アメリカ旅行記から見るアメリカの理念と理念無き日本社会

アメリカに研修に行きながら、アメリカの理念を様々な点から、かいま見ることができました。わたしの心に留まった、様々なアメリカの風景とその背景にある理念。やはり、アメリカはすごい国です。そして、我が日本には、理念があるのでしょうか?答えはNOです。理念がない今だからこそ、大人も子どもも将来が見えない。国のあり方は、教育に深く影響することを学びました。

ただ外国の学校の授業を見るとどうしても、「すごい」「真似できない」という感想になりがちです。「どうしてこんな教育をこの国ではできるんだろう。」と考えるとき、その国の制度や慣習、そして思想などを体験によって味わうことが大切なんですね。これを知っていないと、アメリカの教育事情が本当の意味で見えてきません。

 16日間アメリカを歩き回って、このアメリカという国について肌で感じたことを描きます。それを知ったあとに、アメリカの教育についてご覧下さい。

 

《サンフランシスコにて》

927日の夜に出発し、927日の昼にサンフランシスコに到着しました。日付変更線を越えるということはこういうことなのかと改めて実感しました。そこからは、ガイドの林さんとともに、サンフランシスコを見て回りました。林さんは、ただ名所を説明するだけではなく、アメリカの制度や日本の矛盾なども踏まえて説明してくれるのです。質問には、さらに詳しい説明を加えて答えてくれます。「プロだなあ。」と強く感じるガイドさんだった。アメリカで働くということは、このプロ意識を持たなくてはならないのですね。教師としてのプロ意識とは?考えさせられるのです

「サンフランシスコの州都は、ご存知ですか?」と林さん。「サクラメントですよ。」サクラメントというあまり聞きなれない都市である。大体どこのアメリカの州も、州都は田舎においているので、州都を知らない日本人は多い。州都は田舎に置く、それは政治家は商業都市に置かない方がよさそうだというアメリカの理念がこんなところにも感じられるんです。

 バスの車窓から、行き交う自動車をみながら、アメリカの自動車税についての話を聞きました。「アメリカの自動車税は、年々下がっていきます。車検なんてありません。アメリカの道路を見渡すと、35%は、日本車です。車検のないアメリカで、日本車はとっても性能がよい車というお墨付きです。それを作っている日本では、3年に一回高額の車検が待っているのですよ。」

「古い車に乗っているのだから、自動車税は年々安くなるのが当たり前。車検は、心配なら自己の責任でやるべきだ。なんでも強制にするのは、成熟した国家としては恥かしいんです。」自動車好きの林さん。日本への不満にも語気が強まっています。

 サンフランシスコの家々を見ると、2〜3階建てが多い。「アメリカの一般的な住宅は平屋なんです。」と林さん。でも、サンフランシスコは特別な町なんだそうだ。アメリカ人にとってもここは観光地。ヨーロッパの影響も強く受けているんですね。

滞在した時は、テロの事件もあって、アメリカの家々には、大きな星条旗がたれさがっていました。また、車も星条旗をなびかせながら走っていました。ふとみると、虹色(レインボー)の旗が貼られている窓が。「あれは、ゲイ(同性愛者)であることを表しているんです。レインボーは、ゲイなんです。」

サンフランシスコは全米でも最もゲイの多い都市です。スーツケースのベルトなんか、日本人はよくレインボー色をつけますが、誤解されますよ。シドニーオリンピックで日本選手団が入場してきたとき、どっと笑われましたね。レインボーカラーだったからです。デザイナーが無知だったんです。

 井の中の蛙の怖さを感じた1日でした。日本はもう孤島じゃあないんです。世界中と繋がっているのです。

 

 

《サンフランシスコにてA》

 ジーパンで有名なリーバイスは、サンフランシスコが発祥地なんだそうです。ファッションに全然疎い私は、全然わからない。なぜ、ここがジーパンの発祥なのか問うと、ゴールドラッシュで沸いていた頃、丈夫な作業着が欲しくなった。そこで、ホロ馬車のホロを利用して作ったんだそうですね。また、当時はガラガラヘビが多かったので、ヘビが嫌がるインデイゴ(青色)を塗ったんだそうである。ブルージーンズの歴史はこのようなことが原点なんですね。物には歴史あり。そしてアメリカの製品には、ちゃんとした理由づけがあるのが多いのです。

