社会科(ハンバーガー店を出そう)
平成16年10月5日実施
授業者 S・H 教諭
文責 高橋 晋作
S教諭の授業は、『世界で一番受けたい授業』藤原さんの追試の形で行われた。
【授業の様子】
T:社会科ね、政治分野が終わって今日から、経済分野に入ります。経済って言ってね、頭に何浮かぶの?
S:かね、株、貿易、貿易摩擦、経済水域・・・
意外とたくさんでてきた。
T:かねって言ったけど、お金は世の中をぐるぐる回ります。ま、それが経済の基本なんだが、その基本に入る前にゲームをしていきたいと思います。今日は、マックの店長になってもらいます。今日はあるところに店を開いてもらいます。店長になって、新しい店を開くんだが、難しいこと言うぞ、会社の目的って何だと思う。
S:もうけること
T:お、そうだ。難しい言葉で言うと利潤の追求って言うんだが、どういうところに店開きたい。30秒で、隣近所と相談して。
机の前後左右と考えを出し合う
T:OK。はいどうぞ、Aくん
授業者は、生徒の答えを板書しながら聞いていく。
A:人が沢山いるところ
B:昼の人口が多い
T:ちょっと待って、昼の人口が多いことを何ていうか知ってる?
S:昼間人口
T:それでは、夜の人口は?
S:夜間人口
ここで、今後店を開く場所を考える際に重要な点の、昼間人口について、何気なく押さえ
ている。
T:話もどって、他には?
C:人通りの多い場所
ここで、いつも学校を休みがちなDが挙手をする。それを見た教師は、他の生徒を指名し
ていたのを取り消して、Jの傍らに行って聞いてみた。
J:ライバル店が無いこと。
S:ほ〜
T:ライバル店が無い。いいこと言うな〜。
以後、普段ならうつ伏せしているJは、本授業の最後まで学びに参加することになる。教
師から認められ、仲間から認められたことが、いかにJにとって大きなことだったかがわ
かる。
D:学校の近く、高校の前など。
E:若者が多い。
F:交通の便がいい。
T:あといいかな。結構出たね。それではね、これから地図をわたします。ただし条件があ
ります。この地図の中で、どこ(出店する場所)に出してもいいだが、これ、ここらへん(駅周辺に○をつけてある)には出店することはできません。これな、どうしてかっていうと、どう考えても店開くんだったら駅の前が一番いいだよ。実際に店開くとしたら、ここらへんが(○で囲んだ地域)が一番いいだよ。それ以外で、店を出すとしたらどこがいいか、考えてもらう。
地図を配布
T:はい、作業に入る前に質問ありませんか?
K:どこでもいいんですよね。
T:どこでもいいです。地図の上なら。
L:ひとつだけですか?
T:ひとつだけです。皆さんが開く店は、1店舗です。私が見回っているときにわかりやすいように、赤ペンで○書いて。
それでは、まずひとりで考えて3分。
生徒個人ごとに、考え始める。
T:選んだ人は、下の(プリントに欄がある)理由というところに、理由を書いてくれるといいな。
教師、教室全体を回りながら、悩んでいる子に支援をする。
T:書き終わった人は、次に班で話し合いをするから、自分の考えを言えるようにして。
S:時間が経つにつれ、隣近所と話し合い出す。
T:はい、やめて、これから班で話し合ってもらいますが、実は、マクドナルドは実際にこの地図の中で出店しているんです。ものすごい調査をして、ここだという場所を探したんです。実は、ものすごい調査をして決めたマックの考えと同じ考えの人がこの中にいるんです。
A:おれだ。
T:グループで話し合って、出店場所を決めてもらいます。ここで大切なのは、答えをひとつにしなくてもいいです。どうしても、自分の考えを譲れない人は、それでいいです。グループで話し合いの後、黒板の地図の上に磁石を置いてください。グループで複数でた場合は、もうひとつ磁石を置いてください。(磁石には班の名前が書いてある)では、10分間でどうぞ、始め。
グループでひとつにまとめないというのは、これまでの本校の授業研でよく出てきた点である。グループ討議
の意味は、答えをひとつにまとめることではなく、自分の考え以外の考えと触れることである。そこで、授業
者は、念入りにこの点を説明している。
生徒は机を向かい合わせ、グループ討議に入る。
(1班)
Kは、自分が選んだ場所にかなり自信を持っている。(実は正解なのだが)そこで、やや強引にグループの中
で自分の考えを主張した。Aは、少し違う意見を持っていたが、Kの自信に対抗できなかった。
(2班)
先ほど発表したJのいる班。この班は、団地や学校のある周辺を選んだ。Yは、ここにデパートがあるかどう
か教師に尋ねた。それに対し、教師はデパートではなく住宅地であることを話た。○○工業大学だからこっち
の方がいいとJ。しっかりJも班の話合いに混ざっている。テニスクラブもあるとM。理由を、学校や団地、
テニスクラブがあって、お昼でお腹がすいたときに行けると書いた。
T:それでは、戻ってこっち見て。
机を黒板の向きに戻す。
T:実際にマックがある場所と同じ場所に当てた人は社長だぞ。外れたら平社員。当てた班全員は、取締り役だ。
このような台詞により、生徒達の動機づけをあげ、さらに探究心をくすぐろうとする授業者の意図であろう。
黒板に張られた地図の上には、7つの磁石が載った。(1つの班が、2つ指定した。)
班ごとに、自分たちがそう決めた理由を発表していく活動にうつる。
3班のHは、交差点とガソリンスタンドを理由に、比較的論理的に展開して言った。(実際の場所とは違うが)
6班のIは、高速道路沿いにこだわって説明を繰り広げた。
2班は、話し合った通りに、団地、学校沿いの説明をした。
4班は、2班と同じ地域だが、さらに国道沿いの位置を指定した。
5班は、2班と同じ地域だが、理由は団地だと夜開いている店が少なく、目立つのでという説明。
T:質問がないようなので、それでは、もう一度再検討してもらいます。実際の場所を当てたら社長だぞ。ではスタート。
一通り、発表のあと、もう一度グループで再検討させる。再び机を向かい合わせてグループ討議。
(2班)
1班の説明を聞いて、なんとなくそちらの方が正しいように感じているのだが、自分たちの意見を決定的に変
えるまでの意見が班の中で出なかった。
少しずつ磁石の位置を変える班が出る。
T:机を前に戻して。さあ、他の班のおかしいところを指摘しよう。はい、Mくん
今度は、他の理由付けとしている論を、逆に打ち破ろうとする活動に向かわせた。
M:はい、4班のは、駅から遠いし、1班のは道が複雑。
T:1班のは道が複雑すぎるといったんだね。他にどう?ばんばん言っていいよ。
生徒の言ったことを明確に繰り返しながら。
B:1班のは歩いても来れるし、車でも来れる。
他に意見を聞くが、やや停滞気味
T:あのな、一般企業だったら大変な問題だぞ。会社の命運がかかっていること。もう一度班に戻って相談。
再び、グループ討議に戻す。
グループ討議の最中に、授業者がヒントを出す。
T:昼も夜も一通りは多いほうがいいのか?
