誰にも知られず、誰にも介入されることのない君との世界。それがきっと。










  ひみつきち










 ゴールデンウィークの祭日最終日の五月五日、今年はこの連休をどこにも出かけないで家でずーっとだらだらゴロゴロして過ごしていると、見かねた母が私におつかいを命じてきた。
 先日知人の結婚式で両親が着たフォーマルスーツをクリーニングに出してこい、という指令。
 歩いて行ける距離とは言え、二人分のスーツを持って歩くというのはこの三日間だらけて過ごしていた私には結構な重労働だ。
 私が渋っていると、休み明けのことを考えると少しくらい動いておいた方が良いとかしつこく言われ、私は渋々スーツを詰めた紙袋を持って家を出た。

 外は気持ちいいくらいに晴れていた。青い空に小さく薄い雲がぽつりぽつりと浮かぶ光景は何だかのどかで、ほとんどの人が今日は休みだからかのんびりな空気が流れていて、バカみたいに平和に感じる。鯉のぼりが時折吹く風にあおられてほわほわ泳ぐ様も平和そのものだ。
 腕を上げてんーっと伸びをしてみたら、脱力すると同時に眠気が落ちてきた。ああ、あったかいなぁ。もっと治安が良ければどこかの公園の芝生で昼寝でもするのに。
 この陽気の下で眠ることばかり考えて歩いているうちに、昔からうちが利用しているクリーニング屋の看板が目に入った。

 『芥川クリーニング』と書かれたお店の中を覗くと、レジカウンターに芥川のおばさんが立っていた。そして――カウンターの上に組んだ腕に頭を乗せて辛うじて起きているくりくり金髪の次男、芥川慈郎。彼は私と同い年で学校も同じだ。
 「うわぁ…」という表情で私が自動ドアの前に立つと、客がやってきたことに気づいたおばさんはジローくんの頭をぺしっと叩いた。うん、確かに客を迎える態度じゃないよねそれ。
「こんにちはー」
 普段は母が洗濯物を持っていくので私は数えるほどしかこのお店に来たことがないけれど、一応顔見知りなので愛想良く挨拶する。
「あらちゃんこんにちは。お母さんのおつかい?」
「はい。お願いできますか」
 と、スーツの入った紙袋をカウンターに上げる。

 おばさんが中身を出して見積もりをしている間、ジローくんは何か手伝いをするわけでもなく、ただ眠そうな顔でぽけーっと私を見ていた。何よ、同類だと思ってるんじゃないでしょうね。ええ私も眠いですけど。
「スーツが二着で、千九百円ね」
「あ、はい。…あの、ジローくんはお手伝いですか?」
 ジローくんの視線が気になりつつも、ウエストポーチに入れていた財布からお金を出して渡しながら、本人ではなくおばさんに訊ねる。おばさんは苦笑した。
「ええ、自分で手伝うって言い出したんだけど、この調子で…」
 役に立たない、というわけか。ならどうして自分から志願したんだろう。むしろ邪魔になってるかもしれないよ? と、さすがにそこまでは直接言わないけどね。ジローくんの行動がたまにワケ解かんなくなるのは今に始まったことじゃないし。昔から変わった子だった。

 私は「へぇ…」と曖昧に相槌を打って、カラになった紙袋を畳んで片手に持つ。
 ちらっとジローくんを見遣ると、まだ私を見ていた。ずっと一言も喋らないし…なに?
「あー…っと、じゃあ、私はこれで…」
 その視線から逃れるように一歩後退り、おばさんに会釈してから踵を返そうと動くと、突然、ばんっ!と音がして私は飛び上がった。恐る恐るちょっと振り返ると、ジローくんがカウンターに両手を突いていた。俯いていて表情は良く解からない。
 その見えない口元から、結構軽い調子の声が聴こえた。
「…ちゃん、これからヒマ?」
「はっ?」
 まあヒマっちゃあヒマだけど…寝る予定しかないし。
「ごめん母さん、出かけてもいい?」
 私がイエスノーを答える前にジローくんはおばさんに伺いを立てている。
「いいわよ」
 役に立たない息子が店を抜けるのに何の問題もないらしく、おばさんは二つ返事だ。
 ていうか私、否定のタイミング逃した…?

