「…戦闘終了ね。お疲れ様」
「…やれやれ…
 まさか数で押してくるとは思わなかったよ…」
「…つかれた…」
最初に現れた敵をすぐに駆逐できたものの、
よってきた小悪魔達を倒し切るのに時間を費やしてしまった。
「まぁ、強敵相手にするよりははるかに楽だけど…
 こう考えると雑魚相手といっても油断は禁物ね」
「ホントだね…
 やれやれ…
 所で…」
「…?
 何?」
「やたらと角と腐った枝が散らばっている件についてどう思う?」
辺りを見回す。
周囲には相手の落とした大きな角と、
辺り一面に散らばる腐った枝。
「…嫌がらせに近いわよね」
「私もそう思うが…
 まぁ、もっていこうか…」
「…仕方ないわよね。」
「角もったらもうもてないよ?」
「…ま、仕方ないわよ。
 それだけでいいからしっかり持ったら先に進みましょ?」
「だ、ね。」
平穏は続いていく。
のどかな日々。
終わりは近づいているといのに、
全くそれを感じさせないほどに。
だから――
今を大切にしたいと思う――
まだ、終わらない。
だから――
先を急ぎつつも、
しっかりと…

* * * * * * *
――招待。
招かれるものと招かれざるもの。
何の因果かそこに集えば、
そこにあるのは、
――厄介事――



「…全く、招待状、ね…」
招待状の送り主は、
先日現れた男の主から。
届けたのは先日現れた男。
招待状の内容を読むと、
迷惑をかけたお詫びに食事をしたいらしい。

全くどこまで信用していいのか。
話を分かってくれた上で、
もう何もするつもりがなく、
本当に和解したいがゆえにならいいけど…

警戒くらいはしておいた方がいいかしらね。
いかないという選択肢もあるけど…
「ま、暇は持て余していたし、
 付き合うくらいはいいわよね。
 …精々楽しませてもらえるといいのだけど…」
生憎(あいにく)どんな罠間が待ち受けていようと関係は無い。
その程度で退いていたのでは…
私らしくはないのだし。

…ちなみに、その屋敷までは
何事もなく、
屋敷の中にも無事に入れ、
豪勢な食事も用意されている。
罠は無さそうに見えるが…
「…」
「あら、お食べにならないのですか?」
そう問いかけるは屋敷の主。
見た所異国の人物らしく、
金色の髪に青い瞳をしている。
どこの国なのかは分からないけれども…
流暢(りゅうちょう)に
主が女性という事は目的はやはり…
(永遠の若さ…か…)

過去、永遠の若さを保つために、
邪法に手を染めてきた女性達がいた。
彼女もその一人だと思うと、
素直に退くようには到底思えない。
「…いえ、いただくわ。」
「…はぁ。
 それにしても残念だわ…
 …本当に何も知らないのね?」
「…最初からそういってるわ。
 …とてもおいしい料理ね。」
「ふふ、良かった。」
毒は無い…わね。
毒があるのならば多少ならば分かる。
無論、集中してみないといけないのだけど。
「…それにしても、貴女の望みはやはり、
 永遠の若さなのかしら?
 それなら…やめておいた方がいいわ。
 普通に生きるからこそ美しさは生えるものよ?」
「いいえ、そんな事ではありませんの。
 …
 そうですわね…
 ……
 私の一族は学者の一族ですの。」
「…?」
「怪異…主に吸血鬼等の永世種と呼ばれる存在の。
 何かの手助けとなればいいかと思ったのですが、
 世の中そうは甘くはないといった所でしょうか…」
「…吸血鬼…ね…」
思い出が蘇る。

そういえばこの世界、
そんな存在もいるのよね…
「…まさか…!
 あった事が…!?」
「…一応ね。」
「…やはり異質な存在は引かれあうのでしょうか…
 ああ!
 となれば…!」
「断るわ。」
「…ですよねー…」
あからさまに残念な顔をする主。
「…そういえば名前を聞いてなかったわ。」
「ああ、そうでした。
 私の名前は、
 エリザベート=ヘルシング…
 エリザと呼んでいただければ結構ですわ。」
「…成程…
 わかったわ。
 …それでエリザ。
 話があるのだけど…」
「…なんですの?」
「…周囲に殺気が少しずつ増えてるのだけど、
 貴女の仕業などではないわよね?」
「いえ、私の他には執事と料理長、それからメイドくらいしかいないはず…
 …
 どうやら面倒事がやってきたみたいですわね…
 お客様なのですからどうか大人しく…」
「せずに、混ぜてもらってもいいのでしょう?」
「…本気ですか!?」
「…厄介事覚悟で乗り込んで、
 少し肩すかしをくらっていたところ。
 それくらいさせてもらいたいわ。」
「…うう、罠前提にされていたようで、
 何か釈然(しゃくぜん)と…」
「…当然だと思うわ。」

全く素直なのね。
いい友達になれたらいいのだけど…
きっとそれは無理。
せめてできる事は、
今いる敵を倒すことくらいかしら。
私の敵であれば倒すのは当然だし…
彼女を狙う敵だというのなら、
そのまま彼女へ招待してもらった礼になる。