 私たちの滞在に利用したホテルは、サンフランシスコのダウンタウンにありました。ダウンタウンは市街地の中心です。だから、通りをまちがうと怖い思いをするところもあります。しかし、全般的にサンフランシスコは、歩ける町。非常に珍しいくらいに、大都市としては治安が保たれています。9〜10月は、急に暑くなる時期があって、わたしが研修でいったときは、ちょうどそのインデイアンサマーと呼ばれる頃でした。

スーツケースの中で、セーターが私を恋しがっています。

 

《サンフランシスコにてB》

 今日は、ガイドの林さんとともに、サンフランシスコ湾をゴ赤い塗装のゴールデンブリッジで渡ります。テロの事件の時も、このアメリカの象徴の一つである、ゴールデンブリッジ(黄金橋)が狙われるのではと予想されて、厳重な警備がなされたんだそうです。今も、まだ通れないところがあります。

 「ゴールデンゲートブリッジは、“恥かしがり屋の橋”といわれます。」と林さん。「サンフランシスコは海水温が高くて、濃い霧が出るんです。だから橋が見えない。ちょっと霧が切れてくると、赤い顔を覗かせるからなんですよ。」相変わらず、歯切れのいい説明を受けながら橋をバスで通ります。

アメリカのハイウエーは、基本的に無料です。自動車税をとっているのだから、当たり前というのがアメリカ。日本の高速料金は一体なんなんだろう。でも、ゴールデンゲートブリッジは、料金をとっていました。何故か?それは、道路ではなく、橋の維持費にお金がかかるからなんです。しかし、その徴収の仕方がおもしろい。北から南へ向かう路線のみ料金をとるのだ。北線はフリーパス。それでも不平等という人はいません。別に、北に行ったら、いずれ南に帰ってくるのだからいいのです。それよりも片方向の路線からだけ料金をとることで、渋滞の解消をする方が大事なんです。

また、3人以上乗車している車はタダなんですね。これも理にかなう話です。加えて、複数ある路線もおもしろい。3人以上乗車している車だけ通れる車線があるのです。同じフリーウエーでも、この路線は全然違います。空いているし、途中この路線だけバイバスがあり距離が短いのです。渋滞、公害解消、地球環境に協力している人は、利益を得るということなんです。不公平感は、一切ありません。

スピード違反もそうですね。日本は、スピード違反は、○○キロオーバーという数字で取り締まりますが、アメリカは数字ではないのです。同じスピード違反で捕まっても、その時の道路状況(晴れていて空いていた時は罰金がやすい。)によって違うんです。裁判所が判断するんですが、本来、取り締まる理由は、運転が危ないからなのです。だから、スピードを出していても全体的に流れに乗っていればそれでいい。むしろ、蛇行運転など、スムーズな流れをさまたげる方が危ないので厳しく取りしまるんですね。数字で一律に罰則が決められることよりも、その時の道路状況によって罰則が違ってくる方が平等感が強いのです。

アメリカの言う合理的という意味は、私にとってこれまでは、寂しく冷たいものという感覚でした。しかし、実は、温かく、人間的なものなんじゃないだろうかと感じるようになりましたね。反対に、日本人がよく言う“平等”という言葉は、実は“平等の不平等”なのではないかということも。教育現場においてそれは顕著です。「全員に同じように・・・」本当に、これが平等なのでしょうか?

 

《サンフランシスコにてC》

 今日は、ちょっとしたショッピングモールに行ってから、全米5本には入る難関大学“スタンフォード大学”に行きました。

 まずは、アメリカのデパート。客層がはっきり、デパートによってわかれています。日本のように、バーゲンしているからといって、あっちこっちのデパートをかけもちすることは無いのです。駐車場の車でわかりました。デパートのグレードが、人々の階級のグレードと一致するのです。この点こそが、私たちの知っている貧富の差の国アメリカなのでしょう。

 同じ品で、例え値段が高くても、気にせずに買う。ガイドの林さんが使った言葉は、「アメリカ人は、プロセスを買う」という言葉でした。品物だけを購入しに来たのではないというのです。例えば、このデパートでは、入り口に車を止めると、ポーターが出てきて駐車場に車を止めて来てくれるサービスが受けられるとか、買い物までのプロセスを含めて、お金を払う感覚なのです。だから、その品自体の価格は、あまり気にしないようですね。チップの制度もその変から来ているのかもしれません。日本人のお母さん達が、バーゲンセールで闘う姿は、どう映るのでしょう?

