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学園祭の悲劇


私の通っている氷帝学園中等部には有名人がいる。
その人の名前は跡部景吾といって、生徒会長でありながら、部員数200を超えるテニス部の部長で、先生からも一目置かれている存在である。
頭脳明晰容姿端麗…そんな才能溢れる人と私は別世界の人だと思っていた。

私、は平凡をそのまま表したような存在で、人よりも少し料理が得意という事もあって、料理部に所属している一般の生徒。


…そんな私が…どうしてなんだろう…。

どうしてテニス部の部室で…。

跡部景吾を始めとする、テニス部レギュラー陣に囲まれているんだろう…!!


私の目の前には跡部君。…どうしよう、すごく怖いっ!

私は正直、跡部君が苦手だ。嫌いじゃない、苦手なだけで。
だって別世界の人すぎて、どう接していいのか全くわからないから。
頭の中が軽くパニックになっている時、目の前の跡部君が口を開いた。

「確か、といったか。いきなり呼び出して悪ぃな」
「っいいえ!…あの、私に何かご用でも…?」

…一年から同じクラスなのに…『確か』って…。
そんな事を思いながら私はちらっと跡部君に目を向けると、彼はどこか不敵な笑みを浮かべていて。
こんな事を言い出した。

、お前は料理部に所属しているな。その腕は確からしいじゃねぇか」
「…はぁ、ありがとうございます」
「その腕を見込んで、俺達テニス部から頼みがある」
「私にできる事なら協力はしますけど…」

そう口走ってしまった事を後悔する事になるとは…!
『協力する』なんて、言わなきゃ良かった!


「今年度の学園祭でテニス部の出し物の為に料理を作ってもらいたい。
受けてくれるよな、アーン?」

……私のバカッ!
ああ、跡部君や周りのレギュラーの視線が痛い。
『頼み』とか言ってたけど、この威圧感の中じゃ、まるで『命令』されてるみたい。

でも…この頼みは受ける訳にはいかない。
私は怖さでふるえる手をギュッと握って、跡部君の瞳を見た。

「お断りします」

そう、ハッキリと言った。
跡部君は不機嫌そうに顔をゆがめ、周りのレギュラーは目を見張っていた。

「…理由は?」

そう跡部君は低い声で訊いてきた。
ううっ…怖い…。
頑張れ、負けるな私!

「だって料理部にだってやる事があるんです!
料理部とテニス部を両立する事なんてムリです」

だから、ごめんなさい、とペコリと頭を下げて、その場から去ろうとしたのに…。
跡部君はそれを許してはくれなかった。

「まだ話は終わってねぇ」
「でも…!」

何とか断ろうとした私の声を遮って、跡部君はとんでもない事を言った。

、お前の言いたい事は解かった。料理部を手伝うなとは言ってねぇ。
ただ、テニス部の方を優先しろ、と言ってんだ。いいな?」
「な…!」

何て勝手な!
この言い分には、普段あまり怒る事が得意じゃない私でもカチンときた。

「お断りします」

さっきよりも大きな声でハッキリキッパリと言った。

「おいおい、…」

少し戸惑った感じで、後ろから宍戸君の声が聞こえたけど、あえてその声には答えずに私は続けた。

「私はその頼みをきく義理はありません!
自分達の部の事は自分達で何とかして下さい!
迷惑です」

     …シーン…

その場が静まり返った中、私は内心冷や汗が止まらなかった。
ああ…言ってしまった、と。

「すっ…すみません!生意気な事言って!
でも…お手伝いはやっぱりできません。
本当にごめんなさ〜い!」

そう言って呼び止められる前に、脱兎のごとくその場から走り去った。


しかし…その翌日から、跡部君の無言の圧力が怖い。
さらに、何かを誤解した女子の視線が痛いし怖い。
私の平凡で、でも幸せな日々はどこに行ってしまったのか…。

そしてその日の昼休みに何故かレギュラーの人達に「手伝いに来てほしい」と涙ながらに頼まれた。
どうやら私が断ったのが跡部君は相当気に入らなかったらしく、部活ではレギュラーへの八つ当たりがキツイらしい。
ヘタすればケガ人が出かねないとまで言われれば、手伝わざるを得なくなってしまった。

結局、料理部の方も無視する事ができずに、死ぬ程の忙しさでも何とか両方手伝う事ができた、のだが。

連日の忙しさの反動からか後夜祭に出席する気力がなくなってしまった。
ああ…中学最後の学園祭だったのになぁ…。
氷帝の後夜祭にはダンスパーティーがあり、恋人と踊る人もいれば、友達とノリで踊る人もいる。私も恋人なんていないから、友達と楽しく踊りたかったのにさ。
まぁ、ダンスはそんなに得意って訳でもないけど、最後だったのに。

思わず、ハァとため息をついたら頭をコツンと小突かれ後ろを振り向くと、笑ってる跡部君がいて、「オゴってやる」と、ジュースをくれた。

「ダンスパーティーはいいんですか?皆きっと探してますよ?」
「ああ、すぐ戻る。それよりも、テニス部も料理部も大盛況だったじゃねぇか」
「そうですねぇ。大変だったけど、皆美味しそうに食べてくれたしよかったです」

本当に美味しそうに食べてる皆の顔を思い出して、思わず笑みがこぼれた。
すると横から跡部君がフッと笑う声が聞こえて、見ると跡部君はどこか優しそうに笑っていた。

「何だ、ちゃんと笑えんじゃねぇか」
「私だって笑う事くらいありますよ」
「どうだか。俺達の前じゃどこかいつもビクビクしてたくせによ」

跡部君は今度は少し呆れたような苦笑をした。
私は図星を突かれた事をごまかすようにえへら、と笑ってみた。

「まぁ、今年はお前の協力があっての大盛況だ。特別に褒美をやるよ」
「へ…?」

すっと跡部君の顔が近づいてきたと思ったら、頬に柔らかいものが当たった。
それが跡部君の唇だとすぐに理解できたのだけど、あまりのありえなさにパニックになって真っ赤になっているであろう私を見て、彼はとても意地悪そうに楽しそうに笑っていた。

「感謝しろよ。特別なんだからな」

そう言って跡部君はダンスパーティーに戻って行った。

「…感謝なんて絶対にしないもん。最悪だ…」

とんでもない忙しさで幕を閉じた中学最後の学園祭。
忙しさの原因となった彼は、最後の最後に私の頬に冷めやらぬ熱を残していった…─。





END





update : 2014.10.07
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