「さぁ、勝利を掴もうか―――――」
『女神の名のもとにッ!』

既に勝利を確信する相手。
そして、唱和する声。
女神の名の元に集いし部隊、か…
まさに信仰。
侮れない、本当に侮れないわね。
見た目だけで判断していれば、
きっと何も出来ない内に打ち砕かれてしまうのだろう。
「ほんと、厄介な相手だな。
 信仰を盾に戦うというのは…」
「?そんなに厄介なの?」
「んー。
 まぁ、生半可なことでは引かないし、
 多少の傷やダメージでは物ともしない上、
 妙に統制がきいているからねぇ。」
「…幸い狂信というわけじゃないのが救いね。」
「そこまでいってたら、
 さすがにねぇ…
 厄介じゃすまない気がするよ。
 しかし、数が多い…」
「…敵の数多い、疲れる。
 それにしても、
 なんで襲い掛かってきたのかよくわかんないんだけど、
 とりあえず倒せばいいんだよね?」
こちらは三人、
相手は九人。
見た数では相手の方が多く有利に見える。
「……数の多い分は私がなんとかするわ。」
「…魅月。
 一人で――」
「あら、私は…
 一人じゃないわよ?」
「そういえば、そうだった。
 それじゃ、任せたよ。」
「ええ…
 さぁ、集いなさい…」
風が吹く。
全てを砕く災厄の風が――
「…風が出てきたね。」
「この程度の風打ち破れないわけが――!?
 な、何これ…!?」
其れは魂を蝕み、
魂を苛(さいな)み、
魂を喰らう。
風と化した『無数の霊団』
それがこの風の正体――
それにいち早く気付いたのは…
「い、いけません!
 これは風ではッ――
 風のように感じますが、
 数えるのも馬鹿らしいくらいの霊が攻撃を仕掛けてきています!
 鎮魂しようにも、
 死霊術でよばれた訳ではないので
 今すぐにはどうしようも――!」
「くっ!
 皆、ロベルト様だけは守るのです!」
アンジェ。
その言葉を聞いて、
総員でロベルトの死守を始める。
さすがに反応も動きも早い。
だが――
貴方達の堅守では、
この風は防げない。
「ついでに私もいくよー」
動きを封じられた第三隊の面々。
それにはとどまらず、
エモさんも魔法を散りばめる。
魔法は風にのり、
さらなる災厄を。
なんとかこの風から抜けようとすれば、
奏さんの強烈な一撃が飛ぶ。
死角は無い。
だが――

「しつこい場合には凍りついてもらいます。」

氷の斬撃が、
無数の攻撃を切り裂き飛来する。
それは私に届く前に霧散するのだけど――
「まさか、ここまで届かせられるとはね…」
「…相手とて弱くはないという事さ。
 強い相手には、単体単体が弱すぎてどうにもならないこともあるんだろう?」
「…ええ。そうね。」
だが、そこまで。
風がやんだ瞬間、立っていたのはただ一人…ロベルトのみ。
実際はアメリーとロディッサもそうだったのだけれど、
アメリーは靴下を脱いで降伏。
ロディッサはジュースの補給に立ち去って行った。

余裕あるわね。あの二人。
「あ、えーと。
 どうしようか…」
ただ一人残されたロベルト。
だが、茫然(ぼうぜん)とした状態ではどうにもならない。
私達の総攻撃が突き刺さり…
彼もまた吹き飛んでいった…
「ははは…、
 多勢に無勢を実践していたんだけど……参ったね。
 まさか逆に多勢に無勢を実践されるなんて予想してなかった…」
しかし、彼もまた体が頑丈らしく、状態を起こし、
尻餅(しりもち)をついた状態になる。
「しかしまぁ……これはこれで。
 なんていうか、さ……」
「…どうかしたの?」
ロベルトに話賭ける。
少し、彼が何をいいたいのか、
気になったから――
「ああ、大した話じゃないよ。
 …うちの隊長を止めてくれないかな。
 さっきシズクが空を流れていくのも見た……
 きっと力になってくれるだろう。」
「シズク…ああ、彼女ね。
 彼女も先へ進んでいたのね…」
「あれ。
 彼女とも知り合いかい?
 まぁ、確かにここに来るまでの道で出会っていてもおかしくないね。
 足止めしてくれてたはずだし。
 …様子がおかしいんだよ、
 僕の知っている彼女ではなくなってる。
 ここに来てから…だろうか……
 財宝で祖国を豊かにしようって…
 言っていたのに……
 うーん………
 ぅ〜………」
「…条件はわからないけど、
 この島では人の精神を犯す何かがあるみたい。
 この島に漂うマナと密接に関係してるみたいだけど…」
「あー…そうなんだ…
 でも、今は…眠………」
そこで力尽きたのだろう。
深い…深い眠りに落ちていった。

成程。
どうやら汚染は大分進んでいるらしい。
この様子だと、
その隊長とやらも、
今頃どうなっているか分からない。
ひょっとしたら、
人間ですらなくなっている可能性もある。

