「おでもう限界!」

――まぁ、当然の結果よね。
こんな所で手こずるようでは、
島の探索など出来はしない。
突破して当然。
当然であるがゆえに、
「勝っても喜んでられないわね…」
そう、
これくらいで喜んではいられない。
「まぁまぁ、勝ったには違いないんだから喜ぼう。
 別に減るもんでもないしな…」
「それもそうだけど…ね…」
「ま、言いたくなる気持ちは分からんでもないがね…」
…そうね。
皆気持ちは同じよね…
この先、更なる厳しい状況が待っているのは確実。
――だからこそ――
休めるうちには休み、
気を抜いてもいい。
それも分かっている。
「…ま、独り言よ。」
「ん。まぁ、何かあったらいつでもいってくれ。」
…全く、それにしても…
奏さんに隠し事は通じないのかしらね?
医者だけあって
人を見る目は確か。
“正常”である事が、
どんな状態を把握しきっているというのはこういう事かしら?
ともあれ、私達は前へ進む。
今回で私達は外に出る。
そして暫しの休息。
――今度はどんな休息が私達を待ち受けているのだろう――

遺跡からでる。
特に問題もなく出れて少し拍子抜け。
仲間の皆もそれぞれの行動に移ったし、
私も――
折角なので、
暫くそこら辺をうろついてみる事にした。
相変わらず盛況で、
楽しげな周囲。
私はただ一人、ここにいる。
それで十分。
とても楽しい。
けど…
何故か、今日は寂しかった。
…一人になる事が辛い。
…認めましょう。
私は怖い。
全くこういう時に――
あら?
あれは…
「…ガンさん?」
「…ん?
 お?どうかしたか?」
「いえ、特に。
 一人で回っていたのだけど、
 一人で巡るのも暇なのよね。
 それで…
 ガンさんを偶然見つけたから声をかけたのだけど…
 迷惑だったかしら?」
私の呼びかけに立ち止まり首をかしげるガンさんに、
こちらの状況を説明し、
微笑みかけて首をかしげる。
はっきりと何をして欲しいかはいわない。
本当ならばはっきりというべきなのだろうけれど――
私は、こうして彼がどんな反応を示すかみるのも好きだから。
――どんな反応を返してくれるのかしらとじっと見つめる私に、
暫く考え込み――
「ええっと、
 それって一緒に付き合え…
 って事でいいんだよな?」
「そうよ。」
「ああ、かまわな――ッ!
 いや、なんでもない。
 それじゃ、どこにいく?」
答えを出して尋ねるガンさんに頷く私。
躊躇(ちゅうちょ)なく答える私に、
別に構わないと頷いた直後――ガンさんは少し顔を赤らめた。

そうね。まぁ…
普通デートよね。これ。
本当にガンさんは面白い人。
「…特にどこにいこうとか決めてないのだけど、
 そうね。
 前は奢(おご)ってもらったから、
 今度は私がご招待といきましょうか。
 ――美味しいパスタの店があったのよ。
 パスタ嫌いじゃないわよね?」
「ん、ああ。嫌いじゃない。」
「じゃ、エスコートするわね。
 王子様?」
クスリと笑う。
そんな私に向かって
調子が狂うといいながら、
それでも楽しそうについてくるガンさん。
――そうよ。
こんな状況、いつまでも続くか分からない。
だから――
精一杯楽しみましょう?
いつまでも続くのならばそれはそれで良い事だけど。

談笑を楽しみながら、パスタを突く。
「それにしても…」
「ん?どうした?」
「――こう同年代なんだなと思って――」
「あー、そういえば…」
そう。
少しガンさんは年上なのだけれど、
実はそれほど年に差異がなく、
似たような世界…
ひょっとしたら同じ世界なのかもしれないけれど――
に居たせいか、
非常に知っている事が似通っている。
なので…
話が良く合う。
――向こうで同世代の友達なんて、
最早生きていないに等しいから…
「――ああ、やっぱり良いわね。
 貴方とは話が良く合うわ。」
「いや、こちらこそ礼を言いたいな。
 話題がこんなにも合う人間なんて中々いない…ってわけじゃないんだが、
 色々あるからなぁ…」
そういえば、
ガンさんの周囲には一族の人が結構いるのよね。
やっぱり確執とか何か含みが多いにあるみたいね。
「大変ね。
 ――仲良くすれば…難しいわよね。」
「ん、あぁ。
 ちょっとな…
 仲良く出来ればそれに越した事はないって頭では分かってるし、
 そうなればいいんだけどなぁ…」
「いい方法教えてあげましょうか?」
「え?」
クスリと微笑み、
ポーカーフェイス。
いい方法があるときいて驚くガンさん。
まぁ、勿論、これがいい方法なのかどうかは知らないのだけど、
そう装う事が必要。
「そう。いい方法。その顔は気になるって顔ね?」
「そりゃ、まぁ…な。」
「ふふ。簡単な事よ。
 …正面からぶつかりなさい?」
「…は?」
「そう。好きだと。」
「いやいや!?
 なんか話が飛躍――」
「冗談よ。」
冗談の一言にガックリするガンさん。
「…心臓に悪いからやめてくれ…
 というか、ずっとからかわれて――」
「ただね。
 真っ直ぐぶつかったらというのはほんとよ?」
「え――?」
「――当然と思っている事も声を出さねば伝わらない。
 だから、嫌な事は嫌、
 嬉しい事は嬉しい。
 感謝してるならしてる。
 どんな事でもはっきり伝えてみたらいいのに。
 それがどんな結果を生むか分からないし、
 言えない理由があるのかもしれないけれど――
 伝えないと前には進めないわ。
 溜め込んでいるんじゃないの?案外?」
「…」
真っ直ぐに伝える。
静かにだまって聞いているガンさん。
「フフ、長い話になったわね。
 そろそろ行きましょうか?」
「あ、ああ、そうだな。
 でも――」
「言ったでしょう?
 私の奢りでいいと。」
勘定を支払い店を後にする。
その後、暫くガンさんと周囲を回って、
別れる。
――とても楽しい一時だったわ。
そして…1日が終わる――

