Last Modified : 8 JANUARY 2004
From Dulcinea's diary Part.1 "The Mother Dulcet Wind".
この二週間で、FFXIに対する興味が大きく膨らんでいた。ウチのPentium 4を積んだPCでFFベンチマークを走らせて、とりあえず問題なく動作するのを確認していた。各所のFFXIプレイ日記がそのエネルギーとなっていたのだが、加えて別のオンラインゲーム「Phantasy Star Online」の友人・Flさんがこの度FFXIを始めるという。これに釣られて、更に燃え上がった。
前日にとうとうパッケージを購入。FFXIの場合、コンテンツIDを購入した月はその末日まで無料で遊べる(課金は翌月から)。今日は11月末日だから、明日まで待てば12月は丸々無料になってお得だ。だが、「今やりたいから今始める」……私は既に、そんな損得勘定で抑えられるような状態ではなかったのである。敢えて損得勘定を挙げるとすれば、「東京往復よりは安く済む」と考えるような状態だった。
インストールして実行。どっさりとある修正パッチが当てられるのを待つ。キャラクターを作成。そしていよいよ、オンラインへと旅立った。
まずは選択した所属国であるウィンダスの歴史が語られる。続いてその地に我が愛すべきドルシネアが姿を現すと、そのままオープニングイベントに突入した。イベントが進んで、登場人物のミスラのお姐さんと可愛いタルタル達が姿を消す。するとドルシネアは、そのままそこに放り出された。……こ、ここから始まるのか!? 驚き戸惑う私。てっきり自宅となるモグハウスから始まると思っていたのだ。ここは何処で、そしてこれから何処に行けばいいんだ? モグハウスは何処なのよ?
ドルシネア(Dulcinea)は、白髪のミスラでシーフ。私が中学か高校の時に書いていた漫画の登場人物が元になっている。その時の彼女は陽気な「悪魔」だった。やはり白髪で、黒い角があり、同じく黒い翼もあった。ただ、尻尾はあったかどうか覚えていない。まぁ、ともかく悪魔だった。ゲームキューブでプレイしていたオンラインゲーム、「Phantasy Star Online Episode I&II」でフォニュエールとして作ろうとしたのだが、どうしてもイメージ通りにいかずに断念した過去がある。今回はその敗者復活的な動機で彼女を採用した。十数年振りの、ドルシネアとの再会だ。
つい最近検索エンジンを使って知ったのだが、Dulcineaとはあの「ドン・キホーテ」のエピソードに登場する、女性の名前でもあるようだ。私は当時そのような知識は全く無く、まず「ドルシネア」という音を思いつき、それに「Dulcinea」という綴りを当てた。「ドン・キホーテ」のドルシネアはなかなか面白いキャラのようなので、より一層思い入れが深まった名前である。
さて、周りはコンピュータが操るNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と、ドルシネアと同様にプレイヤーが操作するPC(プレイヤーキャラクター)と思わしきキャラが行き交っている。びくびくきょろきょろと周りを見回しながら、長い尻尾を振り振りさせるドルシネアを前へと走らせる。目指すは我が家・モグハウス。と、とりあえず一人になって落ち着きたいっ! 誰にも見られないところへっ! ひいぃっ!
メニューに町のマップがあることに気付き、それを何度も開いて位置を確認しては、マップ上に幾つかある、意味の分からないアイコンが示す場所へと走っていく。行った先で唐突にPCがずらりと並んでいる場所に出て、驚いて引き返したりした。どうやらキャラクターの頭上に名前が緑色で表示されているのはNPCだ、と理解する。自分と同じ白で表示されていて、町を駆けていくのはPCだろう。では、青色の名前のキャラはどちらなのか。道端に立っていたり、釣りをしているキャラに多く見るが、あれはPCなのかNPCなのか。もちろん怖くて話し掛けられない。
緑の豊かなウィンダスの町。道を走っていると、前からPCが走ってくる。邪魔にならないように、ドルシネアを道の逆側へと移動させる。すれ違う。ガルカの身体はでかい。頼りになりそうだ。次に坂の上から石ころが転がってきた。走りながら思わず身構える。タルタルだった。小さっ! 空の彼方へ蹴飛ばしてしまいそうだ。
……ところで私の走り方に問題は無いのだろうか? ぶつからないように道を空けたりしているが、こんなに交通量が激しいのなら、「円滑な交通のためのルール」が生まれていたりするのではないだろうか。例えば「右側通行」とか。無いのかな。そのルールを知らず、迷惑かけてないだろうか。不安だ。
何度も立ち止まってマップを開く。通行の邪魔になるだろうと思い、道の端に身を寄せてから開く。その動作を見て、私が初心者なんだろうと気付く人がいるんだろうなぁと、びくびくする。それにしても、あんなにNPCがいるとは思わなかった。ネットワークゲームだから、NPCは本当に最小限しかいないものだと思っていた。オフラインのRPGと変わらない位いるのに驚いた。そのNPCの話を聞いてみたいと思うが、それはやはり素人であることを表す動作ではないだろうか。他のプレイヤーがいる前で素人全開の様を見せるのは恥ずかしくて、話し掛けられない。
そうこうしているうちに、なんとかモグハウスに辿り着いた。そこは自分一人が入ることのできる「自宅」である。他人の目は届かない。やっと一人になれたと、一息つく。そこでふと、ログが表示されているウインドウに見慣れない色のメッセージがあることに気付いた。それはどうやらある人がドルシネアを見つめた後で、「メインですか?」と尋ねてきていたことを示していた。……は、話し掛けられていたっ!? いつの間にっ!?
