なぜ裁判を始めたか

1996年の夏、住んでいるマンションの前の道路の拡幅計画が降ってわき、このままだと共有の庭が全く失われかねないということで、市議会などに陳情をすることになり、署名集めなどをしました。また議会の傍聴をしたり、市議の方々に会う機会が生まれました。
そうした中で、市や都など役所の側と、一般市民の持つ情報量の差を痛感しました。例えば、さまざまな測量図、騒音や排気ガスの測定データ、計画決定の根拠となる文書など、こちらがその存在を知って、何度も問合わせしてやっと少しずつ出てくるという状態でした。

ちょうどその頃、武蔵野市の情報公開条例を改正するという動きがあることを知り、仲間と共に@しみん(アットマーク市民)というグループを作り、公開講座の開催など、よりよい条例にしてもらうための運動や勉強会を始めました。法律を勉強している人たちが中心になって、最終的には@しみんによる条例改正案を提案することができました。
その間、実際の情報公開がどういう手順で行われるのか、どういう点を改正してほしいかを知るためのケーススタディとして、近隣の市や区の首長交際費の開示請求をしてみようということになりました。その時はこれが裁判につながるとは全く思いませんでした。

武蔵野、三鷹、小金井の三市、それに中野区の首長交際費を開示請求をしてみて、武蔵野市は金額も件数も際立っていて、黒塗り(非開示)も断然多いことが分かりました。「社会の常識」、「市民の常識」から掛け離れていると思われる支出も多数ありました。いったん知った以上、黙って放置したのでは何も変わりません。いろいろ考えた結果、住民監査請求をすることにしました。

具体的には、H11年8月からH12年3月末までに市長・市役所交際費として支払われた約567万円 (473件)のうち、「社会通念を著しく逸脱していて違法と考えられる支出」46件、「領収書が添付されていないもの」9件、「本来食糧費(会議費)から支出されるべきもの」3件、の計58件約95万円について、H12年8月土屋市長及び本件財務会計責任者に対し、個人の責任で損害を市に弁済するよう求める監査請求を提出しました。

10月になって監査結果を知らされました。結果は予想した通り、中身を個別に十分審査することなく、「交際費の支出は、基本的には地方公共団体の裁量に委ねられている」としてで退けられ、領収書不備など一部を除いてこちらの主張が認められませんでした。
  最近、首長の任命する監査委員の監査には限界があり、外部監査を導入すべきだという意見を耳にします。監査を体験してみて同感します。委員の前で陳述もしましたが、残念ながらあまり熱心に聴くという感じではなく、手続きを踏んでいるだけとしか受け取れませんでした。

こんなわけで、最終的に住民訴訟を起こし、裁判所の判断を仰ぐことを選択しました。
提訴した案件は監査請求した58件約95万円全てではなく、違法性が著しいと思われる6件 計7万5千円のみとしました。件数を増やすと裁判費用も増えます。また案件ごとに争って、裁判が長期化することも望ましくありません。件数を絞ったことで、違法性を問う支出金額は少なくなりますが、市長交際費は市長の税金を遣う姿勢が問われる象徴的な費目なので、金額の多少に関係なく一定の意味がある訴えだと思います。

また詳しい法律知識がなくても、常識的な主張を通すことで、住民訴訟は十分争えるのではないかと考え、弁護士を立てることなく本人訴訟で行うこととしました。個人でも少ない費用で行政相手に結果を出せるという実績を作って後に続く人たちを勇気づけたいという狙いもありました(一、二審とも本人訴訟を貫きましたが、実際の裁判のやりとりは思った以上に難しいもので、多くの方々の助言をいただき、知恵をお借りしてやっと続けられたというのが実感です)。

こうしてH12年10月30日、東京地裁に訴状を提出しました。判決が出たのはH14年6月21日、2年近く掛かりました。