 スタンフォード大学に行きました。ノーベル科学賞の受賞者をみても、いかにこの大学出身者が新しい発想を生み出しているのかがわかります。それでは、どのようにこの大学に入学できるのでしょう?

まずは、高校の成績がオールAであること。SAT(共通テスト)600点以上のこと。(平均点500点)。ボランテイアなどでリーダーシップを発揮した生徒であること。高校の推薦状があること。だそうだ。

特に、この国では高校の推薦状は、なかなか書いてもらえません。なぜかというと、高校の先生は、3年契約で勤務審査を受けるんです。推薦に値しない生徒をおくることで、自分自身の評判に影響がでるのです。だから、推薦状をかくときは、慎重審議するのだ。それでも、書いてもらえる生徒なのだから、大学でも入学を許可できる。日本の高校、大学の推薦制度はどうだろう。要は、推薦しても、されても、誰も責任をとらないということではないだろうか。責任をとらないのだから、バンバン推薦状を発行する。生徒も、推薦に群がる。本来、推薦するということは、誰か個人に責任が発生することのはずなのに。入試の時期に来るたびに、なんとなく胸につかえた日本の推薦制度。なんかその理由がはっきりした思いでした。

 ところで、スタンフォードは、ベンチャー企業のメッカでもあるのです。1日に25件、学生の会社が誕生する、産学共同の先進地でもあります。大学の敷地には、数々の企業が間借りしています。大学教授は、研究のプロジェクトを発表し、各企業がそのプロジェクトに価値があると判断すれば、資金を出資するのです。教授は、その資金を基に、学生達と研究していくのだ。よって、日本のように、学生は、教授の研究にタダ働きでお付き合いすることはありえないのです。教授も、お金を集められない力量の無い教授では、いい研究、いい学生がよってこないのですね。スタンフォードの凄さの一面でしょう。

 また、スタンフォードは、私立大学で授業料が高いんです。そこで、編入は当たり前になっています。教養分野は、比較的安い授業料の大学で受講し、専門分野からスタンフォードで学ぶというように。キャンパスを歩いてみると、学生の年齢も様々です。そもそも、大学を4年で卒業できることはまれであるし、修士課程に進みマスターを取得する人が多いのです。企業は、大学卒業したからといって、すぐに会社で役に立つという考えはもうとうありません。あるのは、IT関連の企業だけですね。だからといって、日本のように、新規採用者向けに研修のプログラムを作ることもありません。研修をさせても、数年後に会社を変える可能性が高いのです。将来、会社を移る人に、お金をだして研修させるなんてことのほうが、もったいないという考えです。よって、大学を卒業したからと言っても、だいたい大きな企業で大きな仕事ができることは無いのです。まずは小さな会社に入って、キャリアを積むのです。数年経ったら、キャリアアップのために、もう一度大学で学ぶ。学んだら、また自分のキャリアを売り込んで、もっといい仕事を見つけるのである。だから、いい大学の大学生は、子連れも多いし、年齢も高いのですね。

キャリアアップするために、大人が学ぶ。学ぶことは、豊かな人生を見つけることと直結しています。

その後、幼・小・中・高と学校の授業をみましたが、どこの学校でも授業での、学びの姿勢は真剣でした。寝ている生徒は、誰もいません。学ぶということは、人生を豊かにするということが、この国の社会全体に行き届いているのではないだろうか。そして、今の日本に欠けているのが、まさにこの点なのではないだろうか。

学ばない大人。将来が見えない子ども。学んでも得をしない社会。

日本の生徒は、よく聞きます。「なんで勉強しねばねな?」

 

この疑問は、アメリカの子どもには無いのです。だってお手本は、周りの大人たちなのですから。

 

