2年B組の保護者の皆さんへ 5
家庭訪問を無事終了することができました。ありがとうございました。どの生徒も、やや緊張気味に出迎えてくれて、家庭訪問が終わると、なんともいえないホッとした表情になります。やはり、自分のことで話をされることは、なんとなく苦しくて嫌なのでしょう。
朝起きて、お手伝いをしっかり頑張っている子。毎日、部活や塾で忙しい日々を過ごしている子。毎朝、友人とランニングをして体を鍛えている子・・・。37人、一人ひとり違った日常があり、それを支える37通りの家庭があるんだなあと感じました。
本当の夢
家庭訪問で、多くの子どもに「将来、何かやりたいことや、やってみたいことってあるの?」と聞いてみます。
「看護婦!」「公務員!」「幼稚園の先生!」明確に答える子もいれば、「今はまだ、何もわからない!」という子もいます。最近は、職業も多様化しているので、昔と違ってなりたい職業ややってみたい仕事が曖昧になっているのですね。
「言うと笑うから・・・。」なんて、恥ずかしがる人もいます。夢はやってみないとわかりませんよ。大切なことは、いつも夢を持ち続けることなんですから。
我が家では、日曜日の朝は早起きです。日曜日だから、ゆっくりというのが本当なのかもしれませんが、6時30分より見たいテレビがあるんですね。実は、それは『テニスの王子様』というアニメです。我が家の子ども達は、そのアニメがただ単に好きなこともあるのですが、わたしの場合は違うんです。始めのテーマソングの時に流れる制作者の名前の羅列の中に
“キャラクターデザイン T 成之”
という文字をチェックするのが楽しくて、毎回見ているんですね。
「兄ちゃん、心配かけてわるいね。」と弟の声が受話器から聞こえます。
「若いんだから、大丈夫だ。」わたしが答えます。
「ま、自分の信念を貫くだけだよ。」と弟。
先日、久しぶりに東京の弟へ電話をしました。わたしの弟は、アニメーターというちょっと変わった仕事をしています。以前は、テレビの『ドラえもん』や『遊戯王』なんていうアニメを描いていたんですが、所属していた事務所を辞めてしまったんですね。あまり忙しくて、きつい仕事だったみたいなんです。
弟は、中学校からマンガ家になることが夢でした。周囲の者たちは、当然マンガ家なんて、夢物語と思っていたんです。うちは、代々の公務員一家ですから・・・。でも、弟は高校卒業後、東京のアニメ専門学校に飛び込み、今は一人前のアニメーターです。
こんな、自分の夢を追い続けている弟が、仕事場を辞めるなんていうことは、相当辛い仕事だったんだろうと、兄として思うんですね。
夢とはいったい何だろうとわたしは考えます。
よく生徒から「先生、何で先生になったの?」と聞かれることが、教員なら誰しも持っています。わたしは、その度に絶句してしまいます。これが、今の学校教育の悪いところなのかもしれません。教師自身が夢を語れないのですから。生徒も「中学校の先生は大変そうだ」なんて言うんです。これでは、いけないんですね。やはり、「わたしも先生になってみたいな」と言う生徒が増えることこそが、健全な学校教育の姿かもしれません。
わたしの夢はどこにいったしまったのでしょうか。
夢というのは、きっと本来は、具体的なものなのでしょう。もし、自分が美容師になりたいと思ったとき、どんな美容師になりたいか、美容師となった働いている自分を想像します。お客さんの笑顔。どんな注文にも完璧に応える自分。綺麗な店内。自分は、こんな美容師になりたいというテーマが見えてくる。そうすれば、今、そのテーマに向かって何をしようかという考えもちゃんと出てくるんですね。夢や希望が自分を動かすというのは、テーマがちゃんと見えてからなんです。だからこそ、本当の夢とは、非常に具体的なものなんではないでしょうか。ただなんとなくなりたいという程度は、まだ夢とはいえませんね。
やはり、夢というのは、その人の将来をちゃんと設計してしまう力があるんでしょう。
わたしは、自分の忘れかけていた夢を見つめ直す必要を感じます。どんな教師像に自分はあこがれていたのか。今の自分は、それに近づいているのだろうか。どんな努力が今からできるのだろうか。
自分が、教師になりたいと思っていた時の夢が、なんとなく思い出せそうな感じです。
「兄ちゃんの通信読んだよ。だからうそなんねように、がんばんねばな。」と受話器の向こうの弟の声。昨年、3年生担任だった時に、学級通信の中で弟の事を書いたんですね。それを、贈ったのです。
「今度は、独立してひとりで頑張るんだ。今度はね、もっと自分の力を発揮する仕事をするよ!」
「そうか、また頑張れそうか!」と兄であるわたし。
「信念を貫くだけだよ。貫くだけ。」再び、この言葉を弟は繰り返し、言い残して電話を切りました。
教室内で『映画版の名探偵コナン見る?』なんて、誰かが友達に聞いています。連休中の計画でしょうか。弟の夢の形は、“テニスの王子様”や“映画版の名探偵コナン”という作品になりました。
夢というエンジンを全開でがんばっている弟には、当分このたよりのことは、内緒にしておこうと思っています。
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