生徒指導通信 18

いい先生

 2週間ほど、学校を離れていました。文部省の研修に参加していたんです。1日目は、文部省の調査官が出席して、文部省の考えている教育改革について、話をします。子どもの少子化と高齢化。学校の統廃合。そして、こころの教育。
 調査官は、新聞記事のスライドをたくみに利用して説明するんです。

 “生徒の目の前で、飼育してきたうさぎを土に埋めた先生。”

 “テストの点数によって、王様から奴隷まで生徒のランクを作った先生。”

 「いい先生になってくださいよ。」彼は最後に、そんな言葉を閉めの言葉にしました。

 

 夜は、顔合わせの飲み会です。なにせ、この研修には、新潟から東北の各県、そして、北海道の教員が数名ずつの25名参加しているんです。これからの2週間は、同じホテルでの缶詰の生活が始まるんですから。初日の飲み会は、気のきいた配慮なのでしょう。

 各県順送りに、自己紹介です。青森の先生は、地元の民謡など歌って、のどをご披露しています。新潟の先生は、幻の酒を持ってきて、飲ましてくれます。北海道の先生は、帯広の広大な自然について、誇らしく話します。みんな、地元が好きなんだなあ。ついには、「踊る阿呆に観る阿呆、同じ阿呆ならおどらな損損!」と四国出身の文部省調査官が踊りだしましたよ。なかなかやるじゃあございませんか。

 みんな郷土に誇りを持ち、胸を張って生きているんだなあ。

 難しい話より、こんな姿や場面でこの人は素晴らしいなあって思っちゃうんです。わたしは。

 

 “いい先生”文部省の偉い人が簡単に言った言葉だけど、2週間の間、わたしの頭にはこの疑問がついてまわるんです。

 いい先生か。確かに、生徒の目の前で育てたうさぎを殺すような先生は、いい先生とは言いにくいですね。テストの点数で、生徒のランクをつけるような先生も、決していい先生とはいえないでしょう。

 これからの“いい先生”とは、どんな先生なのでしょう?

 

 夜は地区座談会への出席のため、天童からとんぼ帰りです。久しぶりの学校には、部活動終了の午後6:15分頃到着しました。

 「先生の出張、終わったんだが?」2年生の女子が、優しく尋ねます。久しぶりの中学生との会話です。何気ない会話ですが、とってもほっとするものです。

 

 地区座談会は、座長さんのとてもうまい進め方で、みなさんいろんな思いをお話してくれました。親(家族)と子の会話というテーマの座談会です。どの家庭も悩みはつきません。学校での様子をもっと知れたら、子どもと話せる話題もできる、そんな意見が多かったですね。学校を知ってもらう方法、これから考えなくてはならないと思っております。出席されたどなたも、“いい親”としてのあり方を一生懸命考えていらっしゃるんですね。

 “いい親”これも、難しいものです。わたしの悩みと同じなんです。

 

 研修も、1週間が過ぎ、研修会場から山形方面にちょっと寄り道しました。そこには、県の総合運動公園があります。運動着を着た、若者から老人までスポ−ツを楽しんでいますよ。ふと、古い看板を見つけました。

 「キャッチ・ザ・ナンバー1」確かこれは、べに花国体のキャッチコピーでしたね。なんとなく、これを見て、はっとした自分がいました。

 

 ナンバー1。確かに今までの教育は、1番を目指してのものが多かったように思いますね。1番を目標にさせるという理由で、どの生徒にも、均一な授業を施してきました。その結果、協調性と忍耐力のある人間を求めてきたのでしょう。でもそれは同時に、個性の無い、自分の考えで行動することに乏しい日本人の出現でもあります。みんな、同じ形、化粧、それによって安全を求めるのです。

 これから、わたし達教師が目指すものは、ナンバー1じゃなく、んーそうですね、無理やり似たような英語を探すとすると、

 オンリー1、だと思います。

 オンリーとは、「唯一の」とか「世界でたった一つの」という意味でしょう。ひとり一人の生徒は、ONLY(この世にひとり)なんですね。だから、いろいろな子どもの心は、ひとつでなくていいんです。みんな違っていいんです。そんなことをわかっている、そのために実践している先生が、「いい先生」だと思うんですが、どうでしょう?

 テストの点数を何点あげられるとか、いい高校に生徒を何人おくれたかというのではないんですね。絶対に。

 

 保護者の皆さんは、“いい親”について、結論がでましたか?ここでも、ONLY.1の考えをもってみてください。これまで、頭にきたり、叱っていたことは、他の子どもと比べたり、劣っていたことに対して、湧き上がった感情だったということはありませんか。もし、そうであったなら、それは、ナンバー1を目指した教育だったと思ってください。この子は、世界でたったひとりしかいない、オンリー1だと思ったら、これまで頭にきていたことは、そうでもなくなるかもしれませんね。また、反対に、この子はたったひとりのわが子だと思うからこそ、これまで目をつぶっていたことに、むしょうに腹が立つこともでてくるかもしれません。

 

 「らっせら、らっせら」研修が全て終え、最後の酒を交わします。どの先生もそれぞれ、この研修で学んだものがあったようです。遠方で、もう二度と会わないかもしれません。この偶然の出会い、2週間ともに過ごした日々は、貴重なものです。そして、明日からの、目まぐるしい日々の中にまた、向かっていくんですね。最後は、全員大酒飲んだ勢いで、青森のねぶた踊りをまねして、踊り狂いました。「らっせら!らっせら!」新しい教育に向かって、互いの健闘を誓っているように私は感じるんです。

「らっせら!らっせら!!」

 

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