目を覚ます。
――ふぅ。
この島に来た切っ掛け…
…感謝しなくてはならないわね。
あれから、私の周りの環境は大して変わってはいない。
けれど…
心、そう…
精神的な環境は大分変わったと思う。
それもいい方向に。
――だから感謝。
そういえば…
結局見つからなかったあの占い師の師匠への紹介状…
あれ。どこにやったかしら…
肌身離さずもっていたはずだけれど…
何処を探しても無い。
…夢をみて思い出してみれば、
既に無しか――
まるであの女占い師の手紙に書いてあった事の――

まさか、そういう事なの?
だとしたら――
「全く、してやられたという処かしら?
 やられて悪くない気分だけどね…」
世界は広く、まだ見ぬこと、
分からぬ事、
知らぬ事がこんなにもある。
なら…それを全てみてからでも、
終わらせるのは遅くないのかもしれない――

出発まで、まだ時間がある――
というか出発は明日。
1日時間がまるまるあいていたので、
暫く辺りを歩いてみる。
朝だというのに人は結構いる。
ほんと賑(にぎ)やかね。
…ふらふらと歩いていると、
「魅月さん!
 こんな所で出会えるなんて奇遇ですね!」
元気な声が背後からかけられる。
明るく元気で、
他人にさえ…その元気を与えれる。
そんな気にさせてくれる人物――
そう、それは…
「あら、ジャックさんもこんな所でお散歩かしら?」
ジャックさんに違いない。
確信をもって振り向くとそこにいたのはやはりジャックさん。
「ええ、こんな良い天気ですからね。
 早起きなのは習慣でしょうか。
 農家の朝は早いもので。」
「ああ。確かに速いわよね…
 友人も朝早かったわ…
 そのお陰で私も早起きになったのだけど…」
「へぇ、そんな人が、
 是非一度お会いして――」
「もう居ないけどね。」
「――すみません。
 なんだか辛い事を思い出させてしまったみたいで…」
ただの事実だし、
反応も間違っていない。
たまたまそういう事だった。
余計な事をいった私が本来謝るべきなのに、
すぐに察したように謝るジャックさん。
気にする事はないのに――
本当に紳士的で良い人というのは、
ジャックさんみたいな人の事をいうのでしょうね。
「――いえ、しんみりさせて謝るのは私の方。
 それに古い古い話だから別に気にする事はないわ。」
「そういって頂けると助かります。
 …こういう話をしていると、
 なんだか家に帰って
 稼業の手伝いがしたくなりましたよ。」
「あら、熱心なのね?」
「三つ子が生まれたらしいので。
 戻ったらその分精一杯頑張らないと。」
「そう……家族想いね…」
「いえ、これくらいは当然と思っているので。
 魅月さんは?」
「そうね、決めてないわ。」
本当に実直で、素直で…

少し羨(うらや)ましい。
私もあれくらい素直に…
真っ直ぐにいきれたなら…
「そうですか、
 まぁ、時間も一杯ありますし、
 ゆっくり考えて――どうしました?」
「あ、いえ、ちょっと考え事をね。」
「…そうだ、時間ありますか?
 ちょっと来て欲しい所があるんです。」
「?
 ええ…時間はあるけれど…」
「良かった。
 じゃあ、こっちへ。」
私の手を引っ張ってどこかへ走るジャックさん。
引かれるままに、
身を預けるように私も後へと続く。
一体、彼は私をどこにつれていき、
何を見せてくれるんだろう…?

暫く移動しただろうか。
「どこまでいくの?」
「もうすぐですよ、
 ほら見えた――!」
視界が開ける。
そこは小高い丘の上。
見下ろせばそこに雄大な自然を感じられる。
「――」
静かにジャックさんの方を向く。
すると笑いながらジャックさんは――
「…綺麗な光景でしょう?」
「わざわざ…これを見せる為に…?」
「ええ、そうですよ。
 …綺麗な光景でもみて、
 元気になってもらいたいと思って――」
…と答えてくれた。
――再び景色を見る。
とても良い光景。
全てを忘れてこのままずっと見ていたくなるような――
目に焼き付ける。
瞳を閉じても見れるように。
小一時間ほどそうしていただろうか。
「…元気でたわ。
 ありがとう、ジャックさん。」
「いえいえ、どういたしまして。
 こんな事でよければいくらでも力になりますよ。」
「――クス。
 お礼しないとね。
 幸い今日一日空いてるの。
 日が暮れるまで――
 少し付き合ってもらえるかしら?」
「ええ、喜んで。」
「良かった。
 それじゃ、行きましょう?
 ジャックさん。」
手を取って移動する。
まだ時間はある。
束の間の休息を共にとる事にした。
――特筆すべき事は特にはないけれど――
とても楽しい…そう。
とても楽しい1日だった。
そのせいか、
夜になる頃には疲れ果て、
私は泥のような眠りへと落ちていく――