 ジローくんは着けていた店のエプロンを素早く脱いでカウンターに乗せ、こちらに回り込んできて、振り返ったポーズのまま動けずにいた私の手を取った。
「いってきます」
 そう言って、さも当たり前のように私の手を引いて店を出る。私は混乱していた。
 ジローくんとは「ジローくん」「ちゃん」と名前で呼び合う仲ではあるが、それは知り合ったのが幼い頃だからなのと、互いに互いの親を知っているから下の名前で呼び合った方が良いのを感覚的に解かっていたからで、ジローくん自身とはそんなに親しいわけでもない。
 …いや、幼稚舎の中学年くらいまでは一緒に外で遊んだりもしたけれど、それだけだ。ずっとクラスも違うし、今では学校ですれ違っても挨拶したりしなかったりという感じだし、ジローくんとどういう関係かと訊かれれば、『小さい頃の遊び友達』でしかない。それなのに、今になって突然関わりを求めてくるなんて、どうかしている。

 男の子と手を繋ぐなんて何年振りだろうか。過去の記憶を呼び起こすと、最後に手を繋いだのもジローくんだったと気づいて、過去と現在のギャップに狼狽した。明らかに手のひらや指が大きく長くなっている。背丈は私とそんなに変わんないのにな。さっき聴いた声だって、ずっとまともに会話もしてなかったから、知らない人の声みたいに感じた。声変わりってやつがいつジローくんに訪れたのかも知らない。
 ジローくんはのんびり歩いて、お店に来る時に私がそうしたように、ぼんやりと空を見上げている。
「いい天気だね〜」
「一体どこに行くの?」
 ジローくんの呟きに被せるように、私はようやく言葉を発した。
 ジローくんは空から私に視線を移して、空いた方の手の人差し指を立て、口の前に持っていった。
「…ナイショ」
 そしてやんちゃ坊主みたいにニヒッと歯を見せて笑い、また空を仰ぐ。

 どこに連れ込まれるとも知れないのに、ジローくんのその眩しい笑顔を見たら、何か理由をつけて逃げ出す気も失せた。強引で、でもそれを不快に感じさせないところは、ビックリするくらい昔と変わってない。もういいや、と思わされる。
 陽射しも風もあたたかくて、また眠気に襲われる。私がくあっとあくびを噛み殺していると、隣でジローくんもふわあと遠慮なくあくびをしていた。図らずも同じタイミングであくびをしたのがおかしくて、私たちはちらっと視線を交わして少し笑った。
 しばらく付き合いもなかったのに、こうして自然と笑い合えることに、私はまた狼狽する。
 芥川慈郎という人間だからこそ成せる業か。

 住宅街に入ったが、見慣れた風景は変わらず続く。ジローくんはどこへ行こうとしているんだろう。この辺に何かあったっけ?
 頭の中でこの辺りの地理を思い出しながらジローくんに手を引かれるまま歩いていると、住宅街の奥の方に進むにつれ、だんだんと、見慣れたものから懐かしい風景に変わっていくのが解かった。小さい頃は良く行ったものだけれど、最近はこちらに来ることはない。
 予感があった。もしかして、ジローくんは――

「この辺、なつかCね〜」
 と、ジローくんはきょろきょろしながら私に同意を求める。
「そうだね」
 昔は家が大きく見えたのに、背が伸びて視点が変わると、妙な違和感があって不思議だ。そう思うのは、ここが確実に過去になってしまっているからだろう。
「…ねえ、どこに向かってるのかそろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「ん〜? 言わなくても、もうわかってるんじゃないの?」
 そう言ってジローくんは私の手をしっかりと掴むように握り直し、たっ、と駆け出した。
 突然勢い良く前に腕を引かれて、一歩目はつまずきそうにがくっとなったけれど、次の一歩から私もジローくんに合わせて走った。
 目的地はもう解かってる。私はジローくんを追い抜くくらいの勢いで走った。でも今やテニス部の正レギュラーにまでなったジローくんの脚力には私の全速力でも敵わない。ジローくんは涼しい顔で私の速度に合わせている。地味に悔しいな。

