3年C組の保護者の皆さんへ 4
進路希望調査を集計しています。高校進学への希望が全員あることがわかりました。ただ、その高校には、そんな学科が無いのにと思わせる記入が見られました。まだまだ、高校のことを理解していない生徒がいます。また、推薦希望が多いのは結構なことですが、推薦されるに値のある行動を普段とっている生徒なのかというと疑問を持つケースも見られます。正直、もう少し、入試について真剣に話し合う必要を強く持ちました。第1回目の実力テストは、本日行ないました。これから、この実力テストの結果を貯めて、高校合格予想データの重要な資料とします。だからこそ、実力テストは、忙しくても、準備してのぞまなくてはなりません。
弱い者と強い者の境界
「30秒前」HIROさんの持つカードが、トーク開始の時間を知らせます。スタジオのマイクに向かって、DJの“獏さん”から簡単なトークの方向性を確認して、いよいよ番組収録のスタートを迎えたのです。
ラジオ番組は今、地域の小さなコミュニテイでも簡単に制作できるようになり、その地域地域で、独自色の強いラジオ番組を放送するようになりました。ミニFM放送というんです。
S市にも今、町を元気にさせようという願いで集まった方々がラジオ番組を制作しています。その名も“FMフラワー”といいます。娘が、スイミングに通っていることもあり、駐車場からスイミングのビルまで娘の送迎をする際、商店街のスピーカーから流れてくる音楽やトークをいつも聞いていました。それが、そのFMフラワーの番組なのです。
昨年より、わたしの行なっている『情報社会の仕組み』という授業の中で、中学生にラジオ番組を実際に制作させたいなあという思いが強くなりました。ラジオを通して、社会を見たり、自分達のメッセージを発信する。そんな中で、S市に生きる自分達についても振りかえさせたい。そこで、思い切って、FMフラワーにメールを送ったのは、1月頃のことでした。しばらくして、「是非、その企画に協力したい。」という、返信メールが届いたのです。
どんな方が、どんな風にラジオ放送を行っているのか、全く知らないままに、スタッフの方々との話し合いの機会を持ちました。「学校の垣根を越えてようこそいらっしゃいました。」という温かい言葉を頂き、そして、「先生、是非、先生自身ラジオ番組にでてください。」とも言われてしまったんですね。そういうことで、ラジオ番組のマイクの前に座ることになったのです。
番組収録は、夜の8時からです。収録したものをCDに録音し、毎週日曜日から一週間流し続けるのがFMフラワー方式です。
DJ担当の“獏さん”とミキサー担当の“HIRO”さんがスタジオで用意して待っていてくれました。ミキサーの“HIRO”さんとは、初めての出会いです。会った瞬間、HIROさんは、体に障害をもっている人なんだとわかりました。2人きりになる時間があり、思い切ってHIROさんに質問します。「ミキサーの仕事どのくらいしているのですか?」「だいたいはんとしですかね。」たどたどしい言葉の中にも、一生懸命答えようとする誠実さがうかがえます。
でもこの時、正直言って心の中で、ミキサーなんて機会操作できるのか?と疑ってしまう自分がいました。
そして、番組開始!
トーク30秒前というカードを見せながら、ヘッドフォン片手のHIROさんがいます。
「HIROが一番時間にうるせいんだよな。」と笑いながら獏さんが言いました。曲とトークのつなぎ目など、実に手際のよい仕事振りです。
説明が遅くなりましたが、FMフラワーという番組スタッフは、みんなボランテイアです。わずかな募金などの資金により番組を作っています。だからみんな、仕事を別に持っているし、手弁当で集まります。もちろんHIROさんだってそうです。番組が無事収録されて、獏さんに、「この後、番組放送までどんな段取りになるんですか?」と聞くと、「ん。HIROが自分の時間を見つけて、CDに音を入れて、日曜日から放送するの。」と教えてくれました。なんだか、わたしの勝手な話のために、今日出会ったばかりのHIROさんが、自分の知らないところで、仕事してくれているのが、申し訳なく思いました。「無事終わりました。ありがとう。」って言ったら、HIROさんは、満面の笑みで拍手してくれました。初心者のわたしへの、温かい心のこもった拍手でした。機械操作できるかどうかなんて心配した自分自身の無礼さに、恥ずかしくなるのです。
先日、学級活動では、グループごとに新聞記事の活字を自由にはさみで切りながら、ひとつのお話を作るちょっとしたレクリエーションを行ないました。完成した話をグループごと発表し終わった後、この活動の本当の意味を語ります。
「とても単純で小さな活動でしたが、その活動の最中には3つの立場の人が出てきました。ひとつは、「おめやれ!おめ黙れ!」と一方的な攻撃の言葉を吐く人間。もう一つは、その言葉通りに静かに言うなりになる人間。そして、その両者に全然関係しない冷たい傍観者の立場をとる人。3Cには、今こんな3つの立場の人間がいることを肌で感じて欲しいのです。」
「なぜ、人間には立場の強い者と立場の弱い者がでてしまうのだろう。強いとは、なんだろう?」最後にそんなことを、投げかけました。
このクラスには、攻撃型の人間と消極的型の人間しかまだ登場していないようです。自分の考えをはっきり伝えるのが攻撃型だとしたら、相手の考えを聞いてばかりいるのが消極的型。残念なことに相手の考えや気持ちを考えながら自分の考えを言う人間(アサーション型)がいないのです。
強い者が、大きな声で弱い立場の者をけなす。そんな姿が日常にはあります。学校というところは、時々こんなアンバランスな世界を生み出すのです。
実際の社会にある強い弱いというものさしは全然違うでしょう。多分、学校で強いと呼ばれる人間は、社会に出ると非常に寂しく哀しい人間の部類になるのでしょう。
もし、HIROさんが学校にいたら・・・と思いました。彼は、多分教室では、弱い立場の人間になるのでしょう。攻撃型の人間は、彼を差別したり、バカにしたりするかもしれません。でも、現実社会の中では、自分の力を精一杯発揮しようとしているHIROさんは、強い人です。自分の時間を見つけて、夜遅くまで番組作りに参加したり、初対面の人へ思いやりある対応をしてくれるのです。全く、障害なんて感じさせません。逆に、彼の姿から、自分ってこれでいいのか?なんて反省させられるのです。こんな強い人間はいない。
この教室には、野球帽や教科書を隠す。顔写真にいたずらするなどアンバランスな行為が平然とあります。被害に逢うのは、必ずおとなしい人ばかりです。本当に強い者と弱い者との境界は、何なのか。3Cの子ども達には教え続けなくてはなりません。
本物の強い人間は、見た目ではわからないものです。何かを貫く姿は、人には見えにくいものですから。
HIROさんが編集してくれた30分番組“街角フリートーク”は、今週いっぱい商店街に流れます。
通行人の誰もが聞き流しているラジオのBGMの陰には、日々、精一杯のまごころで番組作りをしている、本当の強い人間がいたという話です。
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