マップを閉じたり開いたりしていたため、話し掛けられたことに気付かなかった。ウインドウのサイズを極端に小さくしていたのも要因だ。慌ててサーチ機能で話し掛けてきた方を検索する……見つかった。遠く離れた相手にも直接話しかけられる会話形式、「Tell」コマンドの書式を確認しながら、遅い返事を返す。ところがこのTellが届かない。なんか届かなかった理由を示すと思われるエラー番号がウィンドウに表示されているが、そのエラー番号の示す意味が分からない。マニュアルを探したが見つけられなかった。その後、町を走る合間に何度か検索するが、その方はもう引っかからなかった。うう、失礼してしまった。しょんぼり。
それにしても、ウィンダスの町はなんと広いのだろう。幾つもの「区」に分かれていて、その一つ一つが広い。NPCもいっぱいいるから、話を聞いて回るだけで一苦労だ。所持しているアイテムの中に「冒険者優待券」を見て、最初のデモの中でそれを誰々に持って行けと言われていたのを思い出した。無印良品で買ってきたメモ帳に書き記していたイベントのメモを見て、探すべきNPCの名前を確認し、再び町中を走り回る。しばらくしてようやくそのNPCを見つけ、トレード機能を使って冒険者優待券を渡す。トレードに仕組みがよく分からず、大変苦労した。トレードを終えると、ちょびっとだけ所持金が増えた。
更にNPCの話を聞いて回っているうちに、自分がいつの間にか幾つかのクエストを引き受けていたのに気が付いた。ニ、三種類のアイテムを幾つか揃えて持って来いというのが多い。アイテムは敵を倒して手に入れるのか。そういえば、店や競売所で売られているのを持っていってもいいらしいな。とはいえ、現在の所持金はたったの60ギル。薬屋で品物をチェックして、買える物が蒸留水程度しかないことに驚愕した。水で精一杯なのか! 毒消し一つすら、300ギルでも買えないよ! 高嶺の花だ。もちろん武器屋などで見る武器や防具は、泣きそうになるほどの値段である。
ところで、ウィンダスはタルタルとミスラの国ということで、NPCはやはり両種族が殆どだ。彼らはそれぞれ個性を持っている訳だけれど、案の定というか何というか、予想していた口調のキャラ達が中にいたのである。
「○○タル〜」
「○○だニャア」
あまりにもそのままで捻りが無い。底が浅ーい、とか思った。
カプコンの対戦格闘ゲーム「ヴァンパイア」シリーズにも猫娘が登場する。私は二作目の「ヴァンパイアハンター」までしかやってないのでそれ以降でどうなっているかは知らないが、その猫娘・フェリシアは「○○だニャア」とは言わなかった。また、「ハンター」に登場する中国キョンシー娘・レイレイも、決して「○○アルヨ」なんて言葉遣いはしない。そんなありがちな、ステレオタイプな、薄っぺらなキャラ作りはされていないのだ。それと比べると、「○○タル〜」「○○だニャア」はショボイと思う。我がミスラ・ドルシネアには、決してそんな言葉遣いはさせない。「○○だニャア」なんて太古の猫の頃の習性など、進化した猫・ドルシネアにはもう残っていないのだ!
