
この壁が壊せたりしないかと冗談半分で手を触れた所で――
事態は急変した。
手が、壁に沈み込んだのだ。
そして、壁にどんどんと体が引きずり込まれていく。
助けようとする皆も含めそのまま圧倒的な力で引きずり込まれ――
気がついた時には向こう側に出ていた。
――何かのトラップとも思ったけれど、
別に外傷もなければ、
体に変調もない。
奏さんが念の為調べてくれたけど、
特に問題は無いとの事で、
どうやら、
これはトラップというより抜け道的なものらしい。
奇妙な感覚ではあるけれど、
この先に進もうと思っていた私達にとっては願っても見ない出来事。
ついている…
わね。
まぁ、ついているにこした事はない。
目的地へとたどり着けた事だし、
私達はここで野宿する事にした。
――さぁ、
明日にそなえて…
今日は眠りましょう。
深く、より深く――
* * * * * * *
――望み――
人の数だけ無数にあるそれは、
人をひきつけてやまない。
しかし、
叶えられる望みは限りがある。
故に――
人からみればそれが奇異に写る望みも多い…
扉を開ける。
「入るわよ――
深川砕斗。
いるのは分かっているわ。」
扉を開けて入ると、
そこには驚いた表情で砕斗はこちらを見た。
「――え?あ?
良く分かったな。
まだここにいるって?」
「当たり前よ。
あの医者の性格を考えるとね。
とりあえず、砕斗と呼ばせてもらうわ。
――随分と人気者ね?
がらの悪い男達が探しているわよ?」
「…!
そっちにも来たのか?」
「ええ。
まぁ――
だれかれ構わず声をかけてる節があるから、
別に気にしなくて良いわよ。
ただ、こうなった以上、借りは早く返してもらうことに決めたの?」
狼狽(ろうばい)し、うろたえるのを気にせず、
此方の要求をまくし立てる。
本来なら落ち着いて話を…
といいたいのだけど、
そうさせるつもりは毛頭ない。
別に嫌いだからそうするわけじゃない。
――そうするのが、
からかうのが楽しいからそうするだけ。
生まれ持った性分らしく、
こうしてどんな時でも、
からかいたくなったらからかう癖は治らないものらしい。
別にそれで面倒が起きた事はないし、
逆に人生に張りが出て面白いから治す気はさらさらないのだけど。
「あ、ああ、そりゃ良いが――
今の俺に出来る事は――」
「要求は二つ。
最初の要求は助けた礼でいいわ。
腕のいい占い師…
霊能者でもいいわ。
そういうのを知っていたら紹介して頂戴。
知らないのであれば、気にしないでいいわ。
二つ目の要求は単純明快。
男達に絡まれた侘びとして――
話してもらえないかしら?
貴方が何故彼らに追われているのか。」
「な!おいおい!
それを聞くのか!?
それを聞くっていうのは――」
「ええ、確実に事件に巻き込まれる事になるわね。
でも、いずれにせよ巻き込まれる可能性が高い、
それに――
退屈はしそうにないなら、関わってみるのもいい。
ただの気まぐれよ。」
「――ッたく…
近頃の女子高生というのは、
目上の敬意も知らなければ、
怖いもの知らずばっかなのかねぇ…
まぁ、いいさ。
覚悟が出来てるなら――喋ってもいい。
それにしても、最初のお願いも力になれるが、
なんだってまた――」
「それは秘密。」
「…分かった分かった。
俺に選択の余地は無い。
俺が追われている理由は単純だ。
――クスリさ。
禁じていたクスリの取引。
それを奴――
まぁ、組長の息子だな。
奴がしているのを目撃しちまった。
その上先手を打たれ、
俺がクスリの取引をしているという事になってしまって、
消されかけてた所に助けてもらったっていう単純な話だよ。
之以上ない簡単な話だろ?」
――成る程。
つじつまはあう。
が…いまだ何か隠している事もある気がする。
でも、これは話せといっても話して貰えそうに無いわね。
「まぁ、良いわ。
今はそれで。」
「――んで、占い師の場所は…
ああ、いや…
明日連れてくよ。
先生が変装させてくれるらしいからな。」
「…分かったわ。それじゃ、また明日。
ああ、それと――」
本当は貴方より私の方が年上よ?
そう言おうとして、辞めた。
「…」
ただ微笑みその場を後にする。
「…一体何をいおうとしてたんだ…?」
困惑する彼の声がする。
本当にからかいがいのある男ね。
私が何をいおうとしてたか、
それは――
そう、いっても信じてもらえないし、
理解など出来よう筈もない事よ。
――困惑――
惑い惑わされ、
正常な判断が出来なくなる。
謎が謎を呼び、
深みへはまって行く。
でも、そこに秘められた意味がある――
* * * * * * *
目を覚まし、
朝の日課。
単調すぎる毎日だが、
飽きるという事はない。
それは、当たり前だから。
それに昔と違って今は仲間がいる。
――楽しくないわけがない。
さぁ、今日も張り切って進もう。
そう心に歩み始めた私達の目の前に何時ものように敵が現れる。
大きな肉の人形と、
小さな悪魔達。
前にも現れた敵。
――なるほど、これはリターンマッチという訳ね。
なら――
「懲りないのならば、何度でも――
何度でも教えてあげるわ。
勝てないという事を――!!」
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