普天間基地移設に伴う「日米共同声明」は、本当に沖縄の基地負担軽減につながらないのか
6月3日のフジテレビのプライムニュースで普天間基地のある宜野湾市の市長伊波氏は、「普天間基地の県内移設はさせない。新しい米軍基地を沖縄には造らせない。あくまで普天間基地の縮小・県外国外移転だけを求めていく」と述べていました。 また、民主党の沖縄県連は今回日米両政府間で合意された「日米共同声明」を認めていないので、これは政治が決定しても実施されることはない、と沖縄選出の民主党議員玉城デニ氏は言っていました。なにやら民主党の国家のガバナンスは崩壊したかのようですが、私は、この問題は沖縄の基地負担の軽減だと思っていましたので、一応、今回合意された日米共同声明の内容を見ておきたいと思います。 <仮訳> 岡田外務大臣 2010年5月28日,日米安全保障協議委員会(SCC)の構成員たる閣僚は,日米安全保障条約の署名50周年に当たる本年,日米同盟が日本の防衛のみならず,アジア太平洋地域の平和,安全及び繁栄にとっても引き続き不可欠であることを再確認した。北東アジアにおける安全保障情勢の最近の展開により,日米同盟の意義が再確認された。この点に関し,米国は,日本の安全に対する米国の揺るぎない決意を再確認した。日本は,地域の平和及び安定に寄与する上で積極的な役割を果たすとの決意を再確認した。さらに,SCCの構成員たる閣僚は,沖縄を含む日本における米軍の堅固な前方のプレゼンスが,日本を防衛し,地域の安定を維持するために必要な抑止力と能力を提供することを認識した。SCCの構成員たる閣僚は,日米同盟を21世紀の新たな課題にふさわしいものとすることができるよう幅広い分野における安全保障協力を推進し,深化させていくことを決意した。 閣僚は,沖縄を含む地元への影響を軽減するとの決意を再確認し,これによって日本における米軍の持続的なプレゼンスを確保していく。この文脈において,SCCの構成員たる閣僚は,同盟の変革と再編のプロセスの一環として,普天間飛行場を移設し,同飛行場を日本に返還するとの共通の決意を表明した。 閣僚は,このSCC発表によって補完された,2006年5月1日のSCC文書「再編の実施のための日米ロードマップ」に記された再編案を着実に実施する決意を確認した。 閣僚は,2009年2月17日の在沖縄海兵隊のグアム移転に係る協定(グアム協定)に定められたように,第三海兵機動展開部隊(MEF)の要員約8000人及びその家族約9000人の沖縄からグアムへの移転は,代替の施設の完成に向けての具体的な進展にかかっていることを再確認した。グアムへの移転は,嘉手納以南の大部分の施設の統合及び返還を実現するものである。 *これによって嘉手納以南の基地の約80%が沖縄に返還されるという。 このことを念頭に,両政府は,この普天間飛行場の移設計画が,安全性,運用上の所要,騒音による影響,環境面の考慮,地元への影響等の要素を適切に考慮しているものとなるよう,これを検証し,確認する意図を有する。 両政府は,オーバーランを含み,護岸を除いて1800mの長さの滑走路を持つ代替の施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に設置する意図を確認した。 普天間飛行場のできる限り速やかな返還を実現するために,閣僚は,代替の施設の位置,配置及び工法に関する専門家による検討を速やかに(いかなる場合でも2010年8月末日までに)完了させ,検証及び確認を次回のSCCまでに完了させることを決定した。 両政府は,代替の施設の環境影響評価手続及び建設が著しい遅延がなく完了できることを確保するような方法で,代替の施設を設置し,配置し,建設する意図を確認した。 閣僚は,沖縄の人々が,米軍のプレゼンスに関連して過重な負担を負っており,その懸念にこたえることの重要性を認識し,また,共有された同盟の責任のより衡平な分担が,同盟の持続的な発展に不可欠であることを認識した。