3C組の保護者の皆さんへ 12

 

運動会も終わりました。組の幹部の生徒たちは、夏休み中、学校に何度も集まって話し合いました。あんなに短期間の練習で運動会ができるのも、それら生徒たちのがんばりがあったからです。運動会当日だけでは、見えない部分にも、しっかりスポットをあててやりたいものです。

運動会の赤組の成績は、残念な結果となりました。当日は、わたしの義母の死去と重なり、最後まで見届けることができなかったことは、大変申し訳ない気持ちです。運動会の途中、組の幹部を集めて、通夜のために帰ることを告げました。女子のTさんは、目に涙をためてわたしを送りだしてくれました。Kくんは、「先生、最後に一言言って帰ってや」とリクエストをします。ちょうど、女子の綱引きでしたので、赤組全体に掛け声をかけました。たまたま、そのときは勢いが出て勝ちました。「さすが先生!」と、もちあげてくれる男子の生徒ら。グランドから去る中、遠くの方で、組頭のKくんやYくんが手を振ってくれます。運動会の最中でしたが、わたしの心を思いやってくれる、そんな生徒たちが確かにいました。

運動会の結果は、残念でしたが、わたしにとって、一生忘れることのない、今年の運動会と赤組の幹部たちです。

 

勝ち組と負け組

 

あんなにわたしを寝不足にさせたオリンピック中継も終わり、なんだか今だに、普段の生活が本調子でないのはわたしだけでしょうか。すばらしい日本選手団の金メダルラッシュに沸いた大会でしたが、わたしの中で印象に残ったのは、表彰台に登った金メダリストではない2人の選手たちでした。真ん中で、うれしそうに金メダルを受け取る選手に向かって、両サイドの銀や銅メダルの選手たちが、肩をたたいて、金メダリストを称えてあげる姿でした。本当は、悔しくて仕方がないはずの表彰台の2人の選手。

自分の気持ちを押しとどめて、優勝した一番真ん中の選手に敬意を払う姿にこそ、「すごいなあ」と感心するのです。特に、銀色のメダルを胸にする選手。3人の中でも、最後の試合負けて終わっている選手は、この銀色のメダルを胸にする選手です。

良き敗者がいてこそ、すばらしい勝者が生まれるのですね。

確かに負けてばかりは嫌です。でも、負けた瞬間の態度やその人が発した言葉にこそ、本当の人間としての価値が伺えるのです。

金メダル確実と言われて試合に臨んだ結果、メダルすら取れなかった柔道の 井上康生 選手。彼は、柔道選手団が帰国する日も、アテネにとどまり、他競技を応援しつづけました。野球中継でも、シンクロでも、応援席に彼の姿がありつづけました。

負け惜しみひとつ述べず、日本チームのキャプテンだからと、最後まで応援し続けた 井上 選手。

負けたことを人のせいにする人は多いものです。負けた結果から逃げようとする人は多いはずです。人間の弱さと向き合って、それを乗り越える姿を井上選手を通して見た思いがします。

 

運動会に最後まで、でれなかったわたしは、通夜の途中に、鈴木先生に携帯で結果を教えてもらいました。きっと、保護者の方も残念がった人も多いことでしょう。人間は、敗者にたった時こそ、その人間の価値が問われると思いたいのは、言い過ぎでしょうか

ちょっとしたエピソードですが、実は、みんなが、運動会で燃えているとき、私には、こんなことがありました。

わたしが、ある絵画の作品を取りに、市内にでかけたときでした。というのも、わたしの義父は、画家なのです。時々、喫茶店や飲食店、美術館やプラザなどを借りて、自分の作った絵画や彫刻を並べて、個展を開くような人なのです。                                                  その、作品の1つを取ってくるように頼まれて、市内を歩いていたときのことです。

杖をついて、あたりをきょろきょろしている女性がおりました。
私は、少し時間があったので、勇気を出して話し掛けました。
「どこかお探しですか?」と
○○さんの個展が開かれている場所に行きたいんです」
それなら、わたしも行くところなので、一緒に行きましょう案内しますよ。」
その女性は「肩につかまらせてください」といって、並んで歩くことになりました。目が不自由な女性でした。

「どこから来たんですか?」と、時間をつぶすために、世間話をしながら、個展の開かれている会場までの道のりを歩きました。
「今日は○○さんの個展を見に、電車で1時間かけて来たんです。でも迷ってしまって・・・助かりました」と言ってました。

 ごく普通の会話でしたが、帰り道、ふと考えて、じーんとしてしまいました。
あの女性は目が不自由なのに、わざわざ絵画の個展に足を運んでくれたんだなあ・・・と。

個展を見にくることだけが目的ではなかったのでしょうが、それでも、義父の絵画を見に、不自由な体できてくれたあの方の気持ちが、とても嬉しくて、嬉しくて・・・
 妻を亡くして、気が弱くなっている義父にとっても、気持ちを強くさせるエピソードになることでしょう。

 世の中は、勝ち組とか、負け組とか枠に入れて喜んでいる流行があるようですが、勝つ、負けるとか強い、弱いとかなんかよりも、もっと大切なものがあるんです。

銀メダリスト達に、白い杖の女性に、そしてグランドから去るわたしに手を振ってくれたあなた達に、大切な何かを感じさせもらった、そんな密度の濃い日々が、確かにありました。

 

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