世界といのちについて考えよう(英語科)
平成16年11月29日実施
授業者 T・S 教諭
文責 高橋 晋作
【授業の様子】
この授業は、1月に全教科で行ってみようと発案している、『いのちの授業日』に向けての先行実施した提案授業である。『いのちの授業日』とは、あらゆる教科で、その日1日だけ、テーマを“いのち”に定め、特別授業を実施しることを試みる日である。これまで、道徳での実施は例年行ってきたのだが、数学から迫るいのちの授業とか、音楽から迫るいのちの授業というような、各教科の特性からアプローチする『いのちの授業』は、初の試みである。
T:Stand Up Please。Good mornig! 朝の挨拶を行う。
T:はい、ではこの間(学級活動の時間)やった、世界がもし40人の学級だったらの感想を読んでもらったと思いますが、今日は、英語の授業で世界と自分について考えてみたいと思います。よろしいでしょうか。自分の考えをどんどん持ってください。
はいでは、前やってもらいましたが、今日も最初これをやってもらいたいと思います。「みんなにとって大事なものは何ですか?」今大事なものは何でしょう。
S:「友達・・・」数名がぽつりぽつりつぶやいた。
T:では、前やったように4人でやってもらいたいと思います。
※黒板に机の配置図を書いて、発表する順番を説明した。
T:今日は英語の授業なので、質問も英語でやってもらいたいと思います。
※
黒板に英文を書きながら
T:What do you
Love? 何が大切?何が好き?と質問して、次の人が、I Love ・・・と答えます。で、質もした人は、相槌ということで、Oh! You Love ・・・という風に繰り返して、30秒間に何回も聞いてください。英語で分かるときは、英語で言って、英語で分からないときは日本語でいいです。I Love こころ.はい、30秒過ぎたら、質問する人を変えます。終わったら、グループの中で分かち合いをしますが、今度ね、彼は好きです。彼女は好きですって言うので、何と言えばいい?彼はというときは、Heだし、彼女だったらSheですね。はい、じゃあ机あわせてください。
S:机をグループごとに向かい合わせる。(4人グループ)
T:はい、じゃあやってみまーす。
S:それぞれ、2人ペアになって、質問を英語でしあう。
Y:I Love Money.
M:I Love Family.
・
・・・・
T:はい、じゃあ順番に分かち合いしてください。
S:グループ内で、自分が質問した相手の大切なものを、英語で説明する活動に入る。
He Loves Money. She Loves Family
T:終わったところは、机をもどしてください。
だいたい、ここまで、5分くらいで活動ができている。
T:一人一人に聞いていきます。
教師が、窓側の列から、一人一人に英語で質問して、一人一人の答えを聞いていく。とくに書き留めたりはしない。
生徒が答えたもの、お金、友達、消しゴム、映画、家族、サッカー、命、兄弟・・・中でも、お金や家族が多い。
T:一通り聞いたところで、今日はね、このへんのところを学んでもらいます。
ある、外人の写真をコピーした紙を掲げる
T:この人知っていますか?
S:ジョン・レノン(生徒のうち、3〜4名は知っている)
T:どんな人ですか?はいRくん、どんな人だ?
R:歌手
T:歌手。何のグループの人でしょうね。
R:ビートルズ
T:うん、ビートルズです。ビートルズの曲なんか知っている人?
女子S:イエスタデイ
T:イエスタデイ。後は?はい、この人について学びたいと思います。彼の奥さん分かる人?日本人なんですけどね。
S:生徒反応できず。
T:はい、オノヨーコさんという人です。彼の息子は、ショーンという人で、広告に載っていました。広告です。これは。
広告を掲げてみせる。少々小さくて、文字まではよみとれないのが残念な気がした。拡大コピーをしたかった。
T:この広告の中にいろいろなことが書いているんですけども、小さすぎるんですけども、ここです。(指でさしながら)ジョンは、ショーンにテレビで銃で撃ち合っているところは見せません。とか、ジョン・レノンは、父親であることを何よりも大切にしていましたとか書いてます。今、皆さんに、大切なものを聞きましたが、彼が言っています、世界で一番大切なものは○○。ハイ、何だと思いますか。グループでちょっと考えてください。どうぞ!
