3年A組の保護者の皆さんへ 13
いよいよ今日で、2学期も最終日です。1番長い学期が終わり、3学期の登校日はわずか49日です。人生最初で最後の中学時代もあとわずかです。その短い日々に、受検があり、人生の大きな挑戦が圧縮されているんですね。3者面談は、悲喜こもごもです。今のままの調子でいい人。このままでは、志望校には厳しい人。保育所・幼稚園から小学校、小学校から中学校と、敷かれたレールを歩いてきました。中学校から高等学校、これが人生にとって初めて、自分でレールの無い道を歩み出すスタートなのです。37人、ひとり一人進むべき道の方向が違います。「よーいドン!」で、右に行く者、左に向かう者。後ろに進む者。それが、この49日間で決まります。
スタートの心得
疲れたからだを引きずり、家に帰ると、幼稚園に通う娘がうれしそうに駆け寄ってきます。「幼稚園でもらったんだよ。」と、娘の一言。背中には、真っ赤なランドセル。
もちろん、注文したのは妻ですが、なんだか幼稚園からのプレゼントのように感じているようです。
からだより大きなランドセルを背負い、4月からの小学校での生活を夢見ている様子を見ると、なんだかずっと昔に忘れていた、人生のスタートに立つ喜びみたいなものを思い出さずにはいられないのです。
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有森さんと夕食をともにしました。
有森さんとは、あのバルセロナオリンピックのマラソンで銀、アトランタオリンピックのマラソンで銅メダルをとった有森裕子さんです。
3年前、アメリカのボールダーという都市の、ハンバーグ料理の店でともにしました。
日頃から体調管理に気を配るマラソンランナーですから、肉料理なんて食べるのかなあなんて思っていると、
「わたし、何でも食べるんです。あれもダメ、これもダメではストレスがたまりますよね。その方が、もっと悪いと思うんです。だから、何でも食べますし、何でもおいしいと思うことが大切ですね。」と、にっこり笑顔です。
この、笑顔どこかで見たような感じがします。そう、そう、この笑顔は、あのアトランタオリンピックで、3番目でゴールした直後のあのセリフの時の顔と同じです。
「今回だけは、自分で自分を誉めたいと思います!」
あの言葉に、どれほどの国民が感動したでしょう。
有森さんのことを知らない人もいると思いますので、ちょっとご紹介しましょう。
バルセロナオリンピックの選手選考会では、大いにもめました。これまでは無名選手で、一発好成績を出した有森をだすのか、それまでの実績でニコニコ堂の松野選手を出すのか。世論は、ほとんど松野さんに同情気味でした。でも、結果は、無名の有森さんが選ばれたのです。それから、マスコミや多くの国民のバッシングが始まります。連日、テレビや新聞では、なぜ有森なのかという特集。当時リクルートという会社の社員でもあった有森さん。リクルートという会社の不正のイメージまで背負ってしまったのですね。こんなに追い詰められて、へんな結果だったら、どうなるかわらないというプレッシャー。そして、銀メダル。
やっと、みんなが認めてくれたと思ったら、次は、けがや故障。そして手術。一時は、足をあげることもできないほどの、精神状態にも追い込まれます。それでも、彼女は走ります。そして、アトランタオリンピックに選ばれ、出場。誰もが無理と思った中での銅。
この後に口をついて出たのがあの言葉です。
どこまで聞いたらいいのか、遠慮しながら、尋ねます。
「走ること辞めたいと思ったことないですか?」と。
彼女はしっかり、そしてきっぱり返します。
「辛いですけど、でも何かをはじめることって好きなんです。ワクワクするでしょう。」と。
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さあ、現在の3年A組です。
午後が、まるまる三者面談の4日間が終了しました。
どの生徒も、はらはらどきどきです。
「先生!今日で、人生がきまるんだ。」と、Oくんが言ってきます。
「今日から、毎日5時間勉強する。」と決意の言葉を述べたAさん。
「これまで、本気でなかったから、今日からマジで頑張る。」と決意した多くの生徒諸くん。
スタートは、いつでもどこにでも、ごろごろ転がっています。
スタートに大切なこと。それは、その後の新しい自分についてワクワクすることなのでしょう。
そう、みんな、ランドセルを背負った最初の日と同じです。
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夕食もデザートとなり、いよいよ貴重な時間も大詰めです。もう1度最後にわたしから言いました。
「有森さんはすごいです。あんなに苦しい中でも、多くの人に感動をあげたのですから。スポーツ選手にはかないません。」と。
すると、彼女は、
「高橋先生。違うフィールドで、同じものさしで比べては変だよ。逆に、どんな人でも、勇気をだして目標に向かってスタートする人は、わたしにとってみんな美しいです。」
と言って、またあの笑顔。
あの笑顔は、何回も何回も苦しい中からスタートを繰り返した人だけが出せる笑顔なのかもしれません。
オリンピック選手も、3Aの受験生も、そしてランドセルを背におおはしゃぎのわが子も、スタートはどれも同じで、貴い行為なのです。
みんな目指すところ、最後は、「自分を誉めてあげたい」というあの言葉です。
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約束しよう!
たとえ、自分が他の人より、早く合格したり、進路が決まったりしても、3月の公立高校入試まで、37人全員でがんばろう。A組全員の卒業後の進路が決定したとき、それが本当の卒業の日だと感じよう。このことを、約束してほしい。