時々怖くなる。
道も何も見えなくなって、全てが闇に包まれそうになって。
そんなとき。
俺は必ず君を思い出す。
いつか君に話した事がある。
「君は俺の光なんだよ」と。
照れくさそうに笑った笑顔がとても可愛かった。
照れくさそうに、でも嬉しそうに。
君の笑顔を見ると、暖かい気持ちになる。
太陽の光に包まれているかのように。
いつだったか。
俺が君に弱音を話した時があった。
それは、多分病院の屋上で。
いつもよりも、君をきつく抱きしめながら。
「怖いんだ」と。
「自分の進む道が暗くて見えなくて、とても怖いんだ」と。
情けなく小刻みに震えながら、君をきつく抱きしめて。
「大丈夫だよ」
君は優しく微笑んで言った。
「私が居るから大丈夫だよ」
俺の頭を撫でたら、小さい子供にするように背中をポンポン叩いて。
「私が貴方の道を照らしてあげるから」
…さすがにびっくりしたよ。
いつもは少し気弱な君が、あんなにも力強く、あんな言葉を言ってくれるなんて。
「だって私、幸村君の『光』…なんでしょう?
だったら道を照らす事だって、出来るよきっと」
「怖くなったら、私を呼んで。
淋しくなったら、側にいてあげる。
目が覚めて暗闇だったら、私が光を指してあげるから」
君が言ったその言葉に。
どれ程俺は救われたかなんて、君はきっと知らないんだろうな…。
その時、俺は初めて。
嬉しさに涙を流したんだ。
…俺は、弱音なんて言えなかった。
部長になった時には、プレッシャーだってあったさ。
全国二連覇している王者立海大を、本当に俺が率いていけるのか。
病気になった時には、落ち込んだりもしたさ。
健康管理もまともに出来ない、自分の不甲斐なさに。
それら全ては、漠然とした大きな不安と恐怖だった。
けれど、それを誰にも言う事は出来なかった。
態度に表して、部員達を動揺させる訳にはいかなかったし、何よりも俺の部長としてのちっぽけなプライドが許さなかった…。
部長になった時には、『頑張れよ』。
…何を、どういう風に頑張ればいいんだ?
病気になった時には、『絶対治るって』。
…何を、どういう根拠があるんだ?
皆が励ましてくれる一方で、そんな事を考えていた。
笑顔で「ありがとう」と言うのも苦痛になっていった…。
そんな出口のない事を考えている時には決まって、君が側にいてくれた。
俺を励ます訳でもなく、ただ他愛のない話をしてときには笑顔を見せてくれて。
それが俺にとっては、すごく嬉しかったし救いにもなった。
君が側にいるときには、自然と笑顔になれる。
誰にも言えなかったよ、怖いなんて。
誰かに言いたかったよ、怖いんだと。
ずっと心の内にあった不安と恐怖。
誰にも言えなかったことを、君は言わせてくれた。
誰かに言いたかったことを、君は聴いてくれた。
…ありがとう。
何回言っても足りないくらい。
…ありがとう。
俺に光を与えてくれて。勇気を与えてくれて。道を示してくれて。
俺がプライドだと信じていたもの。
それは単なる強がりでしかなかったんだ。
君はそんな強がりを壊してくれた。
…弱音を言わせてくれた。
…ありがとう。
君という「光」がそこにいるだけで、世界が優しく思えてくる。
君という、小さいけれど確かな、とても暖かい「光」。
そんな君の「光」が消えないように。
俺が、守っていきたいと、…心から願う…。
END