「これは……
 無茶、というやつですね。」

最後まで抵抗したシズクが崩れ落ちる。

まぁ、本当に無茶よね。
3対5ならまだしも、
圧倒的多数対5。
そのうち、奏さんとエモさんは、実力者。
明らかに戦力的に差がありすぎる。
「……ハハッ!
 しっかり負けちまったなぁ?エキュオスちゃんよぉ。」
「…シズクです。
 現状、話すのも疲れますからやめてください。」
しかし、負けて元気な様子は羨ましいわね。
まさにくいなき戦い…だったのかしら?
それにしても、やっぱりエキュオスと呼ぶのね…
なんでかしら。
「あぁそうそう、
 俺を負かした冒険者さんよ。
 ……この島の秘密を知りたくねぇか?」
「……ギル、貴方何を。」
「いいじゃねぇか、
 勝者にはとことん勝者になってもらうってことでよぉ!」
「……」
私が色々考える中、
興味深い言葉がギルから漏れる。
この島の秘密…
それは即ち――
私が知りたかったものの1つ。
これからを進む上で重要な指針となるはず。
一体、この島の秘密はなんなのだろう?
興味津々で私だけでなく、
エモさんや奏さんもギルの話に耳を傾ける。
「…宝玉。
 あれな、揃えると財宝がどうこうじゃねぇーんだわ。
 あれを揃えてどっかに持ってくと、
 なんとなぁ〜……」
 ……過去を操れるんだってよッ
――過去を操る?
…それは過去を変えれるのか、
過去をやり直せるのか。
ならば、あの悲劇をない事に出来――
歓喜が私の心を満たす。
だが、それは長続きはしなかった。
私の心は急速に冷えていく。
冷めて凍えてゆく…
どこまでも…どこまでも…
それでは――

――それでは意味が無い――

――それでは意味が無いのだ――


「うちのベルクレアのヘッドは、
 それでとんでもねぇことをするつもりなんだろうなっ、と!
 はい終わりッ…って?
 どうした?
 なんか期待はずれみたいな顔してるのがいるけどよ?」
話はもう終わりだとばかりに話を切り上げ、
シズクに呼びかけ立ち去ろうとした時に、
不意に私の様子に気づくギル。
「……いえ。
 ただ……期待外れだっただけ。
 でも…まぁ、
 それほどのものがあるなら、
 私の求めるものもあるかもしれないという意味では
 嬉しいのかしら?」
「おいおい、
 過去を操れるんだぜ?
 こんなに素晴しい事は――」
「――それでは、
 今まで生きてきた事が全て無意味になってしまう。
 辛い事や苦しい事が多かった。
 過去を操れば全て幸せになれるのかもしれない。
 それでも…
 いいえ、だからこそ――
 私の過去はそのままで良い。
 何故なら――
 全ては意味あるものでなくてはならない。
 そうでないと報われないのだから……」
…そう、報われない。
今までの自分も、
今まで私と関わって不幸になったものも、
死んでいった村の皆達も…
やり直せば皆幸せにとは、
“なるはずがない”
例え過去をどう操ろうと――

――報われるとすれば己のみ
やり直すという事は過去の否定。
過去を否定すれば、
今まで歩み出会った全ては無為。
無為であるが故に存在しない。
それは…
全て忘れ去られるという事――
忘れ去られる事は決して救いではない。
その真逆だ――


「ハッ!ハハッ!」
突然ギルが笑う。
痛快とでもいうように。
「…ギル?」
「確かに、確かにそうかもしれねぇな!
 面白ぇ。
 なら――行った行った!
 てめぇらがどうするか、楽しみにしてるぜ。」
笑いながら去るギルに、ついていくシズク。
――そうね。
「…まぁ、退屈はさせないよう頑張ってみるわ。」
微笑んで見送る。
敵ながら…とても爽快で清々しい。
そう――思った。
…いい出会いだったと思う。
けれど、
過去が変われば…この出会いも無くなるのよね…

