戦いの結果は――予想通りだった。

「ようこそ、私の舞台に。」
「今日も心地良い春風を贈りましょう・・・」


まるで、戦闘というよりは、
何処かの舞台に現れたかのように歌い、
幻を使った手品を振舞う、
まるでそれは幻術を使った喜劇――
しかし…
そんな喜劇で倒されるほど、
私達は弱くはない。

「こ、こんな舞台など・・・ッ」
「どうしてこんなことを・・・?」


早々に御退場して頂くことにしてもらった。
まぁ、あの華奢な体で、
奏さんの一撃に耐えれるわけが無いわよね…
奏さんの攻撃は本当に凄いわ。
もし、それを本人にいったら、
「そんな事で褒められてもなぁ…」
ときっと苦笑を浮かべるだろうので、
特に何もいわないようにしているが。
そんな時、
偶然にも奏さんと目があったので、
クスリと笑ってしまった。

「何故私の方をみて笑うかな…」
まぁ、当然の事ながら、
奏さんもそんな様子に気づくわけで、
結局の所、
何もしないでも苦笑いを浮かべさせてしまった。

まぁ、そんな姿も可愛いからいいのだけど、
余り気分を害し過ぎるのも意図した所ではない。
「…ごめんなさい。
 つい、色々思い出してしまって、ね。」
なので――
素直に謝る事にした。
「ああ、成る程な。
 確かに色々あったからなぁ。
 そりゃあ、ばつの悪い所を見られたりもしたし、
 そういう事もあるか。
 …私だってそういう時あるし、
 まぁ、そういう事なら別にいいさ。」
「…そういってもらえると助かるわ。」
「…
 本当に色々な事があった…
 まだこうしていられるのが信じられないくらいだ。
 予定では、
 もうこの島をたっているつもりだったし、
 別段不和とかがあるわけじゃないが、
 色々問題を抱えまくっていた中、
 その問題に負ける事なく、
 ここまでやってこれたって凄い事だと思う。
 いや。
 まぁ、なんとかなるとは思っていたが…
 一抹の不安がないといえば嘘になる状況だったしな…」
「……後悔してる?」
…話を流す事は簡単だけど…
少し、ゆっくり奏さんと話したくなったので、
話を続けてみる。
…吉と出るか凶と出るかは分からないのだけれど…
「全然してないな。
 まぁ、後悔するような真似しないように生きてはいる…
 つもりだ。
 …出来る限りな。」
「…それならよかったわ。
 まぁ、迷惑かけっぱなしだからね。
 特に貴方に対して私は。」
「違いない。
 まぁ、だからこそ――
 感謝もしなければいけないわけだが…
 おっと。之以上は恥ずかしくていえないから、
 あんまり突っ込んで聞かないで欲しい。」
「…分かったわ。」
そうして、奏さんと喋っていると、
ずっと2人で喋って動かない事にじれたのか、
「ふたりともはやくこないとおいてくよー?」
エモさんが私と奏さんをせっつく。
「…ま、今はゆっくり話すときじゃないし、
 行こうか。」
「そうね。」
せっつかれた以上、
こうしてゆるゆると話をする訳にはいかない。
私達は先に…
先に進まねばならない。
…今日中に目的地に着くまでが、
本日の成すべきノルマなのだから――

* * * * * * *
――自らを殺す。
それは覚悟をもって挑む事。
だが――
その覚悟をもってしても、
他人に殺されるとなれば――



…5人の男女が、
深い森の中で集まった。
年齢もバラバラで共通点は見当たらない。
何故、彼等が集まったのはそれは――
「これで、皆揃ったな。」
「ええ…」
「…で、遺書はちゃんと用意してきた?」
「…ああ。
 身の回りの整理も全て、な。」
…自ら自らの命を絶つため、
でも、
1人で死ぬのは寂しいから、
皆で集まって…
「…さて、これで万全。後は…」
「死ぬだけだな。
 …
 でも、こんな所で集まってってことは、
 首を吊って…?」
「いやいや、もっと効率的な方法があるんだ。
 そう――」
男の腕が動く。
次の瞬間、疑問を投げかけた中年の男の首から鮮血が迸(ほとばし)る。
「私が殺せば良い。
 どうせ捨てる命なんだろう?
 どうせ死ぬというのだろう?
 そして――
 死ぬ準備は出来ているのだろう?
 だったら…
 別に私に殺されても文句はあるまい?
 違うか?
 違わないだろう?
 だから、大人しく殺されてくれ?」
再び男の腕が動く。
「ぐ…あぅ…うぁ…!?」
次に犠牲になったのは、、
男の左に立っていた中年の女性。
その胸に…恐らくは心臓の位置…にナイフが突き立っていた。
「ひ…ぁ…た、たすけてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」
その様子をみたサラリーマン風の青年が逃げていく。
そして、最後に残った女性もまた…
「ひっ…!
 あっ…!」
逃げ出した。
後に残されたのは狂気をはらんだ男がただ1人残される。
「…酷い、酷いなぁ。
 どうして逃げるんだろう?
 死にたいといっていたのに、
 死にたいのなら、
 殺してあげようと思ったのに。
 どうして…
 自殺はいいのに殺されるのは嫌なのか。
 本当に酷い…酷い人達だ――」
残された男は捜す。
逃げ出した二人を。
確実に、息の根を止めて――
彼等の望みを叶える為に…