* * * * * * *
――急転――
事態は揺れ動く。
それは時に、
予想もしない形で、
予想も出来ないタイミングで。


「――で、用事は終わったのかい?」
「ええ。問題なく。」
占い師との対面を終え、
待っていた砕斗に軽く礼の会釈をしながら、
足を止めずに過ぎ去ろうとする私。
「おいおい…ちょっとは待ってくれても――」
「…とりあえず、近くの喫茶店にでも入りましょ。」
 話はそこで聞かせてもらうわ。」
「…?
 ああ。分かった。」
そして、そのまま訝(いぶか)しげな顔をする砕斗を引きつれ、
近くの喫茶店へと入っていく。
テーブルに案内され――
「とりあえず、私は紅茶とショートケーキ。
 …そっちは?」
「…コーヒーだけで良い。」
「だそうよ。」
注文を済ませる。
特に何もいわない私に落ち着かない様子を見せる砕斗。
「少し落ち着いたら?」
「…いや、それなら…
 なんで喫茶店に行こうと――」
「お待たせしました。」
出鼻をことごとく打ち砕かれ、
何もいえなくなる砕斗さん。
…なんだかんだでこの人からかうと面白いわね…
「――そうね。
 窓の外…貴方の後方45度辺りの大きな看板の陰に、
 チンピラが3人ほどいるけど、
 まぁ、気にせずのんびりしましょうという事ね。」
「なっ――!
 尾行されてたのか?
 まさか気づかれ――」
「気づかれたという訳じゃないわね。
 ただ、気になってはいるのでしょうね。
 私が叩きのめした子達だもの。
 強気になってでれないのは…
 釘を刺されているから。
 貴方が誰なのか知れたら容赦なく来るでしょうけど。」
端的に要点を述べる。
まぁ、実際、尾行していたのはたまたまだろう。
恥をかかされた仕返しといった辺りが妥当かしら。
それにしても、下手な尾行。
すぐに私でも気づけるなんて。
もっとも――
場数が違い過ぎるから当たり前なのだけどね。
「しかし、よく気づけるな…」
「貴方が警戒しなさすぎ…
 という訳ではないから安心して。
 貴方の体はまだ本調子ではないのと、
 私があえて調子をずらしておいたからよ。
 これで貴方が探している人物だという事がばれる危険性は減るわ。」
「…?どういう事だ?」
「…貴方は警戒されるほどには有能な人間という事よ。」
「――成る程。」
静かに紅茶に手をつける。
味は悪くない。
ケーキも同じ。
また、ここを利用しようかしら。
適当に入った店だけど、これは当たりね。
ついてるわ。
「やれやれ…」
「という訳で… 
 ここで休憩したら乗り込むわよ。」
「…は?」
「は?じゃなくて、乗り込むわよ。」
「いや、どこをどうしたらそんな話になる…」
「――逆にいうとそろそろ痺れを切らしてあのチンピラ達は戻るはず。
 なら逆尾行をしてみないかという事よ。」
少しチンピラ達の方を見ると、
時計を気にしてどうしようか迷っているようだ。
「――ただのチンピラかもしれないけど、
 色々深く知ってるようだし、ね。」
「成る程。
 手間がかからなくて、
 事情を知っている。
 情報源としては最適だな。」
「それじゃ、お勘定は…
 私が払うわ。」
お金を取り出し払おうと砕斗を押しのけ、
私が勘定を支払う。
「たまにはいいでしょう?
 こういうのも。」
「…男が払うべきなんだが…
 まぁ、終わった事だし、もういいさ…」

――反撃――
望みを捨てず、
どんな逆境だろうと、
そこに活路を見出し、
逆手に取る。
その為の犠牲は恐れない――

* * * * * * *


目を覚ます。
朝の日課を済ませ、
皆との合流地点へ。
すると――
一人欠けている。
…ともあれ、
まずは合流を済ませなければならない。
皆で手分けして探す事になったのだけど、
見つからない。
そんな時、一人の男が話しかけてきた。
それによると、
段蔵とよばれる可愛いお猿さんを晃さんから預かったらしい。

更に…その話によると、
これから暫くはこの段蔵が晃さんの代わりをするらしい。
…一体晃さんはどうしたのかしら。
無事であればいいのだけど――
ともあれ、
私に出来る事は戻る場所を用意しておく事かしらね。
ふぅ…
中々面倒な事に巻き込まれてるわね。
分からないでもないのだけど。
そういう時代があったからこそ――
私には感じるものがある。

当たっているかはまた…
別問題だけど。
ともあれ、晃さんが欠けたままだが、
足踏みはしてられない。
晃さんの代わりに段蔵を加え、
探索へと踏み出す。
進む道程は順調だったが、
そんな私達の前に立ちふさがるかのように、
悪魔と、天使らしきものが立ちふさがる。
やれやれ、
今度の敵は悪魔達って事かしら?
中々バラエティに富んでるわね。
…そういえば、
先はまだまだ長いのよね…
ならば…
これからもっとバラエティに溢れた敵達が出てくると考えると、
恐ろしいけれど…面白そうね。
でも――
例えどんな敵が相手であろうと――

「やる事に代わりはなく、
 貴方達とて絶対ではない、
 なら――後はやるだけよ。」






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