「…戦闘終了ね。お疲れ様」
「…やれやれ…
まさか数で押してくるとは思わなかったよ…」
「…つかれた…」
最初に現れた敵をすぐに駆逐できたものの、
よってきた小悪魔達を倒し切るのに時間を費やしてしまった。
「まぁ、強敵相手にするよりははるかに楽だけど…
こう考えると雑魚相手といっても油断は禁物ね」
「ホントだね…
やれやれ…
所で…」
「…?
何?」
「やたらと角と腐った枝が散らばっている件についてどう思う?」
辺りを見回す。
周囲には相手の落とした大きな角と、
辺り一面に散らばる腐った枝。
「…嫌がらせに近いわよね」
「私もそう思うが…
まぁ、もっていこうか…」
「…仕方ないわよね。」
「角もったらもうもてないよ?」
「…ま、仕方ないわよ。
それだけでいいからしっかり持ったら先に進みましょ?」
「だ、ね。」
平穏は続いていく。
のどかな日々。
終わりは近づいているといのに、
全くそれを感じさせないほどに。
だから――
今を大切にしたいと思う――
まだ、終わらない。
だから――
先を急ぎつつも、
しっかりと…
「…全く、招待状、ね…」
招待状の送り主は、
先日現れた男の主から。
届けたのは先日現れた男。
招待状の内容を読むと、
迷惑をかけたお詫びに食事をしたいらしい。
…
全くどこまで信用していいのか。
話を分かってくれた上で、
もう何もするつもりがなく、
本当に和解したいがゆえにならいいけど…
…
警戒くらいはしておいた方がいいかしらね。
いかないという選択肢もあるけど…
「ま、暇は持て余していたし、
付き合うくらいはいいわよね。
…精々楽しませてもらえるといいのだけど…」
生憎(あいにく)どんな罠間が待ち受けていようと関係は無い。
その程度で退いていたのでは…
私らしくはないのだし。
…ちなみに、その屋敷までは
何事もなく、
屋敷の中にも無事に入れ、
豪勢な食事も用意されている。
罠は無さそうに見えるが…
「…」
「あら、お食べにならないのですか?」
そう問いかけるは屋敷の主。
見た所異国の人物らしく、
金色の髪に青い瞳をしている。
どこの国なのかは分からないけれども…
流暢(りゅうちょう)に
主が女性という事は目的はやはり…
(永遠の若さ…か…)
…
過去、永遠の若さを保つために、
邪法に手を染めてきた女性達がいた。
彼女もその一人だと思うと、
素直に退くようには到底思えない。
「…いえ、いただくわ。」
「…はぁ。
それにしても残念だわ…
…本当に何も知らないのね?」
「…最初からそういってるわ。
…とてもおいしい料理ね。」
「ふふ、良かった。」
毒は無い…わね。
毒があるのならば多少ならば分かる。
無論、集中してみないといけないのだけど。
「…それにしても、貴女の望みはやはり、
永遠の若さなのかしら?
それなら…やめておいた方がいいわ。
普通に生きるからこそ美しさは生えるものよ?」
「いいえ、そんな事ではありませんの。
…
そうですわね…
……
私の一族は学者の一族ですの。」
「…?」
「怪異…主に吸血鬼等の永世種と呼ばれる存在の。
何かの手助けとなればいいかと思ったのですが、
世の中そうは甘くはないといった所でしょうか…」
「…吸血鬼…ね…」
思い出が蘇る。
…
そういえばこの世界、
そんな存在もいるのよね…
「…まさか…!
あった事が…!?」
「…一応ね。」
「…やはり異質な存在は引かれあうのでしょうか…
ああ!
となれば…!」
「断るわ。」
「…ですよねー…」
あからさまに残念な顔をする主。
「…そういえば名前を聞いてなかったわ。」
「ああ、そうでした。
私の名前は、
エリザベート=ヘルシング…
エリザと呼んでいただければ結構ですわ。」
「…成程…
わかったわ。
…それでエリザ。
話があるのだけど…」
「…なんですの?」
「…周囲に殺気が少しずつ増えてるのだけど、
貴女の仕業などではないわよね?」
「いえ、私の他には執事と料理長、それからメイドくらいしかいないはず…
…
どうやら面倒事がやってきたみたいですわね…
お客様なのですからどうか大人しく…」
「せずに、混ぜてもらってもいいのでしょう?」
「…本気ですか!?」
「…厄介事覚悟で乗り込んで、
少し肩すかしをくらっていたところ。
それくらいさせてもらいたいわ。」
「…うう、罠前提にされていたようで、
何か釈然(しゃくぜん)と…」
「…当然だと思うわ。」
…
全く素直なのね。
いい友達になれたらいいのだけど…
きっとそれは無理。
せめてできる事は、
今いる敵を倒すことくらいかしら。
私の敵であれば倒すのは当然だし…
彼女を狙う敵だというのなら、
そのまま彼女へ招待してもらった礼になる。
…
さて、一体どこの馬鹿が勝負を申し込みに来たのか…
じっくりと見据えさせてもらうとしましょうか…
私の予測だと、
相手の目標は私ではなく彼女。
そして、
敵は人にあらざる者。
…全く…
何もなくとも勝手に楽しませてくれるなんて、
これもさだめなのでしょうね。
嬉しいやら、
悲しいやら……
ま、退屈しないだけよしとしましょうか。
先へと進む。
そんな中、
一人の姿を見かけた。
その姿の持ち主は――
「ジャックさん?」
「あれ?