S:グループでぼそぼそ考える。あまり、ピンとこないようだ。
T:はい、Nさんどうぞ。
数分してグループの一人に答えてもらう
T:○○くん
S:Family
T:○○さん
S:Music
※家族と音楽の2つの答えだけだった
T:彼はね、何を大切にすると考えたかというと、家族。家族を大切にするとここに載せています。彼は、家族を大切にすると言っているんですけども、有名な音楽家なのですけれども、子どもが生まれて5年間は音楽活動を一切やめて、こう言っています。
※ここで黒板に“Househasband”と書いた
T:ハウスハズバンド。何だと思う?ハウスは?ハズバンドは?
S:数名が「家」「夫」と答える
T:うん。今で言うと主夫。そのくらい家族を大事にしていました。皆さんに質問します。今世界は、家族を大切に守れるほど、今幸せでしょうか?幸せだと思う人?
S:挙手0人
T:不幸せだと思う人
S:ほとんど全員が挙手。
T:何故でしょう?何か言える人いる?
S:生徒反応できない
T:じゃあ、周りの人と相談して
30秒後
T:じゃあ、Kくんその辺ではどうでしたか?
S:戦争があるから
T:Yくんは
Y:戦争とか、ご飯を食べられない人がいるから
T:Nさんは?
N:お金がないとか、仕事がないとか
T:仕事がないとか。じゃあ、前回も学びましたが、世界の様子をユニセフのビデオを通して学んでもらいたいと思います。テレビが見えるところに移動してください。
S:移動
およそ10分のユニセフが制作したビデオを視聴
T:じゃあ、席に戻ってください。
T:ということで、世界にはいろんな人たちがいます。世界にはまだ戦争が起こっていますが、ジョンの話に戻ります。アメリカで何年か前、同時多発テロがあったとき、アメリカ全土で歌われた歌があります。『Imagine』という歌です。
※黒板に書く
T:その歌を聴いてみたいと思います。
歌詞が英語で書いてあるプリントを配布する。
T:まだ習っていない単語がいっぱいあると思うのですが、せっかくなのでリピートしたいと思います。はい、そのまま真似してみてください。Repeat me
教師が1センテンスごと発音して、生徒がそれを同じように声を出して真似ていく。
T:ということで、アメリカ全土で歌われたのですが、今日は、皆さんに伝えたいとスペシャルゲストが来ています。どうぞ。
※
教室に、ジョン・レノンの格好をした、同僚教師が現れ、Imagineを歌う
T:ジョンがよみがえってきてくれました。プリントの歌詞をみながら聞いてください。
※
ジョン役の教師が歌う。終了。拍手を受け退室。
T:はい、ということでジョン・レノンは亡くなった後だったんですけども、アメリカ全土にこの曲を通して伝えたいことがあったそうです。はい、では、なんでこのImagineだったのかを考えてみたいと思います。日本語訳のプリントを渡しますので、それを見て考えてみましょう。
※
日本語訳のプリントを配布
T:はい、訳、1分間で黙読してみてください。どうぞ。
S:黙読
T:はい、読み終えた人は、Imagineという隣に( )があると思います。この歌詞を読み終えたときに、あなたはImagineという歌で何を伝えたいか、日本題名、タイトルをつけてみてください。ぱっと発想でいいです。
S:一人一人考える。
T:作曲家になったつもりで。
T:えー。Mさん。
M:平和なために
T:平和なために。Hさん。
H:世界では
T:Yさん
Y:みんな同じ人間。
T:みんな同じ人間。Kくん
K:もしも
T:もしも。Uさん
U:想像
T:想像。他に書いてくれた人いますか?
