風が吹く――
それだけで弱者は朽ち果て、
燃え盛り、
狂乱の渦の中倒れ伏す。
「良く、燃えるわね…」
されど…
余計なものまでは燃やさない。
燃えるのは敵のみ。
なぜならばその炎は実態に非ず。
精神への干渉によって出でたものだから。
例外があるとすれば、
私達かしら。
出でたものが私であるだけに、
私に近しいものには影響を及ぼす事がある。
そしてそればかりは仕方ない事。
だが――
「…力不足ね…」
その炎では届かない。
敵を焼き尽くす邪念の炎。
その炎をものともしないものだけが、
私達を焼き尽くす事が出来るのだから。
…だから、
燃え尽きなさい。
何もできないままに。
「お・・・お腹が裂けるように痛いぃ・・・ッ!!」
「きゃあぁぁっ!!」
全て灰になってしまえばいい。
真っ白な灰へと。
後には何も残さない。
かつて己達がそうされたように。
かつて己達がそうなったように。
五体満足、
無事である事が許せない…
平穏である事が許せない。
だから味わえ、
己達の苦しみを…
もっと…
もっと……!
………
「〜ッ!」
駄目…
霊達に飲まれてはいけない。
霊の残したものが強ければ強いほど…
私の精神への影響も大きい。
…
危うく自分の意識を飛ばされてしまう所だった。
もっと気を付けて…
もっと…
もっと心を強く持たないと…
それにしても……
なんて悲しい事なのだろう。
「…そして、なんて運が悪い――
今集まっていたのは…」
「…静かな夜ですね。」
「しかし、こういう夜こそ気をつけねば。
…招かれざる来訪者がいるようです。
私は我が主の護衛に回る、
他のメイド達の招集を。
…犠牲者が沢山出るのが…」
「…仕方ありません。
その覚悟はしていました。
連絡はいれましたが、
…来ても一人か二人といった所でしょう。」
「仕方ありませんな…
して…客人は…」
「それが…
静止を振り切って…」
「…成程。
とりあえず、私達は成すべき事をするとしましょぅか。
良いですね?」
「…はい。」
己の主を守るべく、
動く執事とメイド達。
そうしている間にも一人一人と屠(ほふ)られ、
無力化されている事を知りながら。
「さてと…」
そんな様子も気にかけず、
私は一人歩いていく。
とりあえず私にできる事はといえば、
敵をいくばくか引きつける事。
そして脅威と認識させ、
引き返す。
犠牲者は出るのは仕方がない。
だが…
おそらくこれが一番犠牲が少ない方法だろう。
「それにしても…
…10と少し、
大分数いたようね。
…で、いつでも良いわ。
かかってくるの?
こないの?こないなら――
こちらから行くわ。」
声と同時に駆け出す。
少し動揺を走らせる事には成功したらしく、
一番近くにあった気配へと接近し…
――ヒュッ!
――ドサッ…!
投げ飛ばした。
おそらく、普段であればこんな事成功しないだろう。
それくらいまでに強い相手である事は分かる。
一瞬の油断。
それをついたからこそ出来た芸当。
「…まさか人間じゃないなんてね。
…一族の秘密を知られたから殺す、
そんな所かしら?
そして、貴方達…
意識を共有しているわね?
気配が同じよ?」
「――!」
息を飲む声。
どうやら――
私の憶測はあたっていたみたいね。
「そして、殺気…
どうやら成功のようね。
それにしても…」
軽く下がって勢いよく繰り出される爪の攻撃を避ける。
「…
まるで狼、
人狼とは貴方達みたいなのをいうのかしら?」
「…ルルル…」
「聞く耳持たない…ぐっ!」
背中に鈍痛。
どうやら、致命傷というほどではないが、
背中を切り裂かれたみたい。
「…そして囲まれてこのまま終わり、
という訳ね。
やれやれ、
本当に…」
「ついてない…わね。」
『オォォォォォ!』
一斉に襲いかかる獣達、
その無数の爪が私へと襲い掛かり――
夜が明ける。
服の整理をしていると懐かしい服が出てきた。
基本的に気分だけでもあの時を忘れないように、
セーラー服ばかりなのだが、
もちろん他の服だってもっている。
それにしても…
「…あの霊に、この服か。
何の因果なのかしらね。
まぁ、たまにはこんな服も面白いかしら?」
古い服だが、
保存はよく、
暇があるときに手入れしていたせいか、
着れないほどではない。
「…それにしても…
あの時からやっぱり体型が変わってないわね…
測ったようにぴったりっていうのは…
…全く…
後は刀と銃かしら?