さてさて、ゲームを始めてかれこれ二時間も経った。ずっとウィンダスの中を走り回っていたのだが、そろそろ町の外へ出てみようかと思う。何しろ所持金60ギル、水を買うので精一杯。お金を稼がなければと思う。マップを見ながら、町の出口と思われる方向へ道を急いだ。石造りの大きな門が見えてくる。気付いた。ゲームを始めて最初に立ったのは、この場所だったのだなと。
石の門をくぐると画面がブラックアウト。画面が切り替わり、ひゅうひゅうと風が音を立てて過ぎ行く草原が、ドルシネアの目の前に広がった。東サルタバルタ。そこはそう呼ばれているらしい。
戦闘の超基本的な手順は知っている。何は無くとも「調べる」だ。敵を強さを事前に調べておかなければ、時として強い敵と当たってしまい酷い目に遭う。そういう話は各所の日記で幾つも読んだ。私はゲームでもかなり臆病な方だ。石橋を叩いて渡るタイプだ。無謀な戦いは決してしない。
山に囲まれた、木が所々に立つ草原を見渡すと、取りあえず二種類の敵が確認できた。ハチとマンドラゴラだ。ハチはそのまんま、大きいハチだ。マンドラゴラはタルタルよりも更に小さな可愛い生き物。小さな身体の上に大きな白い頭があり、そのてっぺんには緑色のちょんまげみたいなものがぴょこんと立っている。あの「ピクミン」によく似ている。マンドラゴラはぶんぶんと羽音をやかましく立てるハチとは違い、とことこと小走りしてはぴたりと止まり、円らな瞳(があるような気がする)でこちらを見上げている(ような気がする)。可愛い、実に可愛い。
ところが「調べる」と、これが「丁度よい」だ。侮れない。確か「調べる」の結果には、「楽な相手」「練習相手にもならない」など、更に下を示すメッセージがあった筈だ。石橋は叩かなくてはならない。更に弱い敵を求めて、草原を右往左往した。
……いない。どのハチもピクミンも、「丁度よい」だ。なんで弱いヤツはいないのだ。怖いじゃないか。当惑していたが、しばらくして気が付いた。「調べる」の結果は、自分と敵とのレベル差を示すと聞いている。今、自分のレベルは当然「1」だ。敵にもレベルがあるのだったら、当然敵の最低レベルも1だろう。だったら、これ以下のレベルなんて無いではないか。下のレベルがいないのだから、当然最も弱い敵でも「丁度よい」になるのだ。きっとそうだ。
ぽんと手を打つ、一人合点のいったドルシネア。早速戦いを挑むことにする。近場にいたのはピクミンだった。……ハチは針で刺されそうだな。針には何かあるかもしれん。よし、コイツにしよう。ピクミンにターゲット、戦闘開始! 腰から短剣を抜き、ピクミンに切りかかるドルシネア。
……流石にヴァナ・ディール最底辺の戦いだ、弱いなりに緊迫感のあるいい戦いだ。PSOと違ってオートバトル。ドルシネアとピクミンの叩き合いを見ているだけなのだが、初めて見る戦闘のログは、ウィンドウの中をとても早く流れていくように思えた。減っていくドルシネアのHP。おいおい、大丈夫なのか?と思った瞬間、ピクミンは遂に崩れ落ちた。
初勝利! ほっと一息つく。ドルシネアの残り体力は10を切っている。いけない、休息を取らねば。FFXIではしゃがみ込む「ヒーリング」動作を行うことにより体力を回復できる。だがその間は全くの無防備状態となるのだ。
周りを見回し、敵のいない場所を探す。その場の安全を確かめずに無防備な回復行動に入るほど、私は迂闊ではない。だが、安全そうな場所を見つけて走り始めて、ふとドルシネアの異状に気が付いた。……HPが減った? 走りながらドルシネアのHPを見ていると、少ししてやはりHPが1減った。な、何故に!? 困惑の中、画面左上に見慣れないアイコンが表示されているのを見つけた。紫色っぽいそのアイコン、見るからに嫌な印象のアイコンだ。またHPが1減る。はっとする。毒かっ!? まさか今の戦闘で、毒を食らったのかっ!?
体力回復のため、しゃがみ込もうとするが思い出す。何処かのFFXI日記で読んだ。しゃがみ中にダメージを食らうと、しゃがみ状態が解除されてしまう。つまり体力回復が出来ないと。そしてそれは、毒などを食らっても同様であると。既に5を切った残りHP。しゃがんでみたが、やはり立ち上がってしまった。減るHP。い、いつ毒は切れるのですか?
減るHP。周りを見回した。PCは誰も見当たらない。うん、「それでいい」。草の生い茂る方へと足を向ける。こんな死に様、誰にも見られたくないから。
HP、0。
「うっ……ヴァ、ヴァナ・ディール、恐るべし……」
名前の表示が灰色になって、ドルシネアがばったりと草むらの中に倒れる。
「……だにゃ……(がくり)」
忘却した筈の太古の呻きが、思わずこぼれた。