3年C組の保護者の皆さんへ 23
教室の黒板には、『卒業までのこり20日』という、日めくりカレンダーが飾られました。義務教育の9年間も、残りあと少しです。今日は、3時間目に、卒業文集書きを、6時間目には、公立高校一般受験の入学願書書きを行いました。
もう進路が決定した人は、どんな生活を送っているのでしょう。授業によっては、一生懸命参加したり、そうでなかったり・・・。合格は、自分の力だけで獲得したという考えは、傲慢なものです。夜、学校の近くのスーパーにでも買い物きた際には、M中を眺めてみてください。M中の職員室の明かりは、夜遅くまで、こうこうとついているのです。影の支えがあって、自分の望みが叶っているという事実を理解させるには、家庭での話も必要です。
今日の朝の清掃、教室の床を、全て担任が拭きました・・・・。
最後の最後は
みなさんは、ミレーという画家を知っていますか?「落ち葉拾い」や「晩鐘」などの作品で有名な画家です。このミレーの不遇時代のことです。
ミレーとその家族は、貧しさのため、飢えと寒さに震えていました。
そんな時、友人の画家ルソーが訪ねてきて、ミレーの作品を二百フランで買いたい男がいるのだが、売ってくれないか?と言うのです。
もちろん、買い手がいるというのはうそで、ルソーが友の苦しい生活をみかね、また、友人に心苦しい思いをさせてはならないと、「ある男」が買ったことにして、実は、ルソー自身が買おうとしたのでした。
後に、画家として成功したミレーは、この事実を知り、感激の涙を流したということです。偉大な画家でも、自分ひとりの力では、とうてい成し遂げることはできなかったということです。
あるラジオの話題から
埼玉県のある中学校の、ある3年生のクラスです。
推薦入試を受けるA子さんにとって、いよいよ明日が受験となりました。不吉な知らせは、この時からあったのでしょうか、美術の時間に内ズックにたっぷりと絵の具を落としてしまいました。ズックの紐も、切れかかっていましたので、どうせ家に帰って、明日の受験のために整えようと思っていた矢先です。授業中であったのですが、担任の先生が入室してきて、A子さんをいつもかわいがっていた新潟のおじいちゃんが亡くなったという連絡をしました。
気もそぞろに、飛んで家に帰って、両親といっしょに新潟に向かったのです。
その夜、A子さんから担任の先生に電話が来ました。新潟にいるA子さんは、少々パニックになっているようです。
「先生、わたし、明日の受験にまっすぐ新潟から向かおうと思っていたのですが、内ズックを忘れてしまいました。どうしたらいいのでしょう・・・・。」
おじいちゃんの不幸とも重なり、A子さんは、もうどうしたらよいのか、電話口には動揺の声が響きます。
「ズックぐらい忘れても大丈夫だよ。どうしてもというのなら、明日の朝、受験開始まで届けるから」と、担任の先生は励まします。
「先生、私のズック、汚れたままなのです。紐も切れかかっているし、一生に一度の受験なのに・・・。」
「ズックがなくても、受験校の先生に言えばスリッパ借りれるから。」と、先生は、A子さんを落ち着けようと一生懸命でした。
次の日。
できる限り、平静に受験させてあげようと、先生は、朝、真っ先に教室に向かいました。
すると、教室のストーブの前に、一足の真っ白な内ズックが置かれているのです。
「これ、どうしたの?」担任の先生は、近くにいた、女子生徒に尋ねます。
「先生、A子ちゃん今日、入試でしょ。昨日、帰る時、ズックが残っていたから、Yちゃんと右、左分担して、家で洗ってきてあげたの。今、ズック乾かしてるところ」
「ズックの紐は?」と、先生。
「紐はね、もう私立校で合格したRちゃんが、貸してあげるっていっていたから、借りたよ。縁起いいでしょ。」
その後、先生は、急いで真っ白なズックを抱えて、高校を向かいました。
A子さんの受験の影には、こんな友人たちの心が重なり合っていたのです。
中学3年のこの時期になると、わたしは、すぐAくんとBくんを思い出します。
AくんとBくんは、親友ですが、違う高校を受験しました。同じ日に合格発表があり、Aくんは合格しましたが、Bくんは落ちました。その夜、Aくんは、Bくんに電話をかけようとしてためらいました。勇気がでなかったのです。
そうこうするうちに、Bくんから電話がかかってきたのです。
「Aくん、合格おめでとう。俺の方は、だめだったよ。」と・・・。
それに対して、Aくんはどう答えたかというと、こう答えたのです。
「ごめん。おれ、電話しようとしてできなかった。勇気がなかったんだ。ごめんな。次の高校、がんばれよ。」と。
こんなやりとりがあったことを、Aくんのお母さんから聞いた私は、深く感動しました。
Bくんも偉いが、Aくんも偉い。二人の友情は、今でも続いています。
3Cの教室の黒板の上にある、言葉のシャワー。そのひとつに、こんなフレーズがあります。
本当の宝物ってのは、もらったものの中にはないんだな。
本当の宝物ってのは、あげたものの中にあるんだな。
作:糸山泰造
誰もが、最後の最後は、本当の宝物を見つけて、巣立っていくと信じています。
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