《サンフランシスコにてD》

 今日は、アメリカの受益者負担という考えにたくさん出会った。受益者とは誰なのか。誰が利益をとるのがいいのか。アメリカという国は、その点をよく熟知しているようです。

 アメリカの消防署は、民営です。(州によって違うのかもしれないが)救急車の一回の出動が、5万円。よって、健康保険は、細かくわけられているのです。面白い話に、道路で人が倒れていたとき、まず何を聞くかというと、「救急車を呼ぶか?」だそうだ。保険に入っていないと、払えないからですね。要するに、受益者負担の原則なんです。サービスを受けたかったら、日頃からお金を賭けて負担しなさいということのようです。

 サンフランシスコのダウンタウンは、朝になると汚い町だとわかります。そこに、ゴミの収集車がやってきます。ここでは、ゴミの収集車も民間なんです。ゴミを多く持って行ってもらいたい人は、多くのお金を払うし、少なくていい人は、お金を少ししか払わない。ここにあるのも受益者負担の原則。お金を多く出したくない人は、リサイクルの方への関心が高くなるのだそうです。

 また、警察官は、市で雇っている形をとります。だから、税収が高い市のパトカーと、税収の低い市のパトカーは全然違います。レカロのシートのパトカーと、ポンコツのパトカーとの違いです。制服までも全然違うのです。地方分権は、ここにもみてとれるんですね。

ところで、サンフランシスコは坂の多い町で、しばしばカーチェイスなど映画の撮影に使われます。この背景にあるのは、映画の撮影に警察が大変協力的だからということのようです。その理由は、映画の撮影を協力することで多くの寄付が警察にくるからですね。日本では、考えられないことでしょう。驚くことに、警察官を雇うのは、市や映画関係だけでなく、一般の市民も雇える点です。例えば、バーゲンセールをやる店は、警察署内に張り紙を出すんです。「○月○日に非番の警察官、自給○○ドルでやりませんか。」他に運転代行も、警察官がやっていたりしています。

 日本では、おまわりさんといえば、聖職なイメージがあります。だから、雇うなんてタブーなんですね。しかし、聖職者が行うサービスは誰のためのものかというと、国民、市民のためのものでなくてはならないはずです。サービスをしないおまわりさんよりは、雇われてでもサービスをするおまわりさんの方がいいという、アメリカ的な発想がここにあるのです。では、教師はどうなのか?

 公務員のサービスについて、今一度考えなくてはならないのかもしれません。

だって、教員の仕事は、立派なサービスなのです。

 

《サンフランシスコにてE》

 “タバコと肥満は出世しない”

一緒にいった先生で、ヘビースモーカーの方がいました。今や喫煙者はアメリカで生活するのは大変なことです。まず、建物の中で喫煙できる所は、ほとんどありません。レストランだろうと、ホテルだろうとタバコを吸うには、外で吸うしかないのです。(ちなみに、飛行機の機内で吸うと2000ドル、機内のトイレで吸うと3000ドルの罰金ですよ。)道端には、タバコの自動販売機なんてありません。商店で買うには、若く見られると必ずIDカードの提出を求められます。これは、アルコールも同じです。ある時、IDカードを忘れてしまったところ、ビールを店員から取り上げられてしまいました。それじゃあということで、一緒にいった先生がIDを見せて買おうとすると、「お前は、あいつと関連しているから、お前にも売らない。」といわれてしまいました。コンビニでのことです。徹底していますね。タバコとアルコールには。

また、カロリーが高い食事を取る国にしては、太っているサラリーマンは少ないです。みんな運動をよくします。でも、それもこれも、“タバコ吸いと肥満は出世しない”という社会のとらえ方があるのです。要するに、セルフコントロール(自己抑制)できない人間は、マネージメント(仕事)ができるはずがないということなんですね。結果、太っている人は、自営業や主婦が多いです。ルールに関して、適当だとイメージしていたアメリカという国。意外と現実は、想像を超えていました。

  それに対して、いつでもどこでも、誰にでも、タバコやアルコールを提供する日本。本当に法律に関して適当な国は、どっちなのでしょう。意味の無いルールが多すぎるから、大切なルールを見失ってしまうのでしょうか?

  赤信号でも車が来なかったら、右折はOKなんです。それが、アメリカのルールなのです。


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