もうひとつの

1学年だより 14

 

新年明けましておめでとうございます。大雪で、迎えた新年でした。雪を見ると、ちょっとうんざりというのが本当のところですね。「おめでとうございます!」と、郵便配達のバイトの高校生が、元旦に我が家に年賀状を届けてくれました。見ると、M中の教え子です。「野球部の部費を稼いでいます」と言って、元気に雪降る中を自転車で向かって行きました。後には、彼と自転車の足跡が残ります。

「雪に負けずにがんばれ!」なんだか、お正月から元気をもらいました。

100回たたくと開く扉

 

高校生の教え子が届けてくれた年賀状は、今年はいつもより少ないようでした。今年は、学級担任を持っていないということもあるのでしょう。一枚一枚目を通してみます。友人の家族の元気そうな顔。なつかしい名前。年賀状は、1年に1度、昔出会った人々との出会いの場でもあるのですね。“また会いましょう”とう、一言のメッセージの裏には、“まず無理だろうなあ”という気持ちも込められているように感じます。

また、この職業をしていると、昔の教え子からの年賀状に、その子の卒業してからの道のりを感じたりしますね。

『先生、昨年はわたしにとって、苦しいことが多い1年でした。今年は、その分きっといいことがあると信じています』と、書いてきた教え子のCさん。

 『先生、子どもは、もうこんなに大きくなりました。』と、幸せそうな家族の写真に添えられたメッセージと教え子のYさんの笑顔。

『教育実習の時に、先生のプリントには勇気をもらいました。』と、報告してくれた教え子のMさん。

 その一枚一枚に、わたしの知らない時間の間に、重ねてきた頑張りや、つかみとった幸せの片鱗をみせてもらいました。

年賀状の束にまぎれて、ちょっと変わった絵葉書があります。

100回の扉の話し、今も忘れません。わたしも、とうとう100回ノックしたのかもしれません。』

そんな、一枚の絵葉書。外国の雪山の美しい写真です。

 

以前の教え子の生徒の中に、見た目は細くて小さな女子生徒がいました。けれど、体の小ささとは裏腹に、心肺能力は優れ、クロスカントリースキーでは、東北、全国大会と大活躍の生徒でした。

その生徒が、なかなかタイムが伸びずに悩んでいた時に、こんな話しをしたことが遠い昔にあったのです。

それは、100回たたくと開く扉です。

“あなたの夢の扉があったとして、もし、その扉が100回たたくと開くとすれば、がんばって100回たたくでしょう。一体誰が、20回ほどたたいてあきらめるでしょう。みんな、必死に100回たたきつづけるよね。

 多分、何回たたけば、その扉があくのか、それがわからないから人は辛くなるのです。もしかしたら、今が90回目かもしれない。いや、99回目かもしれない。”

そんな話しをしたことを思い出しました。

 

前の号でもお話しましたが、夢を語ることは、いたってたやすいことです。

でも、どれくらいの人が、その扉をたたきつづけることができたことでしょう。多くの人は、20回や30回程度で、その扉を開けることはできないと思い断念するのです。

わたしは、そんな人を、努力したなんて認めたくはありません。本当に努力するということは、きっと誰も知らないところでも、懸命にたたきつづけることを言うのです。『やり続けることこそが天才だ』と誰かがいっていましたが、わたしも同感です。少しばかりの困難で、妥協する程度なら、始めから夢の扉なんてたたく必要はないのです。

これは、スポーツだけの問題では無いと考えます。学習でも、いや、生き方それ自体にも言えることです。不可能なんて扉は無いのです。問題は、それを「できる!」と信じ、がんばり続けられるかどうかなのです。

 

 寒い朝や夜に、部活の練習に行こうと車の除雪をしていると、隣のおじいさんから、

「いつも、大変だなー。」なんて言われます。

 でも、葉書を読んで、自分は、こんな風に、夢の扉をたたきつづけているのだということを思い出しましたよ。

毎年、部活の生徒には、チームの目標を語り、その扉をいっしょにたたいています。

 途中、嫌になったり、苦しかったりもします。でも、もし今、99回目だったらと考えると、足取りは、不思議に軽くなるのです。

 

 葉書をくれた少女は、曽根田千鶴といいます。高校でもスキーを続け、その後、自衛隊に入隊してスキーを続けました。

 たたきつづけた彼女の扉は、トリノオリンピックという夢の扉でした。ここまで来るのに、どのくらい辛いことを乗り越えてきたのでしょう。きっとこの扉は、100回どころか、1000回も10000回もたたかなくては、あかない扉だったに違いないのです。

 

 人は、目に見えなかったり、今やっていることが信じられなかったり、ゴールが本当に来るのか不安だったりするときが一番辛いものです。そんな中でも、その道を信じ、やり続けることで、きっと開かない扉はないのですね。

 プロ野球に入団した教え子や、オリンピック選手となった教え子だけではありません。保育士になるんだと小学校から言いつづけて今、短大で学んでいる教え子。自営業の店を大きくするんだと行って、今、住み込みで働きながら調理師学校に通っている教え子。みんな、みんな、扉の色や形は違うだけで、一生懸命たたきつづけているんです。

 お正月から、そんな教え子の様子を感じて、なんだかがんばれそうな気がしました。

 

雪の中を走っていった、バイトで頑張る教え子の足跡の上を、わたしも負けじと車を走らせます。

 

ご意見・ご感想をお願いします。

 

 

 

 

 


戻る