 あの十字路を左に曲がって、すぐ右へ。
 そこには、本当に懐かしい光景があった。
 ――昔よく遊んだ公園。年月で多少遊具が古くなったような気がするだけで、全然変わってない。変わったのは私たちの年齢と、やはり背丈だ。遊具がやけに小さく見える。
 まだゴールデンウィーク真っ只中だから皆旅行にでも行っているのか、もしくは端午の節句を家で祝っているのか、真昼だというのにその場に相応しい子供の姿は見当たらない。
「うわなっつかCーっ!」
 ジローくんは目を輝かせ、ブランコに向かってまた走り出した。強制的に私もそこへ連れて行かれる。

 ジローくんは繋いだ私の手をブランコのチェーンに掴ませると、やっと手を放してその隣のブランコに腰掛けた。ジローくんがブランコに座ったまま後ろに下がり、地面から足を離すと、小さい揺れ幅でブランコが前後に動き出しキイキイ音が鳴る。
 手に持っていた空き紙袋をウエストポーチのベルトの後ろに挟んで私もブランコに座り、ジローくんと同じように漕ぎ始めた。地面を蹴って足を前、後ろと曲げ伸ばしし、加速をつける。だんだん速くなっていくと、楽しくて気分が高揚してきた。
 子供はいいな、こんな楽しい遊びをしているんだ。どうして手放してしまえたんだろう。
「ねえちゃんっ、見ててっ!」
 声をかけられて隣を見ると、ジローくんのブランコは私の方よりも大きく揺れていて、ジローくんは真っ直ぐ前を見つめて、何かタイミングを窺っているようだった。ブランコに乗っている時、男の子なんかがよくする目だ。
「飛ぶのー?」
「うんっ!」
 ブランコが後ろに下がると、ジローくんは「いっせーの…」と掛け声を放ち、ブランコが前へ向かう勢いと同時に「せっ!」でジャンプした。チェーンがガチャンと大きな音を立てる。

 低い鉄柵を越え結構な距離を飛んで、スニーカーがジャリッと地面を捕らえた。ジローくんは体操選手みたいに両手を横にぴんと伸ばして、得意げにこちらを振り返る。
 私はブランコを漕ぐのをやめ、「おおーっ」と感嘆を洩らして拍手した。距離もすごいが高さもすごかった。着地に失敗したら危なかったろうなと思うよ。
ちゃん、今度はあっち!」
「ええっ?」
 元気なもので、「あっち」と言いながらジローくんは砂場へ一直線だ。
 仕方なく私もブランコを降りて後を追う。何となく後ろを振り返って見ると、二つのブランコがまだ揺れていた。

 ジローくんは正方形の砂場にしゃがみ込んで腕まくりをし、中央に砂を掻き集め始めている。
「山作るの?」
「うん」
 もう熱中している。こうなったらとことんまで付き合うしかないか。
 私も腕まくりをしてジローくんの向かいにしゃがもうとすると、砂場の端に埋まっている子供用の赤いバケツを見つけた。忘れ物かな。腕を伸ばして引っ張り出し、お借りすることにした。フチが一ヶ所欠けているのが使い込まれてる感じで、何かいい。
 それを使って周りから砂を掬っては砂山に被せていく。
「いいもの見つけたね」
 ジローくんが顔を上げてニコッと笑う。
「よーしでっかいの作るぞ〜!」
 でっかいのって…つまりは幅も広くなるわけだね。山よりもお城が出来そうだ。

