3年C組の保護者の皆さんへ 17
朝も昼も放課後も、時間を延長しての合唱練習が始まりました。朝なんか、来てるかなあと心配していくと、大方の人は集まって練習しています。後は、ぽつぽつと遅れて参加します。
男子にも、女子にも、「しっかりやろう。」と声を出してくれる人がいることは、ありがたいことです。こんな人がいるからこそ、全員が「やらなくちゃならないんだ」と思えるようになるのです。
指揮者のYくんも、Kくんも、一昨日は遅くまで教室に残り練習して帰りました。
歌の命
隣のT先生が、また結婚式に呼ばれたと言っています。T先生くらいの若さだと、友人の結婚式が多いようです。
わたしも、今月2件ありました。わたしの方の年齢では、さすがに友人ではありませんね。教え子から招待される結婚式です。1件は、北ブロック大会と重なり、残念ながら出席できずビデオレターを送りました。中学時代だけでも多くの教師と出会っていたはずなのに、わざわざわたしなんかを招待してくれるんです。ありがたい気持ちでいっぱいです。
出席した1件の結婚式。招待してくれたのは、今から8年前に中3の担任のクラスにいた女子生徒でした。
『晋作先生!僕たちに歌を作ってくれて、ありがとう。晋作先生にこの歌を贈ります。』
37名の中学生の生徒が声を合わせたメッセージが、カセットテープに録音されて、わたしの家に保存されています。
このメッセージの後、自由曲が流れるんです。
これは、今から8年前の3年A組を担任していたとき、そのK中の合唱コンクールを録音したものなんです。
合唱の前に、生徒がメッセージを言うというのは、この学校のやり方ではありません。勝手に、このクラスの生徒がわたしに内緒で行ったのです。間違えてほしくないのは、決して点数かせぎでの、パフォーマンスではないということです。なぜなら、その数週間前までは、声も出ず、合唱なんてくそくらえ!みたいな雰囲気のクラスだったのですから・・・。
今さら、優勝なんてねらってなんかいないんです。だから、「わたしにだけに贈るなんて言っているんですね。」
合唱コンクールに向かって、がんがん歌っている他の2つのクラスを尻目に、わが3Aは、女子と男子がいつも文句を言い続け、声なんて蚊の鳴き声のようなものでした。その度に、合唱委員である、女子の子が、わたしに泣きながら状況を説明しに来るのです。
音楽の先生も諦め顔です。
でも、合唱委員の女の子は、放課後ひとり残って、大判用紙に大きく課題曲の歌詞を書いたりしているのです。男子なんか、それを見てそ知らぬ顔で帰ります。この子は、ブラスバンド部なんですね。だから、音楽を、他の生徒以上に大切に思っているんです。みんなで大きな声で気持ちよく歌いたいと願っているのでした。
さすがに、わたし考えましたよ。
そして、思いついたんです。どうせ歌う気ないなら、この生徒たちだけの歌を自分で作っちゃえって。
それが次の詩です。
Tomorrow Dream 作詞 高橋 晋作 小さな 暮らしの中で 僕は 何に 迷い悩むのか 大きな 夢にも逢えず 自分らしさを こころで つぶやくだけ 時に 人を 傷つけて 時に 人から 傷つけられて それでも 間違いなく 明日は やって来る |
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流れゆく 雲を見つめて ふと 駆けていった 昨日たちを 思い出した そう 僕らは 3Aで 生きている 雲よ そこに 悩みの 答えをください 明日を 生きる 理由を ください |
曲なんか、「ふーん、ふーん」なんか鼻歌で歌ったものを、音楽の先生に音符におとしてもらいました。
この曲をクラスの子どもたちの前で、一人で歌いましたよ。
生徒も唖然。
「この曲はね、あなた方だけの曲です。だから、この歌の命も、合唱コンクールで終わり。後は、どんな歌にするかどうかは、あなた方しだいです。」とか何とか言ったように思います。あの女の子だけは、真剣に聞いてくれていたことは覚えています。
再び、練習が始まりました。相変わらず、音量は低いですが、これまでよりは、みんな歌ってやろうという意識は起きましたね。作ったわたしへの同情からかもしれません。でも、ようやく歌えるようになりました。
毎日毎日、歌っていきました。なんか、どんどん生徒たちの「俺らだの曲だ!」っていう雰囲気が強くなっていったんです。親たちも、先生が作ってくれたんだからしっかり歌えってバックアップも入りました。
そして、当日を迎えたんです。
あのメッセージの後。ピアノのイントロとともに、この日だけの命の歌が始まります。詩を読んでもらえばわかるように、このクラスのことを表した内容にしてるんですね。なんだか聞いている聴衆も、このクラスのこれまでの様子をイメージしているようです。
歌は感動的でした。あの声の出ないクラスとは思えないほど、素晴らしい歌声でした。
途中までは・・・。
実は、途中からほとんど全員泣き出しちゃったんです。歌いながら・・・。きっと歌いながら、これまでのことを思い出したのでしょう。それを見て、わたしも泣けてきちゃいましたね。歌は後半まで持ちませんでした。
ピアノの演奏とともに、合唱が終わりました。そのとき、満場の聴衆の大変な拍手に包まれました。上手に歌うことではなく、心を歌に込めて歌ったことに、多くの方が感動してくれたようです。
合唱コンクールの結果は、1点差で負けでした。あの女子生徒が、合唱が終わったとき、わたしに「ありがとう」って言ってくれたんです。こっちこそ「ありがとう」って返しました。
雛壇にいる彼女は、あの頃とぜんぜん変わらずに、酒をつぎに来たわたしに、あの「ありがとう」を言ってくれました。
新婦の友人余興は、何するのかなあとえらそうに恩師のテーブルからみていると、当時3Aの子ども達が、あの歌を歌ったのです。
8年ぶりに生き返ったあの歌は、はじめて、途切れることなく最後まで熱唱のうちに終わりました。
作詞家としては、またあの歌に逢えて感無量だったんです。
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