真っ白でやわらかなふとん。目を開ければ真っ青な天。眩しい太陽。
ここはどこだ? 雲の上?
ふかふかの雲の感触を楽しみながら、腕を組んで「うーん」とうなる。
ていうか、俺、なんで雲の上なんかにいるんだ?
――ずぽっ。
自分の状況に疑問を抱いた瞬間、雲がやわらかさを失って、俺は突然落下した。
クッションみたいなちいさな雲が俺の下に残って、ふわふわゆっくりとした下降。
雲の下は、上には太陽があったのに夜だった。
でも、夜だと漠然と感じただけで、そこに夜の街があったわけじゃない。
むしろ真っ暗。
そこの一ヶ所だけにぽつりと明かりが灯ってて、俺はそこへ落ちているようだった。
地上に着くと、俺を運んでいた雲は羊の毛みたいな大きなクッションに変わり、俺はそこへ身体を埋もれさせた。
あったかい…ああ眠いな…
「――ジロー!」
「ジロー!」
誰かが呼んでる。うるさいな…このまま寝ちゃいたいのに。
仕方なく顔を上げると、テニス部のみんなが、俺の所へ駆け寄ってきていた。
みんなは手の中に、リボンが十字にかけられた様々な大きさの四角い箱を持っていた。
俺の前に横一列にズラッと並んだみんなは、ニコニコ笑顔だ。
あははっ、跡部とか宍戸とか日吉とかがこんな笑顔してると、ちょっと気持ちわりー。
俺がクッションに腰掛けて向き直ると、みんなは一斉に四角い箱を差し出してきた。
「おめでとう」
「おめでとう」
「誕生日おめでとう」
ああそっか、今日は俺の誕生日か。
ははっ、うれC。
プレゼントの箱がぽんぽん勝手に開いて、色んな物が飛び出してくる。
大きなケーキと、たくさんの料理にお菓子。俺にぴったりの枕やウォーターベッド(どこに入ってたんだ?)
大好きな物とみんなの笑顔に囲まれて、俺は幸せ気分でまたうとうとし始めた。
でも――まだ何か、足りない。
一番大切なものが、ぽっかりと欠けてるような気がする。
俺が一番欲しいもの。一番求めてるもの。
この眠りの先に、それはあるだろうか――
「――ろう…慈郎」
やわらかい声と、影が落ちてくる。
これが俺の待ち望んでいたもののような気がして、俺は眠気を振り払ってパチッと目を開いた。
笑顔の女の子が、光を遮って俺の顔を覗き込んでる。
ああ……――これだ。
「…」
俺は腕を伸ばして、立ち膝をしてるの腰に抱きついた。
押されたはその場に腰を落とす。
自然、膝枕の形になった。
はふぅ、と息をついて俺の頭を撫でる。
「部活に来ないから、捜しちゃった」
「俺も」
「え?」
あいたかった。すごく。
これが夢でも、俺、絶対に離さないんだ。
だけは。
「ねぇ慈郎、今日は何の日か覚えてる?」
「俺の日っ!」
間髪入れずそう答えると、はクスッと笑いを零した。
「そう、慈郎の日――…おめでとう」
これが何よりも俺が欲しかったもの。
からのお祝いの言葉。笑顔。
俺の誕生を祝福してくれるの気持ち。
「…、傍にいて」
「うん…?」
「何もいらないから、今日はずっと一緒にいて」
「…うん、いいよ」
「ずっと」って意味わかってんのかな。一日中ってことだぞ?
本当に離さないからなー。
もうの出てこない夢なんて見ないように、傍にいて抱きしめてだけを感じたい。
ねぇ、本当にわかってる?
怖かったんだ。すごく大切なものがあるはずなのに、思い出せなくて。
思い出せなくても何にも感じずに、他の喜びに目を奪われてしまったりして。
目が覚める刹那に、俺はやっと大切なものを思い出そうとして、目が覚めたらそこにがいた。
そのことがどれだけ嬉しくて、心底安心したか。
きっと俺にしかわからない。
もう一度、夢を見ようか。
今度は俺の傍にはちゃんとがいて、みんなもいて、笑ってて。
本当の幸せを感じて、眠りに落ちたい。
その先にも、がいるはずなんだ。
――そうだろ?
END