2年B組の保護者の皆さんへ bR
肌寒い日々が続いております。暖かくなったり、寒くなったりの繰り返しで、徐々にさわやかな季節に向かっていくのでしょう。金曜日は、5時30分から、3月まで通っていたT村のT地区に行って、歓送迎会に参加してきました。本合海を過ぎて国道から蔵岡の山越えをしていきます。道路の端々には、まだまだ残雪が残っているのですね。4年間通ったこの道には、まだまだ春は顔を覗かせたばかりのようです。
使えば使うほど、増えるもの?
さあ、新しい学期が始まって、1週間が過ぎました。身体測定や新入生との対面式など、どこの学校でも行うであろう行事が、つぎつぎに行われました。でもそんな中で、油圧弁のボタンのいたずらや、友達の筆箱を外に落とすいたずらなどもありました。
新しいクラス作り、新しい仲間作り、そんな中で、多大なる精神的な緊張が、子ども達ひとり一人に、起こっているのかもしれません。今回のいたずらについては、誰一人その行為をしてしまったと言い出てくれる人がいなかったのが残念でした。勇気を出すという最初のきっかけは、やはり勇気なんですけど・・・。
次の日の朝、黒板に『この世には、使えば使うほど、減るものがたくさんある。』って書いておきました。終わりの会で、「朝書いた黒板の答えは、わかる?」って聞いたら、「消しゴム、鉛筆・・・」とたくさんの答えが出てきました。留美さんは、「こころ」って言ってくれました。「じゃあ、来週の月曜日まで、使えば使うほど、増えるものは何か考えてきてください。」と、なぞなぞを与えて、さようならをします。みんな、けげんそうな顔です。
T村の山間にあるTという地域を知っている人は、2Bの生徒の中にどれくらいいるのでしょうか?人口1300人弱の、過疎化・高齢化が進んでいる地域です。道路が整備され、交通の便が大幅によくなった一方で、人口の流出にも加速度が増すというのは、なんとも悲しい現実です。
昭和初期、ここは、冬になると外部への道は雪で閉ざされてしまい、病気になったら、ただ祈るしかない、そんな地域だったそうです。農民の9割が小作人という貧しさも加わり、子どもやお年寄りが病気になっても、まともな医療を受けることはできず、息絶えたという話をたくさん聞きました。
しかし、ここの人々は、ただ下を向いて自分達の環境を恨んでいただけではありませんでした。それどころか、全国の誰もが実現できなかった素晴らしいシステムを実現させたんです。それが、国民健康保険というシステム。もし病気になったら、みんなでお金を負担しあい、誰もが十分な医療を受けることができるようにしようという仕組みです。
生徒のみんなだって、医者にかかるとき“保険証”を見せるでしょう。あれがあるから、高額な医療費を支払わずに済んでいるんですよ。国民健康保険の発祥は、角川なんです。
昨年、わたしは、T中学校の中学生とともにこの出来事についてのドキュメンタリービデオを製作しました。題名は、「ふるさとの誇り〜わたし達のプロジェクトX〜」なんて名づけたんですけど。NHKで、毎週放映されている“プロジェクトX”という番組に負けないものを作ろうを合言葉に、中学生と活動をはじめたんですね。27分のビデオです。完成したビデオをNHKに送ったら、プロジェクトXのチーフデイレクターである今井彰さんから、お手紙とたくせんの本を頂いたなんていうおまけつきです。
ドキュメンタリーなので、当時の映像を使ったり、当時の状況をよく知るお年よりにインタビューしたりしなくてはなりません。わたしが、このビデオを作るって聞いたとたん、地区のたくさんのお年寄りが、わたしに写真を持ってきてくれたり、わたしや中学生を家に招いて、お話を詳しく聞かせてくれたりしてくれたんです。きっと、昔のことを聞いてくれる人なんて珍しかったのかもしれません。それよりもまして、自分の歴史をちゃんと残せよっていうメッセージがあったのかもしれませんね。とにかく、このビデオには、大勢のお年寄りが参加してくれたんです。
だから、ビデオの完成以来、何か恩返しをって、思っていたんですが、この3月にM中への異動が告げられたのです。
異動が決まった日、わたしは前から頭にあったひとつの行動を、同僚の音楽の先生と実行に移しました。それは、独り暮らしの老人の家に行って、何か喜んでもらえるようなプレゼントするという企画です。音楽の先生は、家から大正琴を持ってきて演奏をすることにしました。わたしは、トランプマジックです。
とはいっても、連絡なしでいきなり行くのは、さすがに勇気が必要です。「何か、変な人って思われないかな?」「何しに来た!」なんて言われるのでは?玄関の前に立って、不安は極限状態です。でも、恩返しをしたいという気持ちは本当なんだから、何とかわかってくれると思って、玄関の扉を開けましたよ。
一軒目のお宅は、おばあちゃん独りでお店をしているお宅でした。わたしの訪問した理由を聞いて、わたし達の用意してきた『芸』の披露を許してくれました。部屋中に音楽の先生の美しい声と琴の音色が響き渡り、おばあちゃんの笑顔は満面です。わたしの拙いトランプ手品にも、喜んでくれました。最後は“ふるさと”を3人で歌うんです。「うさぎ、追いし〜」おばあちゃんも、昔を懐かしんで、一緒に歌ってくれましたよ。
一軒目で成功したことをいいことに、2軒目の独り暮らしのおばあちゃんの家を訪れます。独りで暮らしている老人のほとんどは、女性なんです。
最後に訪問したのも、やはりおばあちゃんのお家でした。おばあちゃんに、たくさんの独り暮らしの老人の家に行って来たことを話します。「最初は緊張して勇気が必要だったけど、どんどん訪問していったら勇気なんかいらなくなったよ。」って、わたしが話したら、そのおばあちゃんがこう言うんです。
「勇気はね、使えば使うほど増えるんだよ。」って。すごいなあ。わたしなんか、まだまだ生き方足りないなあ。
月曜日、わたしの出したなぞなぞの答えが集まります。Mくんは、「電気代」という答えを考えてくれました。AさんやHさんは、「消しゴムのカス」「ゴミ」と自学ノートに書いてきました。
あまり嬉しくないものばかりの中で、Rさんは「友達かな」と話をします。するどい感覚の人です。
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