「…霊がざわめいて居るわね。」
そんな森に、丁度私は来ていた。
別に大した意味はない。
こうして森の中にいると昔を思い出す。
それだけの話。
そう。
一言でいうなら――感傷に浸っていたのだ。
静かな森…
今は1人静かに――
そう願っていたのだが、
残念ながらその願いは叶わなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
女の悲鳴のような声が聞こえてくる。
遠くからも助けてくれという男の声。
だが、その男の声は消えた。
悲鳴を上げて。
…面倒事。
首を突っ込むのも面倒な位の。
けれど居合わせてしまったのだから――
少し関わって見る事にした。
女の悲鳴がする方へ歩みを進める。
すると…女が私にぶつかった。
私にぶつかって尻餅をつく女。
だが、私の姿をみると、すがり付いてくる。
「あ、あ…お、お願い…た、助けて…!」
「…別に助けるのはいいけど、
 どうかしたのかしら?」
「み、皆殺されたの…!
 私も殺される…!
 助けて…!お願いだから助けてよぉぉぉぉ!!」
全く穏やかじゃない。
殺されると来るとはね。
そして、此方に駆け寄る足音。
成る程。
…これはもう私も逃げれないわね。
そして、そう時間が立たないうちに、
1人の男が現れる。
血に濡れたナイフをもった男が。
その姿をみて、悲鳴を再びあげて、私の背後に隠れる女。
「…やれやれ…ね。
 …この辺には殺人鬼が闊歩(かっぽ)するようになったのかしら?」
「ははは、酷いですねぇ。
 私はそこの人達の望みを叶えただけですよ?
 おや?
 それにしても、貴方どうしてこんな所に?
 ははぁ、分かった。分かりました。
 貴方も死にたいという訳ですね。
 これは素晴しい。
 私は更に1人殺せるという訳です。
 まぁ、見られた以上、殺さないといけない訳ですけどね。」
「その上話も通じない…か。
 それにしても、望みを叶えたとは?」
「単純な話ですよ。
 そこの人達は自ら死ぬことを望んでいた。
 だから――」
「…死を貴方が与えようとした、と。
 成る程ね。」
…全く面倒な話。
その上、
とても下らない。
ならば――

――もし罪に問うというならば、
何が罪なのだろうか。
どうして罪なのだろうか。
それを分かるのは――
己の心と、神のみなのかもしれない――

* * * * * * *



次の日の朝を迎える。
今日は、レイナさんが合流するはずなので、
いつもより早く起きて、
待って見る事にした。
…大丈夫なはず。
待っていると――
そう時間もたたないうちに、
レイナさんの姿が見えた。
「…お疲れ様。
 頑張ったわね。
 疲れたでしょう?」
「うん。もう、ほんとにつかれたよ!
 まぁ、ちょっと予想外な事が――
 あれ?
 ひょっとして――
 皆待っててくれたとか?」
「当然でしょう?
 仲間なのだから。」
何をいってるのかと、笑って答える。
「…全く、先にいってくれてても良かったのにさ。」
「そういうわけにはいかないわ。
 これまで皆でやって来たのだから、
 最後まで一緒にやっていきたいじゃない?
 …クス。
 誰一人欠けても…
 寂しいものよ。本当に――」
「……ごめんね。
 皆に迷惑――」
「…あら、違うでしょう?」
「?」
…そう。こういう時にいうのは、
ごめんなんて言葉じゃない。
他ならぬ貴女が教えてくれたのは――
「…待っていてくれてありがとう。
 ごめんなんていう必要ない。
 じゃなかったかしら?」
「あっ…!」
「…皆も待ってるわ。
 ほら、行きましょう?
 皆揃って、
 最後のゴールテープを切る為に…
 頑張っていきましょうね?」
「…そだね。
 うん。
 頑張ろうね!
 今まで皆でやってきたんだし、
 これからも皆でやっていきたいよね。
 …気を取り直して――」
「頑張りましょうね。」
クスリと顔を見合わせて笑う。
そう。
どんなに躓(つまづ)いても失敗しても良い。
皆とこの道を一緒に歩む事に意味があるから――
誰一人、欠けて欲しくない。

…皆揃って心機一転。
気合を入れて進む私達の前に、
再び敵が立ちふさがる。
立ちふさがった敵は、
先日倒した幻術師…イリュージョニストの1人と、
幻で作られた虎が三体。
なるほど。
リベンジマッチという訳ね。
あれが己の幻術の全てと思わないで貰おうといった所だろうか?
全く、
プライドが高いとはこういう事かしら?
プライドだけでどうにかならない事もあるというのに。
ならば…
教えてあげるとしましょうか――

「それでも、貴方は私達に勝つ事は出来ない。
 届かせる事は出来ない――
 ここで朽ち果てるが貴方達の運命よ…」






                                         戻る