S:いい。
Y:あ、そうか。駅は確かに多いよね。だとすると1班だ。
再び机を戻して、先の他の論を打ち破る話を求める
Y:団地は人口は多いけど、昼は少ない。
T:何で?
Y:昼は仕事に出ているから。
T:ほ、ほーなるほど。
M:昼は人口が少ないと言ったけど、主婦はいるし、学校はあるし、テニスクラブもあるし。あと、団地に100人いたとしたら、だいたい20人食べに行くとして、みんな同じ人が行くのではないから、毎日毎日違う人が変わるわけだから。
T:今言ってくれたことわかる?20という数字が妥当かどうかわからないけど、ま、入れ替わり立ち代り多くの人が行くんじゃないのということ。
I:団地の人は食べないと思います。
T:それは個人的な考え方だね。
N:団地の人は同じ人がいくじゃないですか。でも国道沿いだったら毎日違う人が行くことになるじゃないですか。毎日同じ人は食べるわけじゃないから、毎日違う人が来る国道沿いの方がいい。
T:どう今の面白い意見だったけど。いい。団地だったら毎日同じ人がくる。でも国道沿いだったら違う人が来る。その方がいいだろうという考え。
K:さっきMくんが100人のうち20人来たらといっていたけど、それなら人口が多いところで、1000人通行しているところなら200人来るわけだから、人口が多い方がいい。
T:人口が多いというのは、通行人が多い方ということだね。じゃあ、ここで、ちょっとデータを教えましょう。今100人マックの前を通るとします。何人マックの店に入るでしょう。これ統計をきちんととってるの。
生徒一人ひとりに聞いていく
S:一人。20人。50人。35人。3人。
T:30人入るということはどういうことだかわかる?3食に1回はマックを食べるということだぞ。
な、そんなにマック食べないだろ。ということはどういうことだか、統計上、100人通ったら、3人ということ。
ちょっと驚きのざわめき
T:だから人通りの多いところの方がいいでしょ。では、時間もなくなってきたから正解を教えましょう。
授業者は、実際にマックが建てた場所から遠いところから、その場所の不利な状況を説明しながら、実際にマックが建てた場所を教えていった。
ここは立体交差の下、入りにくいの。
高速道路の出口は、まだスピードが緩んでいなくて入れない。
団地はやっぱり昼間人口の問題。
実際に出した場所は、信号があるね。信号があると、看板をみて入ることも計算に入れています。
実際にマックが建てた場所を正解とし、その後、実際に近所にあるマクドナルドの入店者数を教え、売り上げを計算させてこの授業を終えた。
【研究協議会での話し合いの様子】
本授業では、司会役がポイントを絞れていたため、敢えてバズセッションの導入はしなかった。司会役は、
子どもの考えが、他の子どもの考えとのふれあいにより、どのように変容していっているのか、変容せずに
いたのかを、話題のポイントにしようと考えた。
まずは、授業導入で思ったより生徒の出店のポイントが的をついていた点が話題になった。授業者は、他
の2クラスで同様の授業を行ったのだが、そのクラスではほとんど出なかったことに対し、このクラスで
は、多様な考えが出たことを語った。クラスによる雰囲気の差か、積極的に話す生徒の存在などがあった。
また、途中不登校傾向のJが挙手をして、即座に授業者が対応したことが話題になった。その後、Jの
傍で参観していた方からは、本授業でのJの取り組みの様子が述べられ、Jの意見を取り上げたことによって、いかにJが本授業に前向きに取り組むエネルギーを得たかを確認しあった。
次に、グループ討議から全体での発表、さらに戻してグループ討議を3回行った点について、授業者の意図について話が及んでいる。
そして、マクドナルドを実際に出店したポイントを正答とし、最後に正答を当てて終焉したことに対しての話に至った。一つの考えとして、正答を当てることに動機付けを求めること。それに対し、むしろこの授業は、根拠への吟味を重要視しているため、必ずしも正答を出さなくてもいいのではないかとう考え。確かに、正解を見つけることで動機付けは高まっていた点はあったし、それによって、本来の自分や相手の根拠への吟味という意識は薄まったようにも感じた。このことに対しては結論は出なかったが、大変意義深い考え方が出されたと思う。
参観した指導主事からは、授業と活動のねらいは必ずしも一致しないという点の話を頂き、この研究会を閉じた。