 しゃがんでいると足首が痛くなってきて、もうズボンが汚れるのも気にせず(どうせ普段着だし)その場に座り込んだ。既にジローくんは悠々と足を広げている。
 次第に高く大きくなっていく砂山をぼんやりと見て、私は思わず独り言のように呟いた。
「…昔トンネル掘ったりしたよねー」
「…おお!」
 ジローくんはポンッと手を打ち、また目を輝かせた。
「トンネル掘ろう!」
「でも水がいるよね」
「バケツあるじゃん!」
 手元を指さされて、自分が手に持っていた物にはたと気づいた。
「じゃあ、私汲んでくるよ」
 ズボンについた砂を払いながら立ち上がり、バケツを持って水飲み場まで早足で向かう。

 子供の高さの水を飲む水道の下に備えつけられた、手洗い用の水道からバケツに水を注いでいく。バケツに水が溜まっていく様子を見つめながら、私何やってんだろうと今さらになって正気に戻った。
 いや、いいんだけどね。童心に返るのって正直楽しいし。
 でもジローくんは、何が目的で私をここに連れてきたんだろう。昔を懐かしみたかったのかな。
 小さいバケツはすぐに一杯になり、私は砂場へと戻る。「かけるよー」と一言、砂山の天辺にバケツの水を引っかけた。…全然足りない、ので、もう一度水道へ走る。

 水道と砂場を何往復かして、ようやく砂山が固まってきた。
「そろそろ掘れる?」
「うん。ほらちゃんも座る!」
「はいはい」
 それまで活躍してくれたバケツを脇に除けて、再びジローくんの向かいに座る。
 水をかけるたびにジローくんが混ぜていってくれたお陰で、砂山だけは周りの乾いた砂とは色を変えて固さを持っていた。
「両側から掘っていく?」
「うん」
 それが合図で、お互い慎重に強度を保つようにしながら直線に穴を掘っていく。これが、いつ崩れるかって結構緊張するんだよね。

 トンネルを掘る代わりに山のサイズを少し小さくしたから、真ん中辺りまで何事もなく掘り進めることが出来た。
 ジローくんの方も真ん中まで来ているようで、そこの砂壁は何だか薄い。これはさらに注意して掘らなければ…と思っていると、砂壁の向こうからジローくんの手がにゅっと伸びてきて指先が触れたので、私は慌てて腕を真っ直ぐに引いた。
「…繋がった?」
「うん――」
 トンネルの天井をそっと固める仕種をして、ジローくんもゆっくり腕を引き抜いた。
「――っと、完成!」
 わあっと二人で手を打ち鳴らし合う。
「すっげー! 昔はなかなかできなかったのになー」
「慎重という言葉を覚えたからだと思うよ」
 子供がやることは何でも豪快で、注意深く遊ぶなんてことは考えなかったものだ。
 ジローくんがひょいっとトンネルを覗き込んだので、トンネルの向こう側にいる私は穴に向かってひらひらと手を振る。
「ははっ、すげー!」
 と笑いながら、ジローくんもこちらに手を振った。私がそれを見たのはトンネルからじゃなく上からだったけど、実に微笑ましい光景で顔がほころんだ。

 ジローくんは満足げな顔を上げてきちんと座り直すと、ニコニコ笑って私を見た。
「このトンネルはさー、俺からちゃんにつながってるんだよ」
「え?」
「ね、トンネルに手ぇ入れてくれる?」
「ん、うん…?」
 言われた通り、私は屈んでトンネルの真ん中辺りまで腕を差し入れる。すると反対の穴からジローくんも手を入れてきて、握手するように私の手を掴んだ。
「このトンネルは『ジロー』って場所から、『』って場所につながってんの。すっげーうれCー」
 いきなり呼び捨てにされて、ドキッとする。
 何か告白みたいなセリフだけど、ジローくんて昔からこういう恥ずかしいこと平気で言う子だったしなぁ。判然としなくて、私は困ったように笑った。
「トンネルがなくたって、繋がってるよ」
 もちろんこの手のひらもそうだし、何年も疎遠だったのに再びこうして昔のように一緒に遊べるってことも、どこかで私たちが繋がっている証拠なんじゃないだろうか。
 私がそう言うとジローくんはきょとんとし、俯いて「そっか…」と嬉しそうに呟いた。

