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自業自得


7月28日、跡部と榊先生を中心に青学の手塚とそれぞれの学校の先生方が企画したサバイバル合宿が始まった。






そしてその合宿が始まる一週間前、と跡部の喧嘩が跡部の自室で繰り広げられていた。

「何でっ!?どうして私は行っちゃいけないの!?」
「だから何度も言ってるだろうが。普通の合宿じゃねえんだよ」
「普通だろうが何だろうが合宿でしょ?マネージャーの私が行く権利はあると思うけど」
「サバイバルだぜ?危険だって完全にないとは言えない。大体、女のお前には負担が多すぎる」
「自分の身は自分で守るし、体力にだって自信ある。問題ないでしょ?だから行ってもいい…」
「駄目だ」

さっきからこの繰り返し。何度も繰り返されるこのやり取りにいい加減二人とも馬鹿らしくなってきた。
…しかし、どちらもここは譲れない。
今までの氷帝の合宿には、マネージャーであるももちろん同行していた。
しかし、今回に限っては跡部はの同行を拒否した。はそれがどうやら不満らしい。

「……私、迷惑?邪魔?」
「…そうは言ってない。そうじゃない」
「…………」

じゃあどうなのよ、とは跡部をジッと睨む。それを見て、納得できる理由を言わないとはてこでも動かないだろうと跡部は解っていた。
はあ、と息を吐いて、を連れて行くたくない一番の理由を跡部は話し出す。

「もしお前が何かドジを踏んで、怪我でもしたらどうする。…俺がそんなの嫌なんだよ」

少しでも危険な目には遭わせたくない。辛い思いはさせたくない。
それが理由で跡部はの事を思っての同行を断っていた。

普通の女ならときめくようなセリフでも、は別の部分に反応した。
は俯きながら、ボソッと呟いた。

「…私、そんなにドジじゃないもん…」
「ハンッ、何言ってんだ。俺が見る限り、お前は人一倍ドジなくせに……ぁ…!」

ハッとして、口を抑えたがもう遅い。
俯いていた顔は怒りに満ちており、跡部をキッと睨み付けていた。

「……もういい。私は私で勝手にするもん。景吾の頑固者っ!分からず屋っ!景吾の…バーカ!!」
「いって……。てめっ…」

叫んだ後に近くにあったクッションを跡部に投げつけて、顔面にヒットさせては部屋を出て行った。

「…ったく…あいつは…」

跡部はソファにぼすっと乱暴に座って、ワックスで整えている髪をくしゃっと崩した。
ただ、危険に晒したくない。それだけなのに。
自分の身は守れても体力的に問題はなくても、やはり男の自分とはワケが違う。
しかし、これで合宿の同行は諦めてくれたらいいと思っていた。諦めてくれたと…思っていたのに……。
合宿当日、集合場所の学校にはちゃっかりといた。
その事実に跡部は軽く目眩を覚えた。
…そういえば…一週間前、確かは…。

『私は私で勝手にするもん』

…確かにそう言っていた。
最初からこうするつもりで…。俺様としたことが……盲点だった……!

「今回、ちゃんは不参加やなかったんか?」
「……何も言うな、忍足…」
「…………ああ…」

ぐったりとした跡部に忍足は何かを悟ったようだった……。



それからサバイバル合宿が始まった。
問題は比嘉中の単独行動くらいで、跡部が心配していたにも何事もなく順調に進んでいった。
このまま大きなトラブルもなく無事終了するかに思えた。しかしその時事件は起きた。
なんと跡部が毒蛇に噛まれたという情報が入った。猛毒がある蛇だったが、幸い深く噛まれなかったために、少し体調が悪くなる程度らしかった。
は跡部と同じ海側グループだったため、情報は早く伝わった。その知らせを聞いて、はすぐに跡部がいるロッジへと向かった。

跡部が寝ているロッジに、コンコンと控えめなノックがした。
はいと返事をすると、が静かに入ってきた。急いできたのか、息が少し荒かった。
しかし入っては来ても、傍に行こうとはしなかった。入り口に立ったままである。

「……?」

それを不審に思った跡部が声を掛けると、俯いたままは冷たく言い放った。

「こういうのを自業自得って言うんだよね」
「はあ?どこがだよ」
「私のことドジだなんてバカにするから罰があたったんだよ。…私よりも景ちゃんの方がドジだったね……」
「……てっめ……それが見舞いに来た奴の言う言葉かよ…」
「…………」
「もっと何か言うことあんだろうが」
「…………」
(……あん?何も言い返してこねえな……)

何も言わないに内心少し驚いていると、は俯いたまま顔を上げようとはしない。
ああ、そうかと跡部はようやく解った。

「……泣くなよ…」
「…ぅぇっ…泣いて…ないもん…っ…」

涙を拭う仕草を見せながらも泣いてないと強がるを、跡部はフッと笑ってを呼んだ。

「…こっち来いよ、…」
「…………」

意外と素直に跡部の側に来たをぐいっと胸に引き寄せて、囁くように謝った。

「…悪かったよ。泣くほど心配かけて」
「…っ泣いて…ない…っ!」
「はいはい、そうだな」

跡部はそう言って小刻みに震えているの背中をそっと撫でた。これではどちらが病人なのか解らない。
ただ跡部は、走って来るほど、泣くくらいに心配してくれたことが嬉しかった。

しばらくそうしていると、の肩に跡部が頭を預けてきた。

「……景ちゃん…?眠い…?」
「ああ…少し…」

少しどころか今にも夢の中に落ちていきそうな跡部にクスッと笑う。

「眠って良いよ?」

そう言ったら、跡部が縋るようにの指先をキュッと掴んできた。
跡部の顔を覗き込むように、今度はがそっと囁いた。

「ね…?こういう時に私がいて良かったでしょ?」
「…ああ、そう…だな…」

短くそう答えて、跡部は目を閉じるとすぐに眠りの世界に落ちていった。
眠った顔が子供のように可愛くて、は目を細めて笑った。
跡部に掴まれている反対の手で、跡部の髪をそっと撫でると、さらさらの髪が指をすり抜けていく。

「こんな顔、誰にも見せたくないなぁ…」

ちょっとした独占欲を口にして、少し顔色の悪い跡部の頬にちゅっとキスを一つ落とした。



「今度からは私のことドジなんて言えないね〜」
「…………チッ」

何とか無事に合宿を終え、今日は久し振りに二人で街に出掛けた。
は得意気にそう言って、跡部の少し後ろを歩く。

「きゃっ…」

何もない場所で転びそうになったを跡部が支える。そのを見て、跡部がニヤッと笑った。

「…で?誰がドジじゃないって…?」
「……毒蛇に噛まれるようなヘマはしてないもん…」
「あ〜ん?何だって?」
「別に何も」

そしては跡部の手に指を絡ませた。あの夜、跡部が摘んだよりもしっかりと。
何も言わずに笑って、握り返してくれるのが嬉しかった。





END





update : 2008.12.11
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