あの合同サバイバル合宿から少し経って、今日は青学との準決勝。
応援に来てくれたの姿を確認して。
部活を辞めた千歳をケンヤが連れて来て。
万全の状態で臨んだその準決勝は3−1という結果で――俺達は負けた。
…本当は泣きそうやった。誰にも言えないけれど。
試合終了の声、試合結果を告げる声、金ちゃんの声。
悔しさをこらえて「もう終わった」という俺に、金ちゃんは「うそや」と言った。
「コシマエと試合をしたい」と、ダダをこねる金ちゃんをなだめながら、本当は俺が一番そう思っとった。
「ウソや」って…。
そんな金ちゃんのダダこねる声を聴きながら…泣きそうになった。
信じられないような金ちゃんとコシマエの一球勝負を終えて。
試合会場を後にしようとしたそこに…の姿があった。
俺との関係を知っとるケンヤと千歳は気を遣って2人にしてくれた。
「悪かった」
久しぶりの再会の最初の俺の言葉は謝罪だった。
俺よりもなぜかの方が泣きそうな顔をして…その顔を見るのがつらくて俺はうつむいて謝った。
「久しぶりやのに…応援にまで来てくれたのに…負けてしまって。
カッコワルイなぁ、俺…。が惚れ直すくらいカッコ良いトコ見せたかったんやけど」
自分が思ったより落ち込んどる事におどろいて、はは、と自嘲気味な笑いまで出てきて。
――最悪の再会や…――
「そんな事ありません!」
そんなの声に思わず顔を上げた。
そこにいたは、やっぱり泣きそうな顔をしとって…でも迷いなんか無い瞳で、ハッキリと言った。
「そんな事無い…。皆さんとっても良い試合でした。
カッコワルイ事なんてない。蔵ノ介さんも――とってもカッコ良かった!
想像よりもずっとカッコ良くて…思わず惚れ直しちゃうくらい!」
泣きそうな顔しながら真っ赤な顔して、でもだからこそ本気で言ってくれとるって痛い程分かる。
そのの言葉を聴いて、目の前の視界が心なしかボヤけて見えて。
の細い身体を思い切り抱きしめた。
涙で潤んだ顔を見られたくなくて、の肩に顔を埋めた。
いきなり抱きしめられたはわたわたと少し困惑してて。
「…おおきに」
「え…?あ、はい」
何が「おおきに」なのか今いち分かってなかったっぽいが、肩口にうめた俺の声が思ったよりも弱々しかったのに大人しくなり、背中に手を回し、ポンポンとたたいてくれた。
まるで子供にするようなそれやったけど、大人しくそれを受け入れた。
その手があまりに優しくて、のその優しさが嬉しかった。
「今日は来てくれておおきにな、」
「いいえ、そんな。…テニスをしてる蔵ノ介さんが見れて良かったです」
「そか」
誰もいなくなった会場の応援席でそんな事を言っていたら、がこんな事を言い出した。
「私、決めました!」
「何を?」
「私、進路を大阪の高校にします!蔵ノ介さんと同じ学校に行きます!」
「つ、…?」
「決めたんです!」
有無を言わせない決意した声でそう言った。
いきなりそんな事を言い出したに、今度は俺が困惑する番やった。
「大阪に来るて…東京出るいう事か?両親とか許してくれるんか?」
「説得します。大丈夫です!」
は俺と同じ高校に入ったらやりたい事があるという。
強い声で、もう一度ハッキリと「決めた」と言った。
「今日は応援席だったけど…今度はマネージャーとして部に入って…少しでも傍で蔵ノ介さんを応援したいんです!支えたいんです。
傍で…貴方が勝つ姿を見たいんです!」
真っ直ぐ俺を見て、そう言った。
…そんな事言われたら、俺が駄目だと言える訳ないやんか。
「分かった。今度は勝った俺を見せたる。絶対や!」
「――はい!約束ですよ!」
「ああ、任せとき!」
準決勝で必ず勝つという約束は果たす事は出来なかったけれど。
それでも君は未来に希望のある約束をくれた。
それが更に俺を強くするんやろう。
未来には勝った俺を見て、笑う君が見たい――。
END