私達が彼女の元までたどり着ける可能性は殆ど無いだろう。
せめて、無事であるよう祈るのみね…
少なくとも、この隊長さん達の為には。

「それにしても…」
「うん…」
「収穫いっぱ〜い」
戦利品の収集をしていたのだが、
予想以上の収穫だった。
それはいい。
「…混沌としてるわね。」
「ほんとだよ…
 なんで下着関係と爆弾が…」
「甘味とジュースも大概だけどね。
 ま、どうすればいいかわからないけど、
 何か使い道があるかもだし、
 有意義に使わせてもらいましょ?」
「…使う機会が来ない事を私は祈るよ。」
…だが、それについてのコメントを控えたくなったのは、
いうまでもないわね…
それから先は順当に。
さらなる先へと進む為、
疲れを癒すために、
眠るとしましょう。
明日もまた…戦いがあるのだから――

* * * * * * *
――戦い――
様々な形をもち、
避けようがないもの。
どんなに避けてもやってくる。
願わくば立ち向かえる力を――



「いつまで続くのかしらね…」
襲撃者。
特に多いわけではないが、
不思議な事ではない。
私が不老であるがゆえに、
不死…かどうかはわからないが、
それに近い存在であるがゆえに、
それを求めるもの、
忌避(きひ)するもの、
恐怖するもの、
唾棄す(だき)るもの…
様々な襲撃者が現れる。
もはや、これはどうにもならない事なのだろう。
遠い昔の日にかわされた約定により、
私が各地を転々として、
高校に通い続けられる。
そんな生活を自由気ままにできるだけでも、
ありがたい事。
その代償でもあるのだし…
余程の事がないかぎり、
相手を殺すまでには至らない。
平穏無事とまではいかないが、
十二分。
けれど、時に億劫(おっくう)になる。
今日は…そんな気分。
「…ねぇ、いい加減諦めたら?
 これはもう…
 どうにもならない事なんだから。
 私を殺したいなら…
 私が己を殺す方法を探している。
 それが見つかれば自然とそうなる。
 だからほっておいて欲しいのだけど…
 …
 どうやらそんな雰囲気じゃなさそうね。
 私の秘密を調べたい、
 そんな感じかしら?」
「…いやいや、話が早くて助かります。
 ええ、我が主の為、
 是非とも教えて欲しいのですが――」
だから、呼びかけてみる事にした。
すると、白い髪のタキシード姿の男が闇から姿を現す。
全くしたたかな相手。
話が通じるかはわからないけど、
話が分からない相手じゃない。
…話し合いの態勢にはなってくれたみたいだし、
話し合いで、潔く引いてくれればいいのだけれど。
「…私にだってわからない事を教えてあげられないし…
 同じことをしたからといって、
 多分、後には死しか残らない――
 なら、何をしたって無駄な事。
 だから帰ればいい。
 主には別の方法を探せ…
 といって下さらないかしら?」
「…ふむ。
 ……
 それが真実であるという確証は?」
「…ないわね。
 嘘をいってるかもしれない。
 けれど――本当の事よ。
 言葉だけでいいなら保障するわ。」
「……
 戦いを仕掛けて無理矢理と思いましたが、
 日が暮れた状態で貴方と戦うのは骨が折れそうですね。
 招かれざる客が多すぎる。
 今はその言葉を信じましょう。
 …ですが、いずれ主と共に来させていただきましょう。
 それではその日までおさらばです――」
そういって男は姿を消した。

厄介な相手ね。
私も神経を集中させて辺りを警戒していなければ、
いつの間にか現れ、
いつの間にか姿を消していたって感じになったのかしら。
それにしても、
次は主とか…
やれやれ厄介な事にならなければいいのだけど…

――嵐の前の静けさは、
嵐がくる前兆。
その嵐が大きければ大きいほど、
激しければ激しいほど、
前触れはとても静か――

* * * * * * *



また朝が来る。

そういえば、
最近朝が快適な気がするのだけど、
気のせいかしら?
それまでが酷かったというのもあるから、
ただマシになったというだけの事かもしれないけど…
霊達も大人しいし…

こうも平和だと逆に不安ね。
平和なのはいい事なんだけど…
とても複雑な気持ちが募っていく…

考えてもしょうがないか…
いつも通りの事をこなしましょうか。
何故ならこれは…
悪い事ではないのだから――

朝の日課を済ませ、
仲間達との会議を終わらせ先に進む。
まっすぐ進んでいくと、
やはり待ち受けていたのは敵。
雲と梟と栗鼠の組み合わせ、か。
栗鼠が三匹いるけど…
まぁ、大差はないわね。
強さはにたりよったり…
以前戦った時は勝利したし、
相手があの時のままであればそう苦戦はないだろう。
今の私達に、
生半可な相手では太刀打ちできないということを、
しっかり刻んであげて…
思い知らせてあげるとしましょう。
…さて、と…

「…後の敵は己の油断と慢心――
 こればかりはどうしょうもないわね…
 さ、かかってらっしゃい。
 直に終わらせてあげるわ…!」





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