「喜ぶほどの勝利でもありませんね。
さぁ、次の舞台に進みましょう!」
遺跡の探索を始めて31日が経過。
まだまだ道行は長いけど、今日もまた快調に先へ進む事が出来た。
気はぬいてはいけないけれど、
やっぱりこんな日は足が軽い。
どんどん先に進んでいき――
――ゾクリ
背筋が凍りついた。
気がつけば、周囲にいるはずの仲間の姿はなく、
自分1人が見覚えの無い地に取り残されていた。
(…これは、一体…?)
どうなっているのか全く見当もつかない。
とりあえず、ここから離れようと歩を進めようとしても、
何故か、動けない――
鉛のように重い自分の足。
一体どうなっているのか…
(まさか…罠!?
でも…どうして…
…
いえ、それにしてはおかしいです。
私1人を罠にかける意味が分かりませんし、
そもそも、罠にかかっても仕掛けてこないなんてありえません。
一体なんなんですか?
この状況…
…頭がこんがらがって来ました…
落ち着け、落ち着け私…!
…ッ!?)
――ガサ…
…不意に背後の方から音が響いた。
心音が跳ね上がる。
冷や汗が止まらない。
何かがゆっくりと歩み寄ってくる。
(逃げれないこの状況下で…!
こうなったら振り向きざまに攻撃を、先手必勝です…!)
そう決意し、攻撃に移ろうとしたその時、
あまりにも場違い…という訳でもないだろうけど、
あまりにも敵意の無い女の人の声がした。
「ああ。良かったわ。
ここ何処だか知らない?
どうも迷ったみたいなのだけど…
どうやって抜けたものか困っていたのよね。
…ええと、
良かったら貴女の名前教えてくれるかしら?
呼ぶときに不便でしょう?」
(…敵じゃないようですね。)
ほっと胸を撫で下ろし、
ゆっくりと後を振り向き――
「いえ、実は私もいつの間にか迷い込んで困ってま――!?」
絶句した。
(…さ、寒気と足が重い原因…
ひょっとして之ですか…!?)
そこにいたのは、
セーラー服姿の1人の女性。
これはいい。
だが、どういう事かその女性の周囲に無数の霊が見える。
それも、ただの霊じゃないのは一目瞭然。
悪霊や死霊。
人に害を成す霊達が無数に。
そう――
その数、尋常ではない。
(一体一体の力はそれほど感じられませんが…
流石に数が多すぎます!
と、というか…
彼女はこんなもの引き付れて大丈夫なんでしょうか?
いえ、そもそも…
敵…なら、
こうして声かける理由が分かりませんし…)
「…どうしたの?」
「え、あ、その…」
「…ひょっとして…“みえてる”?」
「…はい。」
返事を妙な所で区切ったせいか、
心配そうに首を傾げる女性。
しかし、何故返事出来なかったのか彼女当人も理由は分かっていたらしい。
頷いた所で苦笑を浮かべ…
「…まぁ、周囲にいるのは気にしないで。
一種の呪いのようなものだし、
基本的に敵意を見せなければ私以外には危害を加えないから大丈夫よ。
とはいっても…悪い事しちゃったみたいね。
ごめんなさい。
お詫びというわけでもないけど、
私の方から自己紹介させていただくわ。
…私の名前は伊賦夜魅月。
よろしくね。」
一礼をして自己紹介を済ませ、手を差し出してくる。
どうやら握手しようという事らしい。
(驚かされはしましたけど、
どうやら…悪い人じゃないみたいですね。
良かった…)
しっかりこちらも手を出して握手をする。
「魅月さんですね。…私の名前は源九郎といいます。
九郎とでもよんでください。
ええと…
それで…実は私もここがどこなのか良く分からなくって…」
「九郎さん、ね。
そう。九郎さんも分からないのね。
やれやれ…
手がかりはなし、突き進んでみるしかないのかしら。
…お互い困ったもの同士ここは協力する…なんていうのはどうかしら?」
「ええ、そちらがよろしいのでしたらお願いします。
こういう時は協力しあった方がいいと思いますので。」
「それじゃ決まりね。
取りあえず前に進んでみましょうか。」
そうと決まれば…とばかりに魅月が先を進む。
(警戒もなければ辺りに注意も払ってないようですね…
まぁ、私の方できっちりやっておきましょうか。)
――魅月と出あってから1時間ほど歩いただろうか?
