――頭数は揃えたようだが、
こちらとて、こんな所で止まってはいられない。

「痛いのもう一発行くぞっと!」

奏さんの攻撃が炸裂する。
その一撃で、
最後まで耐え忍んでいた似非太陽が

「アハ、アハ、もうダメ…ッ」

と笑いながら飛んでいった。

相変わらず凄まじい威力で豪快ね。
「あいてむ見つけたよー」
そうこうしていると、
エモさんがいつの間にか素材を見つけてもってくる。

相変わらず速いわね。
戦闘はきっちりこなして、
戦闘が終わるとみるや否や、
素早い判断で探索に移る。
「…ねぇ?」
「なに?」
「…どうしてそんなに素材を見つけるのが得意なの?」
…少しどうやっているのか興味がわいたので聞いてみる。
「……
 聞きたい?」
すると、いつになく真剣な表情になる。

そんなに凄い秘密でもあるのだろうか?
…此処で退くのは簡単だけど…
折角聞こうと思ったのだ。
ここで退いては意味がない。
前に進むべき…だろう。
「…聞きたいわ。」
「…なら、教えてあげる。」

沈黙が流れる。
空気が重い。

そ、そこまで深刻な話なのかしら?
「私は…匂いが分かるの。」
「匂い?」
「そう、匂い。
 まだ使えるもの…
 それを嗅ぎ取り、
 どこにあるか見つける事が出来る。
 それはそう難しい事じゃない。
 それは才能でもなんでもない。
 それを行うにはある条件さえ整えば良い…」
「条件…?」
…その条件が、
とんでもなく大変なのだろうか?
…息を呑んで聞く私に、
エモさんは口を開いた。
「…お腹が空いている事。」
「…は?」
…聞き間違えかしら。
「そう、
 お腹が空いて空いてしょうがない時は、
 食べ物を探さないといけない、
 その為にはどんな些細な匂いも逃してはいけない、
 美味しそうな匂いのする所に食べ物はある!
 でもこの島は、
 中々それでも食べ物が見つからない…
 魅月ーおなかすいたー。
 ちょこれーとー!」

成る程。
それで…
凄い才能…なのよね。
ええ。きっと…
「はいはい。
 これでいいかしら?」
チョコレートを1つ取り出すと、
あわてて取って食べるエモさん。
「…慌てて食べなくても逃げないわよ。」
「…うん。」
…本当に可愛い子ね。
全く。
すさんだ心が和んでいくよう。
「それじゃ、いこ?
 もうここに用はないでしょ?」
「そうね。奏さんも待ちくたびれてるだろうし、
 行きましょうか。」
…そして、今日も先を進む。
まだまだ目的の場所へは遠いのだから――

今日も1日平和に終わる。

もうこの遺跡の生活も慣れた。
戦いある日々だというのに、
これが平和で幸せと感じるなのは変かもしれない。
それでも…
皆との出会いが…
皆との生活が――
とても心地良く、
私の心の氷を溶かしてくれたから…
…だから、こんなにも平和で…
楽しくて――
安らかな日常だと感じれるのだろう。
…そして、
昔を完全とはいえずとも、
乗り越えた今…
苛(さいな)みに負ける事はない。

…この島を出たらどうなるか分からない。
けれど、私の心がきっと――
導いてくれるだろう。
進むべき方へと。

* * * * * * *
――厄介事が次から次へと――
けれど、
厄災を抱えた身なればこそ――
ひきこみ遭遇してしまうのは、
当然の帰結なのかもしれない。



「そういう事。
 だから――
 とっとと殺されて――
 ああ、そうか。
 君は別に望んだわけじゃない、
 抵抗してくれて構わないよ。」
「まぁ、抵抗はするけど…
 別に好きにすればとも思うから、
 私に危害を加えなきゃ、
 別に他言もしないし…
 任せるけど?」
「そ、そんな…」
抗議の声を上げる女。
だが、
そんな抗議に意味などない。
「――貴女も…
 死にたいと思っていたなら――
 丁度良いじゃない。
 別に止める事はないわ。
 …
 死ぬ覚悟が出来ているのなら、
 他人に殺されるのも、
 自分で死ぬのも同じ事じゃない。」
これで私から手を退くならばよし。
けれど…
退かないなら、後悔するだけ。
ちなみに…
女はどうやら腰を抜かして動けないよう。
逃げればいいのに、それも出来ないなんて…
全く。
仕方ないとはいえ、
抵抗しなければ殺されるだけだというのに。
私が助けなければの話だけど。
…でも、助けを求めてきた彼女には悪いけれど…
私には彼女が理解出来ない。
だから――
助ける事など出来はしない。
その理由は口に出した通り。
「いいねぇ。
 話が分かるなんて。
 けど… 
 それを信用するなんて出来るわけがない。
 だから…」
静かに男を見据える。
どうやら、彼の意思は揺るがないらしい。
男の腕がかすむ。
どうやらナイフで私を切りつけようとしているらしい。
が。
ナイフが明後日の方向へねじれとんでいく。
「…え?」
「…で?」
これで殺されるくらいならば、
もう…とうの昔に楽になれている。
だが、そうなっていないという事は、
どんな危害があっても、
私には届かないという事だ。
今のもそう。
…普段ならここまであからさまな力なんて働かないのだが…
この森がいかに死で満ちているか、
そして――
彼に殺された人達もまた、
死ぬことを拒否して死んだ為、
霊として残っていた…
だからこその結果だろう。

