1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 17 OCTOBER 2006


6月上旬。いつものようにヘイブンの宿屋の軒下にある倒木に腰掛けて、友人との会話を楽しんでいた。高くなり始めた気温のことを彼女に愚痴ったりしていると、そこに歩み寄ってきた男性のキャラが1人。早速彼も交えると、話は更に弾んだ。

彼がペットにしている沼ドラゴン。話の合間に彼がそのペットの「フレンド登録」を、私と友人に与えた。こうするとフレンドとされた者は、自分の所有物ではないそのペットに対する「使役する権利」を与えられ、声による命令を出すことが出来るようになるのだ。

「やっぱ色々できるなぁー」「UOは」

そういって私が感心する。続いて彼が叫んだ。

「UO最高!!」「早く安住したいぜよ」「UOに。」
「お?」
「最近移ってこられたとか?」
「いや」「えーと」

別のゲームからUOに移って間もない方なのか? 思わず尋ねる私たちに、彼は自身の現状を語り始めた。今年に入って一人暮らしを始めたが、そっちにはネット接続環境はない。そして最近になって仕事を辞め、現在は実家に帰ってきている。実家ではネットに繋がるため、1週間のクーポンを使ってUltima Onlineをプレイしていたとのことだった。「多分明日で(UOのプレイは)おわり」と彼は嘆いていた。

「フリーターからでなおすか・・・・うう」「バイトでもいいから はたらきださねば・・・」

内心を吐露する彼に、「まだまだ大丈夫ですよ」「若いんでしょ?」と友人が言う。「はい一応」「まだ10代」と返す彼に、友人は「だったらフリーターとかじゃなくて 絶対正社員の方がいいよ」とアドバイスする。「あと10年したら絶対違うと思います」という彼女に、彼も「ですよね・・・」と自身の中の悩ましさを匂わせる言葉を返した。

その後、友人や私の周囲にいた変わった社員の話をそれぞれ披露しつつ話題を広げた。「超悪い見本なのです」「見習わないようにしてくださいまし」と助言する私に、彼は「りょうかい^^+」と返してくれた。

話の合間、彼は「ちょっと待っててください」と言い残してその場を離れた。その後ろ姿を友人と見送る。

「人生これからの若者ですね」
「そうですねー」
「がんばってほしいなぁ」
「ですね」
「今 正念場ですよね」「彼」
「でしょうねぇー」
「このままずるずるいくか」「そうでないか」
「親御さんもハラハラかもです」
「ですよねー」
「ニヒヒ」
「よく分かるなぁ」

そんな風に若くない2人で、彼のことを思った。


その後別のキャラで戻ってきた彼と3人で、我々はとあるプレイヤーの邸宅へと移動した。話をしている中で、我々3人の奇妙な「繋がり」が発覚したためである。

まず彼が、私をその邸宅の主・A氏ではないかと勘ぐった。私の丁寧な口調や言葉遣い、そして「ニヒヒ」という笑い声までがA氏と似ていたというのだ。個性とするために使っていた「ニヒヒ」を別の人も使っていたという話に、私は少なからず驚いた。

勿論別人であり、「ちがったか・・・」と呟く彼だったが、今度は友人が話を繋げる。「A」というその名前が気になったようだ。

「Aさんて多いですねー」「私の知り合いにも Aさんいますよ」
「ほおお」
「そのひとかも・・・」
「む」「どうなんでしょ」

A氏に関する情報を彼と友人で話し合う内、やはり同一人物である可能性が高まってきた。それぞれの知るA氏の家が「同じ家」ならば、お互いのA氏は同一人物となる……A氏の家に行ってみれば特定できるだろうということになり、彼はA氏の家のルーンを取りに行くために、先程この場を離れたという訳である。

果たして行った先で、友人と彼の「A氏」はやはり同一人物であることが明らかになった。A氏は友人にとって「師匠の師匠」であり、彼にとっては「友人の師匠」だったのだ。

「そしてその人に似てるといわれたのが このワタシだ」

と私が言って、3人で大笑いする。

その後、A氏の家の敷地でまた話を続けた。UOの遊び方、現実での過ごし方、20歳頃の青春の話。

「折れない程度に 頑張るのだー」
「だなだな」「がんばりすぎるのもしんどいし」
「なる」
「頑張れってのは無責任だから」「あまり言わないようにしてるけれどねぇ」
「ありがとう」

友人も、そして私も自分のことを吐露し始める。

「私は結構 今 人生の正念場だわ」
「ワタシも今週は 仕事でへこんでたなぁ」
「みんな大変なんだな」
「でも今夜はこんなふうに」「お話できて良かったなぁ」
「うんうん」「私もぜんぜん私のことを知らない人と話せて楽になったよ」
「よかった。」
「ある意味無責任に話せるのが」「ネットのいいとこなのかもだ」
「うんうん」
「そうそう」

話の終わり、相対している問題が「一生がかかってると言っても過言じゃない」という友人に、彼が「どうか自分を大切にしてくだせぇ!」と強く言った。若い彼にアドバイスを……という感じだった会話は、最後には互いに励まし合う形になっていた。3人で再会を誓い合い、別れて自宅に戻り、ログアウトした。

ゲームを終えたその時、私はPCの前で目を潤ませていた。その出来事は2年半前、Final Fantasy XIの世界「ヴァナ・ディール」で友人と別れて以来のことだった。

私が今日UOにログインしたのは、彼らと会って言葉を交わし、互いの不安を分かち合うためだったのかも知れない。私がUOを始めたのは、この日この場に居合わせるためだったのかも知れない。私がUOに興味を持ったのも、私がそういう人間になったのも、今日この夜のためにあったのかも知れない……。


先日いつもの場所で、友人の「ニワトリ」さんと話をしていたときのこと。2人の間に置いてあったラベンダリス手製のお寿司に1人の男が近付き、もりっと食べた。そのまま去っていく男の背に「おそまつさまー」と声をかけると、男は無言で立ち止まり、暫くしてから一言「ばかだな」と言って去っていった。私とニワトリさんはその言葉に反応することなく、また話を続けた。

ログアウトした後でその一言を思い出して、ちょいと苛ついてしまった私なのだが……だが考える。彼の言ったその言葉は、それまで彼が過ごしてきた時間の結果、その末の一言なのだ。彼はどのような時間を過ごしてきたのだろう。そして勿論、時間は流れ過ぎていく。彼はこの一言の先で、またどのような結果に到達するのだろう。そのとき、今の「結果」は彼を……「結果」をどう動かすのだろう。

大河のように流れる時間の傍らで、我々はUOという道具を用いてそれぞれの結果を同じ時間に共有した。結果は時と共に流れることで絶え間なく変わり、新たな結果に繋がる「過程」になる。

一言を発した彼の過程。そしてその場にお寿司を置いた私の過程。そして「ばかだな」の一言で結ばれた2人の結果。それに思いを馳せると、なんだか楽しく感じられてきて……そしてきっとそういう私だからこそ、色々あった「ヴァナ・ディール」でのパートナー・ドルシネアの笑顔を今、思い浮かべることが出来るのだろう。そう思う。

彼はその後もう一度やってきて、私が置いた代わりのお寿司をまた食べて去っていった。前回と違い、今度の彼は一言も発することはなかった。彼がお寿司を「食べた」のだろうか。お寿司が彼を「食べさせた」のだろうか。……彼の「結果」が「過程」になるのは、いつだろうか。

今後お寿司を見ると、私は彼のことを思い出すだろう。そんな風に思えて、それはそれで面白いと思う、今の私である。

  • 初出 : 2006/09/18
  • 改定 : 2006/10/14

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