まぁ、そんなもの必要ないから別にいいのだけどね。」
その服とは…
軍服。
…一時期徴兵などの関係で着ざるをえなかったこの服。
いい思い出は…
さして無い。
陰惨(いんさん)な思い出ならいくらでもあるけれど。
けれど、
それでも大事なものには違いないし、
普段着ているセーラー服とて大差はない。
「魅月はん、起きてはる?」
着替えを終えてどこか変な所がないかチェックをすると、
不意にノックの音と声が飛び込んできた。
声の主は…
晃さんね。
「…ええ、起きてるわよ。
着替えも終わったから、
入ってきてもらっても構わないわよ?」
「そぉですか、
それやったら、ちょっと入らせてもら――
――ッ!」
扉を開けて入って来た晃さんが驚いたような表情になる。
一体何が…
といっても、
心当たりになるような事は一つしかないけれど…
「…どうかしたの?」
「あ、いえ…
少々驚ろいてしもうただけで――
…
魅月はんは、その服は何処で――」
「…昔の服よ。
一時期そういう所に所属していた事もあったから、ね。
…
余りいい思い出はないけれど。」
「…さよか…」
暫く流れる沈黙。
何をいうべきか、
どう切り出すべきか、
分からない時間が流れる。
そんな沈黙を破ったのは…
晃さんだった。
「…なぁ、魅月はん?」
「何?」
「…
その服を脱ぐ前に何を見はったんやろか?」
「…聞きたいの?」
「……もし、問題ないんやったら――
お願いできんやろか…」
…一つ頷く。
別に今更の事。
隠す必要も、
喋れない理由もない。
そして…
脱ぐ前に見た光景。
それはただ一つ。
今でも鮮烈に記憶が残っている。
「真っ赤な空。」
「…真っ赤な空?
というと…」
「燃え盛る炎に包まれ、
世界の終わりのような真っ赤な空。
辺りは絶望に満ち溢(あふ)れ、
全てが死に絶えたよう。
――
声が聞こえる。
阿鼻叫喚ですら生温いほどの声が。
違う場所でも同じ事が起こって――
その後は言う必要がないわね。
――それが、最後の光景よ。」
「…」
「…それ以来、
私はこの服に袖を通してなかったわね…」
再び流れる沈黙。
「…昔の話よ?
それに今はそんな事すらも忘れるかのように、
色々問題あるけど平和に暮らしているわ。
色々と苦難もあって、
それを乗り越えてだけど。」
「…もし、それを――」
「覆(くつがえ)す力なんてあったら…
いえ、それは実在する。
けれど、それは…
世界の破滅よ。
後には何も残らない。
その力でさえあれだけの絶望を生み出した。
それ以上の力なんて――
まぁ、最も使いようだとは思うけど、
安易に…
そう、
全ての世界と引き換えにしていいような何かとでなければ、
使われてはならない力だと思うわ。
…
抑止力にはいいのかもしれないけれど。」
「…確かにそぉですな…
それは確かに…
あってはならないもの――
…ままならんもんやねぇ…ほんに…」
「ま、
力といってもあくまでもこれは、
戦闘…戦争の事。
そうでない力もあるのだし、
その中から力を上手く使っていけば…
素敵な未来が切り開けるのかもしれないわね。
だからこそ、私の世界の今があるわけなのだし、ね。」
「…確かに。
…
あ。
思わずなごう話してしまもうたけど、
まだ間に合いますし、
一緒に朝でもどないやろか?
せっかくやから一緒に食べた方がご飯もおいしいやろし。」
「そうね。
頂くわ。
急いでいかないと…
じゃ、行きましょ?」
…積もる話があったとしても、
それはご飯を食べながら。
仲間との一時を楽しみに私は今日を始めよう――
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