3年A組の保護者の皆さんへ 9
この二日間、生徒同士でカラオケに行き始めているのではとう情報があったり、メールで他校と宿泊しながら遊んでいるのではという話を聞いたり、その度に、終わりの会で話をしました。昨日は、学年集会も開いて、主任の先生から注意の話がありました。今現在の3年生の状況は、平凡な日々に対する不満と有り余る時間の使い方に迷い悩んでいるようです。でも、その一方で、「勉強教えてください」と職員室を訪ねに来る生徒もぽつりぽつり出てきています。放課後、学習室に残って、自主勉強している生徒もでてきました。
「人生には、自分を抑えなくてはならない時期がある。自分の欲望を抑えて辛いことに立ち向かわなくてはならない時期がある。あなた方にとっては、それが今なんだ」と話しました。
10月11月の2ヶ月は、中学三年生にとって、精神的にきつい時なのです。
うるさく言う人
弓道の弓矢をみました。
その人は、左手に弓を持ち、右手には矢を携えて粛々と板の間を進んでいきます。自分のポジションまでの歩数も決まっているんだそうです。両足を広げて的をじっとみつめたまま。かなり長い時間じっとしています。呼吸もしていないように感じます。静かに、静かに糸を引いていきます。動いているのは右手だけで、あとは石のように固まったままです。極度に緊張が走ります。突然、矢は空を切って飛んでいきました。糸がブルーンと鈍い音を立てて緩みます。静かに手を下に下して矢の行く末を見つめています。
「張り詰めた弓はいつかは緩みます。」と解説者。
地区総体、県総体、運動会、音楽コンクール、県駅伝大会。生徒は、これまで数々の的目指して、張り詰めた毎日を過ごしてきました。今はその、緊張が一気に緩んだ状態にあるのです。
休んでいる人の机の中はプリントが一杯。少しくらい、休んでいる人のことをいたわったり、思いやったりして欲しいと呼びかけます。
「自分が楽しいのはいいことです。でも、今悩んでいる人や、困っている人がこのクラスにいるのです。あなた達の思いやりって何なのですか?楽しいことばかり求めているのではいけないのです。人間って、人と人の間に生きる動物なのですから。困っている人をみたらまず、自分ならどうするか考えるべきです。」
うるさく言う人。
うるさく言う人がいます。あーするべきだとか、こーするべきだとか、特に思春期の時は、頭にくることばかりです。昨日は、カラオケやメールのこと、休んでいる人をもっと思いやって欲しいことなどを話しました。特に、ルールを破って、生徒同士でカラオケに行くことをガミガミいいます。
くさい顔をする人。うるせーなーという顔をする人。そうだろう、うるさくて、ちっとも面白くないだろう。それでも、言い続けなくてはならない。その意味ってなんだと思う。
昔、こんな話を聞いたことがあります。人からの又聞きで、正確には覚えていませんが、赤ちゃんが生まれた瞬間に行なう、最初のひと呼吸についてのことです。
赤ちゃんは、お母さんのお腹から出た瞬間、「オギャア」と発生した瞬間、赤ちゃんの肺には外の空気がはじめて入っていく。そして、二呼吸目には、もう一度外に出てゆくということを、これから一生繰り返していくのですが、その話によると、その最初に入ってきた空気のうち、数パーセントが肺の奥に、一生残っているという内容でした。
とっても好きな話です。
人間誰もが、生まれた場所の空気、愛された場所の空気、故郷の空気が肺の中に一生残っているということです。
人間は不完全な動物です。他の動物と違って、長い時間をかけて、ようやく一人前になるんです。生まれた数時間後には草原を駆け回るシマウマと比べたら、いかに人間という動物は未完成なものか、わかるでしょう。もし、食べたり、寝たり、自分の本能のままに行動することが“生きている”ということなら、人間だって、シマウマには負けない。
でも、食ったり、寝たり、自分の欲求のまま行動することは、人間にとって“生きている”ということではないのです。知恵と心を磨くことで、本当の一人前になるのです。
知恵はともかく、心、人それぞれの性格、それは、15歳までで決まりです。
良いものを良いと感じ、自分らしさをしっかり認識する。いわば、本当の自分の原点を決めるのが、今なのです。あの赤ちゃんの空気の話のように、今のあなたの心の動き方、性格は、一生、心の片隅に居座ることになるのです。
だから、
今、挑戦すべき時に逃げてしまったら、一生その人は挑戦することが苦手な人になるでしょう。
今、困難に立ち向かうことを避けたら、一生その人は困難な場面であきらめてしまう人になるのでしょう。
今、自分の欲望を抑えることができなかったら、一生その人は、自分の欲望を抑えることとの戦いに苦労するでしょう。
今、将来の自分を大切にすることができなかったら、一生、その人は、将来のことを考えないでその日暮らしの人生を送るのでしょう。
そして今、
目の前にひざまづいて困っている人に手を差しのべてあげなかったら、あなたは一生、優しさを出す時に勇気が必要な人になるでしょう。
中学三年という時代は、だから大切なのです。
ひとりの人間の一生の生き方、考え方を決めるのです。
わたしの肺の中には、昭和41年のふるさとの空気が、37名の生徒の肺には、平成元年の空気が、保護者の皆さんにも生まれた年の故郷の空気が、しっかり残っているのと同じように、今、現在の子ども達の心のあり方は、その子の生涯に一生残ります。
うるさく言う人がいます。
それは、みんながまっすぐに生きていって欲しいから。
くさい顔されたって、「うるせー」って罵声をあびてだって、うるさく言います。
うるさく言う人はね、本当にあなたを愛しているのです。
今日、数日休んでいた人の机からプリントの束が消えていました。
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