魅月さんじゃないですか、
こんな所で会えるなんて奇遇ですね?」
「ほんとにね…
元気そうで何より。
…」
「…?
じーっと俺の顔見つめて何か俺の顔についてますか?」
「ん。
いえ…特になんでもないわ。」
出会ったのはジャックさん。
…
相変わらず素敵な笑顔をするものだから、
――つい、見惚れてしまったわ。
ああ。
どうしてこう――
懐かしい記憶をこんなにも…
懐かしい感情をこんなにも与えてくれるのだろうか…
…
そう。懐かしい人達の香がする。
「?
まぁ、何もないならいいんですが…
魅月さんも元気そうでよかったです。」
「…」
「あの?
本当にどうかしましたか?
ひょっとして具合でも悪いんじゃ…
それなら――」
「いえ、そうじゃなく…
…そうね。
なんていえばいいのかしら――」
何か妙な違和感がある。
その違和感の元が何か分からないけれど…
どういったらいいのだろうか。
この感覚…
…
そう、もどかしい。
非常に。
こう喉元まで出かかっているのに出てこない。
何が気になっているのか…
…
あ。
「…?」
「…私の事、別にさん付じゃなくていいのよ?」
「…え?」
「…魅月と呼び捨てで構わないわ。
何かさん付けされるとくすぐったくてしょうがないのよ。
…だから、魅月と呼び捨てでいいわ。」
「…え、と…それじゃ、魅月さ…魅月。
俺からもお願いがあるんだけど…」
「…何かしら?」
「俺の事も別にジャックさんなんていわなくても、
ジャックと呼び捨てで構いませんよ?
…まぁ、魅月がよければだけど――」
「…そうね。ジャック…
これでいいのかしら。
…」
…非常にまずい。
いえ。
別に問題はないのだけど…
とても照れ臭い…
なんだか無性に…
でも、それはジャックさんの方もそうだったらしい。
「…」
「…」
暫く沈黙が二人の間に流れる。
「あの」「ねぇ」
…沈黙を破ろうとしたら、
息を合わせたような同時タイミング。
…さらなる沈黙が訪れる。
…困った。
どうしましょうか…
でも、困っているのもジャックさんも同じようで…
…
ここは私がなんとかするしかないか…
「…別にそんなに意識しなくてもいいと思うわよ?」
「そ、それもそうですね…。
いや、
なんだか緊張してしまって…」
「確かに…そうね。
…
やっぱり呼び方一つ変えるだけでこうも違うものなのかしら?」
「みたい…ですね。
なれれば問題はないと思うんですが。」
……
よかった。
なんとかなったようで…
「…とりあえず、
私の方は時間があるのだけど、
よかったらしばらく一緒しない?」
「そうですね…
俺の方も時間がありますし、
喜んで一緒させてもらいますよ。」
少し疲れた。
少しもたれかかるようにして暫く二人で時間を過ごす。
木々に囲まれ、
鳥の囀(さえず)りが聞こえる中、
こうやって時を過ごすのはとても心地がよくて――
…
楽しい一時を過ごし、
仲間達の元へと戻る。
ずっとあの一時を過ごせれば…
とも思ったのだけれど…
そうもいってられはしない。
まだ終わってはいないのだから…
…
終わってもいいかなと思ったりもしないではないけど…
まぁ、さすがにそういう訳にもいかないのよね…
ともあれ、
仲間達の元に戻り、
先に進む私達。
その前に立ちふさがったのはやはり島に潜む魔物達。
一匹の狼と、
…気配が4つ。
どうやら周囲の木々に魔物が潜んでいる…
そう思った矢先、
刃のような葉が降り注ぐ。
かろうじてかわす私達。
…
成程。
潜んでいるわけではなく…
木々そのものが敵というわけね。
どおりで分からないはず…
けれど、種が明かされたなら話は単純。
まとめて葬り去り先をゆくだけ。
さぁ、始めましょうか。
勝負は一瞬。
――後には何も残さないわ。
「――全く次から次に…
でも、無駄よ。
貴方達では私には勝てないわ。
今からそれを証明してあげる…
さぁ…覚悟なさい。
絶望を刻んであげるわ。」
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