「うご、くな…よ?
 …オ、オ、スワ、…リ。」

「クリフォード兄さん……敵が見える?
 …見えるわよね、私たちの敵だもの。」

2人コンビネーションをあわせ、私へと襲い掛かってくる。
だが、
攻撃は荒く、
私に満足に当てる事は叶わない。
そして、
私には彼等の周囲に光が満ちているのが分かる。
成る程――
その光こそが彼らの力の源。
ならば――
霊の毒を乗せて風を運ぶ。
それは呪詛、
それは――
力を奪いて力を束縛へと変容させるもの。
「最初は過酷に――
 そして、苛烈(かれつ)に…
 吹き荒べ!」
怯んだ相手の姿を確認する事なく、
追撃。
全力で風を叩き込む。
「や、やだッ!
 し、死にたくないっ!兄さん!?
 クリフォード兄さんッ!!?」
慌てふためくマリアベル。
そして、風に狂わされたクリフォードの攻撃は、
周囲を巻き込み自壊していく。
「――
 殺しはしないわ。
 少し大人しくなってもらうだけ――
 といっても聞いていないようね。」
くるりと背を向ける。
もはや、勝負はあった。
彼らはもう――戦えない。

「エゥア……ウェ…?」

「ごめんなさいいいぃぃッ!!
 ごめんなさいいいいぃぃぃッ!!!
 にいぃさぁぁんっ!!」

そして、辺りは静寂に包まれ、
空に漂っていた黄色い球体が降りてくる。
声が聞こえるが…
はっきりした声は聞こえない。
耳を傾けようと球体に手を伸ばしたその時――

「マァァ…ナアアァァァァァアアアァァァッ!!」

「ヒヒッ!…そうはいきませんよ、病人さん。」

「グェァ…ッァアェ…ッ!?」

突然踊りかかるクリフォードに、
それを阻害し、
黄色い球体を奪い去る謎の影。
2刀の短剣を使うのは分かったが――
何をしたのかは速すぎて見えなかった。

相当の手だれであるらしい。
「…まったく、
 中毒者が触れていいような代物ではないのですよ。
 あぁ、そちらには礼を言わなければいけませんねッ!
 心の発見および確保、ありがとうございますッ!!
 とってもとっても感謝しておりますよ!
 えぇ!!そりゃぁもう!!」
そして、
頭を下げながら恐るべきマシンガントークで私にしゃべりかけてくる。
「別に貴方の為にやった訳じゃないわよ?」
「えぇ!!分かっていますとも!!
 まぁ、些細な事です!
 ……では、そんなところでッ!
 コンゴトモヨロシク。
 …ククッ!」
更に話しかけるも、
相手は私と喋る気がないらしく、
素早く話を打ち切りさっていく。

一体なんだったのかしら?
去り際に後三つといった気がするけど…
何故あれを集める必要が…
宝玉という訳ではない。
別の何か――
そう、それも重要な何か…

考えても詮無(せんな)き事かしら。
…気にせず今は前へ進むとしましょう。
勝利は得た。
後は仲間達と合流するのみ――

他の皆は大丈夫かしら?
中々厄介な相手だけど…

心配するだけ損かしらね。
ともあれ…
今日は目的地に向けて出発して、
明日皆と合流。
…どうにもいけないわね。
起きていればいるほど、
次々と――
嫌な想像をしてしまう。

きっと疲れているのね。
今日はゆっくりと眠りましょうか…
そう…
夢も見ぬほどに――

* * * * * * *
――常に隣り合わせ。
これが特別と言う事では無い。
これが始めてという訳ではない。
そして――
之が…最も悲しい別れでもない…



そっと、砕斗の頭をなでて、
顔をなで、瞳を閉じさせる。

暫くじっと彼の顔をみていると、
雫が一滴彼の顔へと落ちる。
もう、涙は枯れつくした。
どんな死に立ち会っても、
涙など出ないと思っていたのに――
「…馬鹿ね。本当に――
 格好つけすぎよ?
 全てを分かって、
 尚、そうある事を選ぶなんて――
 …
 …貴方はもっと生きるべきだったわ。
 全てはこれからじゃない。
 なのに――」
…だが、万の言葉を尽くそうと、
死した者は蘇らない。
そして、死した魂も天へ昇ったのが分かる。
故に、声は届かない。

…静かに部屋を出る。
「…もういいのか?」
「ええ。
 …この町を出るわ。」
「…そうか。
 これからの事もある。
 …何も出来ないが…
 せめて旅の無事でも祈るとしようか。
 …裏手に回れ。
 そうすれば…
 お前がいた事なんて分かりはしない。
 …それが望みなんだろう?」
「…ありがとう。
 それにしても…よく分かったわね?」
そのまま立ち去ろうとする私に、
部屋の前で待っていた滝夜が声をかけてくる。
――何も語りはしなかった。
彼の事は何もしらない――
だが、彼は全てを知っている。
全く…
伊達じゃないということね…
そのまま去っていく。
かける言葉など不要だろう。
私は言葉に甘えるのみ。
――後は、任せたわ。