* * * * * * *
――占い――
未来を指し示す指針。
本当に未来を見通しているわけでないもの。
だが、
常に例外は存在する。
見通せる者が――


「さてと、次の客は――」
次の客について占う。
いつもやっている事。
最初から相手について占う事で、
何を話せばいいのか、
何を占うべきなのかを大よそ理解する事が出来る。
そして――
それを知る事によって相手に対し信頼を植えつける事が出来る。
当たるも八卦、
外れるも八卦。
どう転ぶか分からないが、
精一杯占うのだから、
相手にも信じてもらいたい。
それが信念。
テーブルの上に並べられたカードを開いていく。
カードが開いていくにつれ、
眉間に皺(しわ)がよっていくのが分かる。
――とても芳しくない結果、だ。
更に、それと同時にそれが不可避の運命である事を知る。
「…う…ん…
 こういう場合師匠ならどうしたかしら――」
占い師として10年修行をしてきたけれど、
初めての結果。
「自分の事は占えないし…
 困ったわねぇ…
 自分の事を占えば少なくとも凶事を避ける術くらいは思いつけるんだけど…
 ここまで顕著(けんちょ)に死がまとわりついた女性か…
 願いは転機。
 過去には悲嘆。
 現在には呪縛。
 未来には試練。
 ――う…ん。
 とりあえず、会いましょうか。
 次の人、お入り下さい。」
どうせ避けえぬことならば、
手早く終わらせた方がいい。
次の客を呼ぶ。
すぐさま、はいという声がして入って来て…
――逃げ出したい気分になった。
「…ッ…」
「どうぞ、よしなに。
 貴女が素晴しい占い師と聞いてきたの。
 ――私が何をすべきか教えて欲しいのだけど…?」
恐ろしい。
恐怖とはこういう事だろうか。
死が分かる。
取り巻く死の渦が。
害意はないから下手な真似をしなければ大丈夫だろうが――
嫌な予感が当たってしまった。
しかし、何故――
何故ただの女子高生がこんなものを背負っているのか?
「…何か?」
言葉の出ない私に静かに疑問を投げかける女の子。
「え、ええ…それじゃ、とりあえず…
 この22枚のカードから一枚引いてもらえる?」
首をふって自分の仕事をせねばと、
それでもなんとか気力を振り絞りカードを差し出す。
無雑作に引き抜く女の子が引いたカードは。
無地、空白。
慌てて残りのカードを確認する。
欠けているのは“隠者”を意味するカード。
「…」
「…」
暫く流れる沈黙。
「どうやら、占えないみたいね。失礼するわ。
 お金は置いてくから――」
それを無言の敗北と察したのだろう。
お金をテーブルに置いて立ち去ろうとする女の子。
「――待って」
「…?」
それを呼び止める。
確証があるわけではない。
けれど、一つだけこの結果に心当たりがあった。
「…何処にいるか分からないけど、
 私の師匠に会いなさい。
 その人なら何か指し示せるはずよ。
 それと…忠告を。
 貴女が望みを捨てない限り、
 貴女の前には苦難がある。
 それは、貴女の纏う死と――」
「…分かったわ。
 そこまででいい。
 それが分かっているなら、
 貴女の力は本物よ。
 なら、師匠の事で何か情報があったら連絡して。
 それと出来れば紹介状も。」
言葉を告げる私の言葉を遮って、
もう一度だけ振り向き、
連絡先を書いた紙を一切れ置いて彼女は去っていった。
どっと冷や汗が流れ落ちる。
何も無くてよかった。
それにしても…
「伊賦夜魅月…か…」
どうして悲しそうに彼女はしていたのだろう。
気にはなったが考えてもしょうがないと頭を振る。
そんな時、
テーブルの上から一枚のカードが零れ落ちる。
描かれたるは“月”
それが意味する言葉は――

――未来を知る事――
とても便利な事。
ただし、それでも自分の事だけは分からない。
自分の事だけが分からないのは、
それが救いであり、
己を護る術であるが故――

* * * * * * *






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