3年C組の保護者の皆さんへ 1
発行によせて
3年C組の保護者の皆様、初めましてこんにちは、わたしは、高橋 晋作と申します。M中に来て3年目になります。わたしのことを紹介させて頂きますと、わたしはM地区生まれではありません。酒田市出身です。でも、教職について、ずっとM地区をわたり歩いてきました。今現在、家は、M中学区にあります。どうぞ、この1年間宜しくお願いします。このたよりは、完全なる保護者向けでもあり、生徒向けのたよりでもあります。3年C組の様子、抱えている問題点などを報告し、担任として思っていることを伝えればいいなあと思っております。また、一方通行のたよりにならないためにも、必ず返信用の空欄を設けております。このたよりを読んで感じた疑問点や日ごろ考えていること、中学生の校外での様子などで困っていることなどが出たときは、どんな小さなことでも構いませんので、この空欄に書いて生徒を通じて届けて下さるようお願い致します。氏名の記名・無記名は問いません。
伝えたいこと
今度の担任は、どんな考えをもっている人なのかということは、生徒のみならず、保護者の皆さんにとっても、大きな関心のひとつでしょう。わたしも、小学生の2人の子どもを持つ親として、おんなじです。「今度の先生も、“いい先生”だといいね。」そんな話しが、食卓を飾るのです。それだけ、人との出会い、教師との出会いというのは、人生においても大きな出会いのひとつになり得るということでしょう。わたし達、教員は肝に銘じなくてはなりません。
わたしは、わずか1年間という付き合いですので、なかなかわたし自身のことを、伝えることは難しいかもしれません。ただ、3Cの子ども達には、人としての“思い”を伝えたい、そう考えているのです。
数年前、東京へ出張に行ったときに遭遇した話です。地下鉄に乗りました。地下鉄はですね、もう座るところが一つもないくらいの、大変なラッシュでした。椅子はもちろん、立っている場所もないほどなんですね。皆さんにも、経験ありますよね?
ある駅でのことです。ひとりのおばあちゃんが乗ってきたんです。見た目で80歳は越えていましたね。両手に大きな荷物を持って電車に入ってきたんです。もちろん、座るところなんてないんですよね。
でも、世の中にはね、優先席(Priority seat)っていうものがるんですね。両手に荷物いっぱいのおばあちゃんは、その席を探したんです。ドアの近くにありました。でも、そこには女子高校生2人が楽しそうに、話しをして座っているんです。両手に荷物いっぱいのおばあちゃんの姿を見ても立とうとはしません。これが、女子高生の彼女達が言う、座る自由っというやつです。
でも、そのおばあちゃんは、2人の前に立って、何ひとつ言いませんでした。1つ2つと駅が過ぎていきます。両手の荷物は、電車の揺れとともに、重さが増していったのでしょう、いくつかの駅を過ぎたときです、とうとうおばあちゃんは、その女子高生にこんな言葉をはいたのです。
「少しでもいいから、座らせてちょうだい」って。さすがの、女子高生もくさい顔をして立ったんです。
わたし、少しほっとしましたよ。
そしたらね、奥の人ごみの間をぬって、小学生らしい少年がやってきたんです。「おばあちゃん、ぼくの席に座ってよ。」って。
話はこれでおしまいです。このたよりをお読みになっている皆さん、一体、このおばあちゃんは、そのあと、どこの席に座ったと思いますか?
一部始終見ていたわたしは、こう考えます。
おばあちゃんは、どこの席にすわることが、幸せなのだろう?って。そして、わたしが出した結論はこうです。
やはり、女子高生が座っていたドアの近くで、出入りの楽そうな場所にある優先席こそが、おあばちゃんの幸せなんだと。
ところがその後、このおばあちゃんがとった行動を目の当たりにして、自分の人間としての未熟さを実感することになるのです。
おばあちゃんはですね、よっこらよっこら人ごみをかきわけて、奥の少年の椅子に腰掛けにいったんですよ。
わたしたちは、自分の見方で物事を考えていることが多いんです。おばあちゃんは、優先席に座るべきなんだとか・・・。でもね、おばあちゃんにとっては、女子高生がいやいやながら立った席に座るより、すすんで空けてくれた席に座るほうが、とっても気持ちよかったに違いないんです。
わたしは、おばあちゃんの気持ちを想像できなかったんです。
わたしがこの1年間、伝えたいのは、この他人を想像する心。
現在の中学生が“こころ”に抱くほとんどが、人間関係のトラブルです。人と人とが、上手に交じることができない。だから、学校にも行きたくない。何もしたくない。時には、死にたくなる。
今日、あなたの隣の人は、どんな表情をしていましたか?
姿・形から、その“こころ”を想像してみてくださいよ。
あのおばあちゃんがわたしに教えてくれたものは、以後、わたしが子ども達に伝える原点となりました。
6つ目の駅で、おばあちゃんは降りました。車内は、相変わらずの人ごみ。奥のほうから降りるのは、大変です。
次の瞬間、入り口にあふれ返っている人たちみんながが、今度は、一度電車から外に出て、おばあちゃんが降りやすいようにしてくれたのです。女子高生も一緒に・・・。
少年のたったひとつの行動で、車内の中に『やさしさ』という風が吹き渡りました。
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