※オーム返しに言うのが、授業者の特徴かもしれないが、やや生徒の答えの受けが軽い感じは否めない。
S:挙手なし
T:はい、では1番最初にみなさん、大切なものを答えてもらいましたが、今日1時間授業を受けて、今現在あなたが考える大切なものを書いてみてください。自分の感じたこと。
S:プリント記入
※
BGMにImagineを流しながら
T:発表してもらいます。Rくん
R:周りにいる家族や仲間です。Kくん
K:平和
・
・・・・・・
N:家族や友達など、わたしが大切だと思ったことは全部大切です。
M:家族も大切だけど、平和な人生を願う気持ちも大切です。
※NやMは、後のプリントの感想でもわかるが、深い感想を書いていた。その他の生徒は、やはり戦争から来るイメージの言葉が多くなった。
T:最初に言ったこととだいぶ変わりました。それでは、授業を通してどのように考えが変わったのか、感想を書いて下さい。
※BGMにもう一度、Imagineを聞きながら
さいごに、グループごと感想を発表して、本時を閉じた。
【研究協議会での話し合い】
本授業の多田教諭は、若い英語教師であるが、今回、いのちの授業日に向けて是非挑戦したいという思いを持って、授業研究会でその授業を公開してくれた。教師が挑戦する授業は、カリキュラム作りがポイントになる。この授業を通して、全教員がカリキュラムを作る上で考えなくてはいけないことなどを学べればという思いで、授業後の研究協議会を進めることにした。
【研協議会での話し合いの様子】
この授業を英語科としてみると、さまざまな問題が浮上するのは目に見えて明らかであった。授業者の願いが強い授業では、得てして、盛りだくさんな内容になったり、一方的な説諭的な授業になったりしがちである。このような点は、本授業においても感じられる点であった。ただ、その前に、どうしても考えなくてはならない大きな問題がある。それは、カリキュラムの作り方である。新しい授業を考えるとき、生徒に何を伝えたいのか明確にし、それをどんな材料(教材)を通して感じさせるのか、どんな手順で伝えようとするのか、これらカリキュラム作りが授業の成否をわける。
まずは、恒例になってきているバズセッションの前に、授業者からこの授業のカリキュラムを作る上で、何を生徒に伝えたかったのかを話してもらった。
授業者は、世界ではいろいろな(不幸な)事が起きていること。日本という平和な社会で生きているからこそ考えてほしい平和の尊さについて伝えたかったと語っている。まさに、その点がカリキュラムを作る上での中心になる点である。
その後、これまでも幾たびか行ってきた、学年集団ごとのバズセッションに入った。(7分程度)ただ、これまでとは違う点は、カリキュラムを作るという観点での@授業者への質問A全体の話し合いで取り上げたい話題Bビデオでもう一度みたい場面を話し合ってもらうように限定したことである。本授業をあくまでも、カリキュラムの作り方というポイントに絞った話に持っていくためである。
《授業者へ質問したいこと》で、出てきた内容は、学級活動、道徳、そして英語(本時)との関連のさせ方で意図したことは?“Imagine”の曲を使った点は、中1年の発達段階にとってどうだろうか?英語科としてどう評価するのか?この授業は、反戦と平和のどちらに重点を置いているのか?というものだった。
本授業は、事前に学級活動と道徳で、“いのち”をテーマにした内容を扱った上での3時間目に位置していた。このような教科を超えての授業は、多田教諭にとっては初めての経験だった。また、本教科の流れや授業のねらいからして、学級活動でも良かったという話になった。1月の『いのちの授業日』では、アプローチをそれぞれの教科で行うという枠が、多田教諭にとっては、授業を作る上で自由さを失わせた形になってしまった。この点は、研究をリードする立場にいる者として、大いなる反省となった。