全く、何人いたのか知らないが…
死にたいのに未練を残す意味が分からない。
死ぬというのなら、
未練の欠片も残さなければいいのに。
はぁ。
全く…
気分転換で来たのに、
こんなに鬱(うつ)になるなんて思わなかった。
さっさと終わらせて――
今日は大人しく過ごさないとね。
「…こないならこっちから。
 ね。」
男に近づき足を払い、
手を喉にあて全身の体重をかけて地面へと押し潰す。
完全に決まった。
「…ぐ…ぇっ…!?」
蛙のような声を出し、男は意識を失った。

「…脆い、脆すぎるわ…
 さてと…」
女の方に歩み寄る。
「…で、死にたいらしいけど、
 どうするの?
 帰るなら今のうち。
 死ぬならそこにいてればそのうち死ねるわよ?」
「あ…う…」
声にならない声を上げる女。
何が起こったのか、
そして、
自分が助かった事にまだ思考が追いついてないのだろう。

別に思考が纏(まと)まるまで待っていても良かったけれど…
待った後の展開を予想してみる。

どれもこれも…
本当につまらない。
「そうそう、男を縛るなら服を使うといいと思うわ。
 手首と足首を封じて猿轡(さるぐつわ)でもすれば、
 手出しも出来ないでしょう。
 それじゃ、
 私は之で。」
最後のアドバイスをして、
私は立ち去る。
ここに居る意味はない。
すぐさま去る事にする。
全く、
厄日ね。
最も…厄日でなかった日なんて、
今まで無かったといえば無かったのだけど…

――後日伝え聞いた所によると、
男が逮捕された記事をみかけた。
また、更に伝え聞いた所によると、
女は生きて今は幸せに生活をしているらしい。
どうやら、
あの後女は警察に男を突き出し、
死ぬという考えを改めたらしい。
…全く。
死にたいと思ったからといって、
死のうなんてしてはいけない。
死ぬのならば覚悟を決めて望むべき。
私が言えた義理ではないのだけど…
それが彼女にも分かったのならば、
まぁ、関わってしまった甲斐(かい)はあったのかしらね。
もう2度とは御免なのだけど。
人を救うのは、私のガラじゃない…

――それは些細(ささい)な事。
そこに深い意味はなく、
特別なものがあるわけではない。
けれど…
それでも何かはもたらしている――

* * * * * * *



嫌な夢を見た。
そんな気がする。

全く、本当につまらない夢――
…でもないわね。
まだ、救いがあるだけ…ね。
それにしても、
嫌な夢をみた後って、
どうしてこんなにやる気がなくなるのかしら。

気分転換をするとしましょうか。
朝の日課も大切だけど…
その前に――
軽く体を動かす事にする。
俗にいうイメージトレーニング。
相手がいるとよりいいのだけど…
まぁ、そこまで贅沢(ぜいたく)はいってられないわね。
想定するは、
私よりはるかに大きく素早い相手。
攻撃をかわし、
相手の隙を見つけ、
そこに付け入り、
体勢を崩させる。
だが、相手は素早く、
体格が大きい。
生半可な事では体は崩せず、
素早いが故、
相手の隙、
弱点を見極めるのが非常に難しい。
だが、
否応(いやおう)なく求められるのが、
この島。
攻撃を受け流し、
相手を崩そうとする。
だが…
「…ダメね。」
そんな事をすれば、最初のうちはいい。
けれど、
後々ダメになるイメージが浮かぶ。
相手の一撃一撃が重すぎる。

全く、
普段ならこんなイメージトレーニングなんてしないのだけど、
ここではそれをする必要性がある。
酷く、面倒といえば面倒ね。
ま、面倒で住めばいいのだけ…ど…
そんな時、ふと気づいた。
初めからかわそうとするから…
そう、思い切り踏み込めない。
踏み込まなければ、
相手に干渉することは出来ないのであれば――
踏み込めばいい。
もしも…一撃でやられてしまう可能性があったとしても、
それならば賭ければいい。
…それは正解だった。
確立は五分、いえ、もっと分が悪いかもしれない。
けど、試してみる価値はある…のかもしれない。
早速試してみよう。

先に進んだ私達を待ちうけたのは鬱蒼(うっそう)とした森。
まるで迷いの森。
だけど、道標はある。
問題なく進んでいく。
順調に進む私達。
でも、そう物事は上手く進まない。
その行く手に待ち受けていたものは――





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