…その後、大きな騒動にはなったようではあるものの、
大した記事にはならなかった。
まぁ…裏社会の出来事ではあるし、
仕方ない事だろう。
そして、私は知人への挨拶もそこそこに、
次の場所へと旅立つ準備をしていた。
「…次の場所にいかないと…ね。
 …それにしても、
 卒業までこぎつけれるかと思っていたのだけど、
 それはかなわぬ夢だったわね…
 まぁ、仕方ないし、
 その分楽しませてもらったから良かったけれど。
 さてと…」
とはいっても、
それほど荷物は多い方じゃない。
…さして時間がかかる事なく、
荷物をまとめ終わる。
すっかり日も暮れてしまったが、
別に問題はない。
「それじゃ、行くとしましょうか…」
町を発つ。
――思い出だけをその胸のうちに秘めて――

――立つ鳥跡を濁(にご)さず。
之以上いても、
何も生みはしない。
跡を濁すだけ。
どんなに心残りがあっても
こうせざるをえなかったというのは…
言い訳なのだろうか――
* * * * * * *



仲間達と合流し、
先に…
進もうと思った所で、
1人欠けているのに気づく。
欠けているのは、レイナさん。
彼女なら…
彼女ならば大丈夫だと思うのだけれど…
それでも――
心配ね…
大丈夫かしら?
とりあえず…
先に進んで待つ形にしないといけないかしらね?
――まずは、
目の前に敵に集中すべきかしら。
でも…
「…なぁ。」
「…貴女の言いたい事は分かってるわ。」
「……」
「本当に…
 あれが敵なのかしら?
 油断は出来ないけれど――」
目の前にいるのは2人の女性と、
2人の男。
しかも華奢(きゃしゃ)で、
お世辞にも戦いに向いているとはいえない。
…全く…

「相手を見た目で判断するなというけれど――
 ついつい油断してしまいそうね…
 ……
 貴方達の実力ははたしてどれくらいなのかしら?」

――Epilogue――
次の生活にも馴染(なじ)み、
退屈な日々を過ごしていたある日の事。
校門の傍に1人の老婆がいた。
水晶玉をもっていて、
どうやら占いをしているらしいが…

何故こんな所で占いを…
そして、周囲の誰もが、
その老婆を気にした風もなく過ぎ去っていく。
興味を引かれ、
私はその老婆に話しかけた。
「…こんな所で占い?」
「…ヒェヒェ…
 その通り、占い師じゃよ。
 …伊賦夜魅月さん…」
…私の名前を知っている…?
「どうしてそれを…」
「紹介状をもっておるじゃろう?
 確かに受け取った。
 ヒェヒェ…
 それにしても、
 神の呪いを受けて、
 無数の霊を纏(まと)い、
 無限の時を生きる汝に道を示す為にのぅ…」
更に私の素性も。
そして、紹介状…
言われて大切に懐に保管していた紹介状がなくなっているのに気づく。
…一体いつの間に…
そしてどうして…
「不思議そうにしているねぇ…
 だけどね、私には見えるのさ…
 さぁ…どうする?
 占いは必要かい?」
「…お願いするわ。」
…賭けてみてもいい。
そう…
この人の力は本物。
ならば――可能性は残っている。
それに、もし…
騙されるとして、
きっとそこには意味がある。
少なくとも道の見えない、
今乗ってみる価値はある。
さて――
彼女は一体私に何を告げてくれるのか――?



――Epilogue2――
「…ヒェヒェ、彼女は行ってしまったか…」
魅月が去り、
老婆は1人取り残される。
「さて――
 これで私の役割は終わり、か。」
一陣の風が吹く。
すると、そこに老婆の姿も、
占い道具も消えうせ、
1人の女性が、老婆のいた場所に立っていた。
「確かに招待状は渡しました。
 さて――
 次の場所に向かうとしましょうか。
 種も仕掛けもございません、
 ましてや嘘もございません。
 だからこそ――
 貴女は岐路に立つでしょう。
 その先に待ち受けるのははたして――
 まぁ、私としては、
 立ち向かう方にかけたい所ではあるのですが。
 それは、今の貴女にとっては考えられないような選択。
 そして――
 その道こそが真の救いの道。
 …皮肉ですね。
 最も望まない道こそに、
 救いがあるなんて。
 その運命、
 その苦難…
 いやはや、
 難儀ですね。
 私でなくてよかった…
 といっては悪いですかね。
 それにしても――
 はたして彼女は乗り越えれるでしょうか。
 …
 おっと、時間ですね。
 急がなければ…
 全く、忙しい――
 まだまだ私の仕事は残っている。
 …
 もう少し、人使いが良くてもいいと思うのですが…
 言っても詮無き事でしょうね…
 さて、と――
 次の招待客は――」
再び、風が吹く。
女の姿もかききえ、
そして…
誰もいなくなった――






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