話し合いを通して気づいたのは、あくまでも、“いのち”の授業のアプローチは、数学、国語、社会・・・という専門教科の題材を工夫して入り、学習のねらいが、その教科にとって合致しないときは、道徳や学級活動として扱っていこうということである。そうすれば、多田教諭の悩みも解消されるに違いない。
ジョン・レノンについて尋ねた際、意外と多くの生徒が知っていたことが話題になった。ただ、ジョン・レノンの人となりや思想まで知っている生徒はやはり少ない。Imagineという曲は、授業者にとって、生徒が比較的考えやすいものとして取り上げたという話だったが、それにしてはImagineを使う場面が少なすぎたのではという話になった。
反戦か平和かという点に対しては、やはり平和に重点を置きたかったということであったが、授業の途中で流したユニセフのビデオは、反戦の色合いが強い感がする。あのビデオが適当だったかどうかは、疑問である。結果的に生徒の感想を読むと、Imagineではなく、ビデオから影響されている考えが多かった。そういう面でも、Imagineをカリキュラムの中で、もっと重要な素材として生かすことができたであろう。
《ビデオでもう一度みたい場目》で出てきたのは、授業者が問う、最初の「あなたにとって大切なもの」と最後の「大切なもの」との変容する場面や生徒の表情だった。残念ながら表情までとらえているビデオはなかったが、あるグループでの発表のシーンを見てみた。特にNとMの発表内容は、深くて驚かされた。正直、あの授業を受けただけで、こんなに考えられたということは不思議だった。何か、経験置みたいなものや、前時の授業がうまく作用しているのだろうとう話になった。
“いのち”という大きな世界での思考は、生徒にとってあまりにも大きすぎて、言葉が軽くなったり、考えが途方に暮れたりしがちである。本授業では、最初、「大切なものは?」と尋ねた際に「MONEY」「SPORTS」「Family」・・・とある程度身近なものを答えていた。これは、生徒の正直な気持ちであろう。あまり、自分とはかけ離れていない世界で、思考は深まっていく。授業では、次にジョン・レノンの写真に写った。ここで、ジョン・レノンという人物を同じ世界に生きる先人ということで、生徒にとって身近な世界にしておくことが必要だったのではないだろうか。残念ながら、本授業では、ジョン・レノンの紹介だけで流れてしまい、次にユニセフのビデオ映像とImagineへと向かっていってしまった。大きな世界でのいきなりの出会いが、生徒にとっては、表現の軽さに結びつかせている点がある。いのちの授業のカリキュラム作りでは、大きな世界に誘う前の小さな考えやすい世界での思考が大切であることがわかる。ただ、中学生は、自分を中心に考えることを苦手とする、そのため第三者(今回の授業では、ジョン・レノン)を通して、客観的に思考していくことがあった方がよかったであろう。また、歌を教材に使うという試みは、メロデイからイメージを膨らませることを得意とする子ども達にとって、大変有効な教材であった。ただ、本時では、あっさり全部の和訳をプリントで配布していたのがもったいなかった。歌の力は、聞いただけでイメージが広がるところである。まずは、曲を聴いてみて、悲しさとかさびしさとかさまざまなイメージを感じ取ったあと、じゃあ、この歌は何について歌っているのか、きっと生徒は知りたくなるであろう。子どもは、このようにイメージから疑問を作っていくのである。その後、英文の中で、繰り返し出てくる単語や気になる単語を、辞書で調べながら、自分たちで和訳していくこともあってよかったであろうという話になった。でも、そういう授業の仕組み方を考えられるのは、T教諭の挑戦的な実践があってからこそである。研究協議会では、仲間の授業から学ぶことの尊さを、全員で感じ取らなくてはならない。
T教諭は、研究会後も、江間山大助教授と授業について、意欲的に語っている姿があった。自分自身の手でカリキュラムを作るという力は、今後プロの教師にとって1番大切なものになってくるであろう。今回の授業実践が、T教諭のライフワークになってくれたら、最高にうれしい。