上記の認識に基づき,閣僚は,代替の施設に係る進展に従い,次の分野における具体的な措置が速やかにとられるよう指示した。 •訓練移転 •環境 •施設の共同使用 •訓練区域 •グアム移転 •嘉手納以南の施設・区域の返還の促進 •嘉手納の騒音軽減 •沖縄の自治体との意思疎通及び協力 安全保障協力を深化させるための努力の一部として,SCCの構成員たる閣僚は,地域の安全保障環境及び共通の戦略目標を推進するに当たっての日米同盟の役割に関する共通の理解を確保することの重要性を強調した。この目的のため,SCCの構成員たる閣僚は,現在進行中の両国間の安全保障に係る対話を強化することを決意した。この安全保障に係る対話においては,伝統的な安全保障上の脅威に取り組むとともに,新たな協力分野にも焦点を当てる。 以上ですが、これを沖縄の基地負担の軽減という観点で見る限り、国民新党の国会議員下地幹郎氏の言われるように、「一歩前進」といえるのではないかと思います。論者の中には、これは、かっての自民党案より後退していると指摘する向きもありますが、その事実が確認できましたら、後日報告したいと思います。 ところで、日本の組織は、指揮命令系統のはっきりしたピラミッド型ではなく、「一揆」組織が「ぶどうの房」のように、中心の茎に連なった「ぶどう房型」組織(参照)だといいます。従って、中央の指示に従うかどうかは、独立したぶどうの一つ一つを構成する「一揆」組織内の談合で決める。中央組織はその談合組織の意志を無視して物事を進めることはできない、といわれます。 最近は「地域主権」等ということがいわれますが、国家統治上の指揮命令系統と権限関係をよほど明確に規定しておかないと、地方組織が「一揆」的談合組織となると、国家としてのガバナンスが崩壊してしまう危険性があります。自民党の場合は、こうした日本の組織の特質を知悉しており、それを動かすノウハウを持っていましたので、なんとか組織を動かすことができたわけですが。 ところが、民主党の場合は、理念的にそうした日本の伝統的な意志決定手続きを否定するところから出発していますので、鳩山首相の思いとは裏腹に、今回のようなことになったのではないかと思います。経済界や官僚組織では、伝統的な談合組織の摘発が進んでおり、コンプライアンスが当然視されるようになっていますが、政治の世界では、まだ、そうした伝統的な「一揆」的談合組織に緊縛されたままのようです。 実は、それが「小沢的な政治手法をどう克服するか」という問題なのですが、小沢氏の場合は、そうした土俗的政治手法を駆使して多数派を形成する一方、議会においては数の論理によって問答無用で法案を通す・・・この論理の使い分けに特徴があるのです。本来、民主政治における意志決定手続きは、政策論争による多数派形成ですが、民主党政治においてはこの小沢的政治手法に誰一人として異議を唱える者はいません。 鳩山首相の辞任の弁に、「政治とかね」の問題からの脱却ということが述べられましたが、おそらくそれは、上記の多数派工作における「かね」の問題を述べたのでしょう。「かね」ではない「政策論争」による多数派形成を期待したのだと思いますが、なにしろご自身の「善意の論理」に基づく政策論は混乱しかもたらしませんでしたからね。また、小沢的政治手法は、社民党や国民新党との連立を優先したこともあって、民主党の政治を支離滅裂なものにしました。 こうした、ここ8ヶ月間の民主党のパフォーマンスを見る限り、はたして民主党に、小沢的政治手法からの脱却を期待できるかどうか、はなはだ疑問だといわざるを得ません。その最初の試金石は、新しい政権が再び社民党や国民新党に協力し、郵政改革法案や派遣法改正案の強行採決を図るかどうかということです。それをやるようであれば、この政党に政策論争による民主政治を期待することはできません。 *下線部書き換えました。6/4 |