先を急ぎ、
目的地にて野営。
いつも通り。
食事も済んで、後は寝るだけ…
なのだけれど、
中々眠れない。
どうしても、今日の戦闘の事を思い出してしまって――
仕方ないので少し散歩することにした。
こういう眠れない夜は色々見て回るのがいい。
1人散歩していると――
「こんな夜分に1人でお出かけですか?」
声がかけられた。
誰なのかはよく知っている人物。
そう――
「…そういう晃さんこそ。」
「――それもそやねぇ。
 お互い様という事やろか。」
クスリと微笑むと、
向こうも微笑みを返す。
「今日のことでね…ちょっと考え事をしてたのよ。」
「それはまた…
 良ければ…
 何を悩んどるんか、聞かせてもろてもかまへんやろか。」
「…ええ。
 ……晃さんは過去を変えれるとしたら……
 何がしたい?」
「…ああ、成る程なぁ。
 …せやねぇ…」
暫く考え込む晃さん。
…?
…どうかしたのかしらね。
「…正味の話、あまり興味あらしまへんなぁ。
 色々考えてはみたんやけど…
 それより大切なんは今やと思います」
答えを待ってじっとみていると、
1つ頷き、答える晃さん。
「…そういう魅月はんは?」
「…そうね。
 私もそう思うわ。
 過去を変えても…意味はないのよ。
 確かにその時はいいかもしれない。
 けれど何処かに歪みがくるし、
 今までの…
 今まで頑張って来たものが全て無くなるのだもの。
 でも…
 ああ、もしこうなっていれば…
 そうは思わずにいられない。
 ――考えまいとすればするほど深みにはまっていくのよね。」
「…」
問われ答える。
それをじっと何もいわず聞いてくれる晃さん。
「…だから…かしらね。
 だから――
 こうして夜風にあたりたくなった…のかもしれないわね。」
「――なんや分かる気がします。
 ……
 本当に…悩ましい事やねぇ…
 …なぁ、魅月はん。
 負けて得るものは…あると思いはります?」
「……得るものも、
 残るものもきっとあると思うわ。
 ……絶対に。
 そこに人がいれば、立ち向かう意思があれば…
 きっと花を咲かせる事もできるわ。
 …そう、信じたいわね。
 …フフ」
「…?」
「…いえ、私のすんでいた国も、
 戦いに負けて、
 負けた当初は酷いものだったけど、
 今では立派に発展して、
 …問題は抱えてはいるけど、
 何処にも負けない国になったのを思い出してね。
 …フフ、まぁ…
 其処にすんでいるんだから、
 私も負けないようにしないと思うと自然にね…」
「……そこで立ち止まるか、
 それとも先に進むのか…
 何事も同じなんかもしれへんな…
 …いい話聞かせてもろて…」
「ふふ、それをいうなら私もね…」

『ありがとう』

2人の声が同時に響く。
微笑んで握手して――
「そろそろ寝ないと明日に響きそうやねぇ…
 …また明日。」
「ええ、また明日。」
それぞれの寝床へと向かう。
…それぞれの答えを胸に宿して――

* * * * * * *
――敵――
それは道を阻むもの。
時に和解し、
時に共に競い合い、
時に大きな壁となって立ちはだかる。
だが――障害にすらなり得ぬ敵も存在する。


「最近、街にガラ悪い人多くない?」
「ああ、確かに!」
「何でも人探してるらしいよ?」
「怖いわねぇ…」
静かに1人本を読んでいても、
周囲の声が自然と聞こえてくる。
――他愛(たわい)もない話が多いが、
中には面白い話、
有益な話も存在する。
それが厄介事の種であるならば、
巻き込まれて後で気づく事も多く…

その日の学校が終わり、
日も沈みかけた道を歩いて家に帰る途中、
私は数人のガラの悪い大人達に囲まれていた。
「よう、お嬢ちゃん。
 お一人かい?
 一人で夜道は危ないぜ?
 こわーいおじちゃん達がうろついてるからよう!
 それはそうと、
 ちょっと人を探してるんだが…
 お嬢ちゃん何かしらないかい?
 まぁ、知ってても知らなくてもやる事は変わりないんだがな!」
その中の一人の言葉に、
周囲があげる下卑た笑い。
こんな事なら、
聞き流したりせずにしっかりと話を聞いていた方が良かったわね。
厄介事を避ける手段くらいは出来たかもしれない。
まぁ、手遅れなんだけれど。
――全く嫌になる。
ふぅっとため息をつく。
それが相手の男のかんにさわったらしい。
「…ため息だと…
 なぁ、嬢ちゃん、状況分かってるのかい?
 ええ!?
 喧嘩売ってるってぇんなら――」
「…あら、女一人に大勢でよってたかって?
 男の癖に――
 随分臆病なのね。」
まぁ、最も…
相手の機嫌をとるつもりなんてさらさら無いのだけど。
「このアマ――!!」
挑発したらすぐに乗ってくる。
三下ね。
とても分かりやすい。
――そして、そんな相手に構ってやるほど、
私は優しくはない。
殴りかかってきた拳をかわす。
かわしながら体を動かす。
相手の重心を崩すのに力も、
相手に触れる必要すらもありはしない。
バランスを崩すよう動いてやれば勝手に相手は体勢を崩す。
そう――それはまるで、
魔法のように。
「うぉ…!?」
宙を舞う男。
そして、地面へと叩きつけられる。
まるで空気に投げられたかのごとく――
「な…!何をしやがった!
 ち…
 全員でかかれば!」
…それを見ても実力の差は理解出来ないらしい。
私は一歩踏み出し…
瞬く間に戦いとも呼べない戦いが終わった。
伸びる大の大人達。
…全く、面倒毎は次から次へとつきないものね。

――修羅。
延々と闘い続ける者。
その闘争に終わりはない。
敗北するその日まで。
そして、
その道は…勝利した日より始まる――

* * * * * * *


目を覚まして、いつものように雑事を終わらせる。
そして、先へと進むと、
いつものように敵がいる。
蒼い光と肉人形、それが各2体ずつ。
――性懲(しょうこ)りもない。

「――貴方達では決して…止められはしないわよ?」






                                         戻る