しかし、一向にあたりの風景が変わる様子はない。
(流石に、妙過ぎますね…)
これだけ歩いたのだ、
普通ならば…何かを見つけていてもおかしくはない。
だが…目印になるようなものも、
生き物も全く見当たらない。
流石におかしい。
魅月を呼び止めようとして――
――キャハハ…
足を止める。
「…?どうしたの?」
足を止めた事に気づいたのか、
すぐさま魅月も足を止めこちらを向いた。
「…少し、待っていただけますか?」
「ええ、それは構わないけど…」
「どうやらここから抜け出れそうなんです。」
「…本当に!?」
「ええ。ちょっと待っていてくださいね。」
抜けれるときいて、
魅月の顔に喜びが浮かぶ。
(…まぁ、分かってましたけど、
本当に敵とか罠とかじゃなくて良かったです。
ようやく…
ようやくカラクリが分かりました。
本来ならばこの程度なんなく理解出来たのでしょうが、
どうやら魅月さんに気を取られすぎてたみたいですね。
…はぁ。
なにはともあれ、
この茶番を終わらせるとしましょうか。)
術式を組み立て、
優雅に舞いを始める。
簡単な術式。
「…綺麗な舞ね…」
そう。
この簡単な術式1つ、全て事足りる。
「褒めていただきありがとうございます。
それでは――狐火一式――!」
声と共に、炎が辺りを周回し、
風景を燃やす。
燃やされた風景から、本来あるべき世界が現れ――
『ああああああっつぅーーーーーーーい!』
小さな妖精が現れる。
火にやかれ転がり回り叫びながら。
「……どうなっているのかしら?」
全く何が起きたかわからない魅月さんに、
妖精に水をかけて捕まえつつ説明する。
「…いえ、妖精の悪戯に引っかかっただけですよ。
本当ならもっと早く気づくべきでしたが、
ちょっと動揺してたみたいです…
なので、幻惑を破る術式を放つついでに、
ちょっと妖精にお仕置きをして今に至る…
というわけです。」
「…成る程ね…
凄いわね…」
「そんな事ないですよ。
これくらい出来て当然です。
全く、お互い本当に災難でしたね。」
「…本当にね。
さてと…仲間達が待ってるから私も戻らないと…」
「…そういえば、私もでした。」
クスリとお互い少し笑いあう。
「それじゃ、またね。九郎さん。
今度はまた別の機会にゆっくり会いましょう?」
「ええ、それではまた。
また機会があればよろしくお願いします。」
そして、少し笑いあったあと、
魅月と別れる。
色々大変だったけれど、
中々面白い出来事だった。
妙な縁から新しい人と知り合えた事だし。
(後は…皆に色々説明しないといけませんね…
心配かけた事ちゃんと謝らないと…)
そして、九郎もまた仲間の元へと歩み行き――
2人は別れ、
今日もまた島の一日が終わり行く。
※
■第三回 文章コミュイベント■
ENo.304 源九郎さんをレンタル。
以降、少々魅月の過去話の続きを記載します。
* * * * * * *
――受けた恩は必ず返す。
受けた借りは必ず返す。
どんな手を使っても、
律儀に…いつの日か。
それにはまず――
目をさますと、
天井には染み1つ無い蛍光灯の光に照らされた白い天井が見えた。
(ここは…天国か…いや?)
しかし。
その考えをすぐさま否定する。
すぐに嗅覚が嗅ぎつけた香りによって。
あたりに満ちる消毒液の匂いを。
天国ではこんな匂いがするはずがない。
そして…
こんな匂いをする場所はただ1つ。
(病院…?
一体誰が…?
しかし、これは…
俺は生き延びたって事か…
やれやれ…
やる事が増えた上、
こうなっちゃあ、やり遂げないと立つ瀬がないか。
さて、どうするか…
早速動くか、
暫く休んでからにするか…)
「――起きましたか?」
「あ?
…ああ。あんたが医者か?」
現状の把握、
そしてこれからの事を考えていると、
不意に声がした。
そちらの方を向くと、
眼鏡をかけた白衣の青年の姿が見える。
「ええ。そうですよ。
この医院の医院長です。
といっても、個人病院なので当たり前ではあるのですが。」
「…世話になったみたいだな。
すまねぇ。
といっても、今金は――」
「…いえ、お金は既に貰っています。
貴方を助けた人からね。
生憎…
誰がなのかは本人の希望によりいえませんが…
感謝して、精々養生する事ですね。
彼女に報いるためにも元気でいた方がいい。
…そうそう。貴方お名前は?
私は二之宮誠二と申します。」
――彼女、だと?
気を失う前に見たシーンがフラッシュバックする。
そうだ――
あれは確かに女だった。
それも学生の女…そして、あの紅い瞳…
どうやら、幸い、彼女を探すのはそう難しく無さそうだ。
(…やれやれ…
神様とやらも粋な計らいをする事があるもんだ…)
まぁ、いいと軽く首を振り…
自分の名を医師に告げる。
「…俺か…
俺の名は…
深川砕斗。
…ただの…ごろつきさ。」
そう。ただのごろつきだ。
今となっては…もう。
「…
そうですか。
まぁ、一週間は安静にしていてください。
それと何かあったら連絡を。
机の上のボタンを押してもらえれば結構ですので。」
「分かった…」
頷くと、医者は部屋を出て行く。
(一週間か…
丁度良いのかもしれないな。)
…ゆっくりとこれからを考えるには丁度いい。
さぁ、考えよう。
俺がこれからどうしていくべきかを
ゆっくりと…
――休息。
例え…
束の間といえどもそれは必要。
休息があるからこそ…
次への活力が現れる――
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