さて、一体どこの馬鹿が勝負を申し込みに来たのか…
じっくりと見据えさせてもらうとしましょうか…
私の予測だと、
相手の目標は私ではなく彼女。
そして、
敵は人にあらざる者。
…全く…
何もなくとも勝手に楽しませてくれるなんて、
これもさだめなのでしょうね。
嬉しいやら、
悲しいやら……
ま、退屈しないだけよしとしましょうか。

――誠実――
それは時に誤解を生むもの。
されど、
全ての物事において必要なもの。
…捨ててはならないもの。

* * * * * * *



先へと進む。
そんな中、
一人の姿を見かけた。
その姿の持ち主は――
「ジャックさん?」
「あれ?
 魅月さんじゃないですか、
 こんな所で会えるなんて奇遇ですね?」
「ほんとにね…
 元気そうで何より。
 …」
「…?
 じーっと俺の顔見つめて何か俺の顔についてますか?」
「ん。
 いえ…特になんでもないわ。」
出会ったのはジャックさん。

相変わらず素敵な笑顔をするものだから、
――つい、見惚れてしまったわ。
ああ。
どうしてこう――
懐かしい記憶をこんなにも…
懐かしい感情をこんなにも与えてくれるのだろうか…

そう。懐かしい人達の香がする。
「?
 まぁ、何もないならいいんですが…
 魅月さんも元気そうでよかったです。」
「…」
「あの?
 本当にどうかしましたか?
 ひょっとして具合でも悪いんじゃ…
 それなら――」
「いえ、そうじゃなく…
 …そうね。
 なんていえばいいのかしら――」
何か妙な違和感がある。
その違和感の元が何か分からないけれど…
どういったらいいのだろうか。
この感覚…

そう、もどかしい。
非常に。
こう喉元まで出かかっているのに出てこない。
何が気になっているのか…

あ。
「…?」
「…私の事、別にさん付じゃなくていいのよ?」
「…え?」
「…魅月と呼び捨てで構わないわ。
 何かさん付けされるとくすぐったくてしょうがないのよ。
 …だから、魅月と呼び捨てでいいわ。」
「…え、と…それじゃ、魅月さ…魅月。
 俺からもお願いがあるんだけど…」
「…何かしら?」
「俺の事も別にジャックさんなんていわなくても、
 ジャックと呼び捨てで構いませんよ?
 …まぁ、魅月がよければだけど――」
「…そうね。ジャック…
 これでいいのかしら。
 …」
…非常にまずい。
いえ。
別に問題はないのだけど…
とても照れ臭い…
なんだか無性に…
でも、それはジャックさんの方もそうだったらしい。
「…」
「…」
暫く沈黙が二人の間に流れる。
「あの」「ねぇ」
…沈黙を破ろうとしたら、
息を合わせたような同時タイミング。
…さらなる沈黙が訪れる。
…困った。
どうしましょうか…
でも、困っているのもジャックさんも同じようで…

ここは私がなんとかするしかないか…
「…別にそんなに意識しなくてもいいと思うわよ?」
「そ、それもそうですね…。
 いや、
 なんだか緊張してしまって…」
「確かに…そうね。
 …
 やっぱり呼び方一つ変えるだけでこうも違うものなのかしら?」
「みたい…ですね。
 なれれば問題はないと思うんですが。」
……
よかった。
なんとかなったようで…
「…とりあえず、
 私の方は時間があるのだけど、
 よかったらしばらく一緒しない?」
「そうですね…
 俺の方も時間がありますし、
 喜んで一緒させてもらいますよ。」
少し疲れた。
少しもたれかかるようにして暫く二人で時間を過ごす。
木々に囲まれ、
鳥の囀(さえず)りが聞こえる中、
こうやって時を過ごすのはとても心地がよくて――


楽しい一時を過ごし、
仲間達の元へと戻る。
ずっとあの一時を過ごせれば…
とも思ったのだけれど…
そうもいってられはしない。
まだ終わってはいないのだから…

終わってもいいかなと思ったりもしないではないけど…
まぁ、さすがにそういう訳にもいかないのよね…
ともあれ、
仲間達の元に戻り、
先に進む私達。
その前に立ちふさがったのはやはり島に潜む魔物達。
一匹の狼と、
…気配が4つ。
どうやら周囲の木々に魔物が潜んでいる…
そう思った矢先、
刃のような葉が降り注ぐ。
かろうじてかわす私達。

成程。
潜んでいるわけではなく…
木々そのものが敵というわけね。
どおりで分からないはず…
けれど、種が明かされたなら話は単純。
まとめて葬り去り先をゆくだけ。
さぁ、始めましょうか。
勝負は一瞬。
――後には何も残さないわ。

「――全く次から次に…
 でも、無駄よ。
 貴方達では私には勝てないわ。
 今からそれを証明してあげる…
 さぁ…覚悟なさい。
 絶望を刻んであげるわ。」





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