TOP > DREAM > メルトダウン
メルトダウン
 窓を開けていても風は吹き込まず部屋の中にはむわっとした熱気が籠っていて、じっとしていても汗が吹き出てくる。
 左右に首を振る扇風機が辛うじて私達を救ってくれてはいるが、今のこの状態では、気休めにしかなっていなかった。

「……暑い」

 もう何度目になるか解からない私の呟きに、それと同じだけ繰り返された慈郎の呟きが返ってくる。

「暑いねぇ」

 暑さで思考が鈍っているのが解かる。そろそろ意識が遠のきそうだ。
 この灼熱地獄で人と密着するというのはかなりキツいし、相手が恋人であっても御免蒙りたい――普通ならばそう思うはずなのに、慈郎は我慢大会か何かのつもりのようにもう十分以上もただじっと私を腕の中に捕まえて放そうとはしなかった。
 初めの時点で抗議をしなかった私が悪いのだが、さすがに人間、限界というものがある。

「……暑いなら、放してくれないかな。ほら私、顔も汗かいてきてるしさ、あんまり見られたくないっていうか、拭いたいっていうか、もう滴りそうっていうか」

 座ったまま私を抱き込む慈郎に、ようやくまともな意見を述べた。
 すると慈郎は少しだけ腕の力を弛めて、私の顔を覗き込んでくる。ああだから、こんな汗だくな顔、見られたくないっていうのに。
 私の微妙な乙女心など意に介さず、慈郎はニコッと笑って、一言。

「…舐め取ってあげよっか?」
「やややめて!」

 冗談に聴こえないセリフに赤面しつつ、互いの身体の間から腕をくぐらせ手の甲で顔の汗を拭った。
 額に張りつく前髪を掻き上げて視線を上げると、慈郎のこめかみをつうっと伝う汗が目に入る。
 その光景に鼓動が跳ねて見入ってしまった瞬間、何やらキスをされてしまった。

「ん…」

 目はうっすら開けたままだったので、至近距離で慈郎の皮膚にじわじわ汗が浮かんでくるのが見える。何故だか無性に愛しかった。
 こんなに暑いのに、こんなに汗かいてまでくっついて、唇までくっつけ合って。
 馬鹿みたいだ。馬鹿になるしかない。好きだすきだ。
 目を閉じて腕を伸ばし、手のひらで慈郎の後ろ頭を軽く手前に引き寄せる。柔らかい髪の根本はしっとりと濡れていて、ぞくぞくした。
 触れ合っている全ての箇所が濡れているような気がして、実は境目すら解からなくなる程に溶け合っているのではないか、なんて胡乱な頭で想像する。
 暑さでおかしくなりそう。いや既におかしくなってる。だってもう暑さとか感じなくなってる。
 唇が離れると、全力で泳いだ後みたいに突然苦しくなって、慈郎の肩口に額をつけてぜいぜい喘いだ。あ、さっきの嘘、やっぱり暑いです。
 またぎゅうっと抱きしめてきた慈郎が、耳元で息をつく。その吐息すら熱くて。

「はぁ…暑いねぇ」
「慈郎にだけは言われたくない…」

 再び訪れる限界。もう我慢出来ない。
 いっそ溶け合えたらどんなにいいだろう!





END





update : 2007.08.02
ドリームメニューへトップページへ