 トンネルを通して手を繋いでいると、自然と湧き起こってくる衝動があった。砂山の頂上に目を移し、しばし沈黙。
「……ねえジローくん…このまま腕上げたくならない?」
「……ちゃんも?」
 視線だけ上げて目を合わせ、私たちはいたずらっ子のようにニヤッと笑みを交わした。
「よい」
「しょっ!」
 掛け声と共に繋いだ手を真上へ一気に持ち上げて、砂山を真っ二つに割る。
 子供ならではの破壊衝動、今でも持ち合わせていたようだ。
 お互いの頭や服に飛び散った砂がかかって、私たちは声を上げて笑った。
「ああもう砂まみれ」
 濡れた砂を散々触って手も汚れているので、払い落とすこともできない。ふるふると首を振って頭に乗った砂を落とすと、私たちは競うように水道へ走った。

 私の方が一足早く辿り着いて、肘の辺りまで汚れた腕を洗う。ジローくんもすぐに下から腕を差し入れてきて、私の洗い水で腕をゆすいだ。
 先に手を洗い終えて、外側に向かってぴっぴっと水を飛ばす。ハンカチ持ってるけど、天気がいいからすぐに乾くだろう。風が触れると涼しい。
 ずっと座っていて固まってしまった身体をぐーっと伸ばす。ああなんて清々しい。
ちゃん、今度はあれに入ろっ!」
 水道の蛇口を閉めながら、ジローくんが公園の中央にあるかまくら――みたいな、山みたいな、中に潜れて外側からも登れる遊具、何て名前なのか未だに知らない――を指差した。
 あれにもよく潜ったりしたものだけど、今の身体のサイズじゃ狭くないかな。
 ジローくんはたったか走って中を覗き込み、すいっと入っていく。手だけ外に出して来い来いと軽く手招きすると、すぐに中へ消えた。
 私も穴の前まで行って中を覗き込むと、天井は低いけど広さは意外とあった。そんなに汚くないし、二人並んで入っても大丈夫そうだ。

 何となく「お邪魔しまーす」と言って中へ入る。天井の斜め辺りにもいくつか穴が開いていて、中に光を注いでいた。
「…で、ここでどうするの?」
「寝よう!」
 ジローくんの大きな声が反響してキンキン耳に響く。
「は、寝るの?」
「だって眠いもん」
 どこが? すごく元気いっぱいじゃん。
「ここで横になるの?」
「うん。もう俺ら砂まみれでじゅうぶん汚いし、いいじゃん。外で寝るより安全だし」
「それはそうだけど…」
ちゃんは、枕の代わりにこれ使うといいよ」
 と、私がウエストポーチのベルトに挟んでいた紙袋を引き抜く。
「ねっ?」
 有無を言わさぬ笑顔。
 どうせ眠い眠いと思っていたんだし、まぁいいか。

 ジローくんは奥に紙袋を広げて置くと、躊躇わずその隣に足を畳んで仰向けに寝転んだ。
「下固くない?」
 私は天井に気をつけながらジローくんに近づき、そっと訊ねた。
「多少は背中痛いけど、平気だよ」
 笑ってそう答えて、また来い来いと手招きして隣をぽんぽん叩く。ジローくんの濡れた薄い手形がついて、ちょっと苦笑した。
 ジローくんの横に腰掛けて身体を倒し、ジローくんに背を向ける形で横になる。お、結構いいかも。身体は縮こませなければ納まりきらないけど、陽射しであたたまった床が気持ちいい。
「どう?」
「うん、寝れそう」
「じゃあおやすみ〜…」
 すぐに後ろからすぅすぅ寝息が聴こえてきた。相変わらず早い寝入りだ。今さらだけど、遊び疲れた子供みたい。
 かくいう私も、元々眠かったのに加えてたくさん身体を動かしたこともあり、お世辞にも寝心地が良いとは言えないこんな場所でも、そのあたたかさに瞼が下りていった。











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