2年B組の保護者の皆さんへ bP
4月のドキドキ
わたし達教師も、転勤族ですが、新天地への移動は何度行っても、ドキドキ
の緊張感ですね。4月1日から、本校で勤務しておりますが、家に帰ると、疲れがどっと出てきて、布団にバタンキューの毎日でした。
きっと、子ども達も、新しい学級はどこだろう?誰と一緒だろう?担任の先生は誰?好きな友達はいるかな?なんて、思いを巡らせ、ドキドキの日々を過ごしているかもしれません。だから、学校が始まると、新しいクラスで、慣れない人間関係の中で、しばらくはクタクタになるものです。考えてみれば、子ども達にとって、4月という月は、新しい学年、新しいクラスへの転勤の時期かもしれませんね。そう考えると、子ども達の精神的なストレスを、周りの大人は、自分の経験とダブらせて考えてあげることができます。
わたしが小学校5年生のクラス替えの時、担任として教室にやってきたのは、おっかなそうな男の先生でした。5年6組の44人。県で最も大きな小学校にいたんです。学年全部で270人近く、全校で1000人以上の児童がいたのですから、クラス替えになる度、周りには、知らない人ばかり。ただでさえ、不安だというのに、担任の先生は、ブスーとしたおっかなそうな人。もう、4月のドキドキは最高潮でした。挨拶もそこそこに、おっかなそうな男の先生が、明日まで持ってくる物を言います。
「明日まで、掃除で使う雑巾を、1人1枚持ってくるように。雑巾は、お家の人から、縫ってきてもらいなさい。みんな、それができるね。」
今と違って、雑巾なんてお店で売っている物ではありません。各家庭で縫ってこしらえる物だったのです。おっかなそうな先生が最後に言う、“できるね”という台詞は、“約束だから、絶対守れよ!”と聞こえてしまうんです。第1印象は、大切ですね。
「どうしても、無理だという人は、手を挙げて!!。」
と見ると、隣の女の子が手をすくーと挙げました。なんと、勇ましい、なんと無茶苦茶なと思いましたね。でも、その女の子の目は、凛としているんです。
「あの、先生!!わたしのお母さんは、今、病気で入院しているんです。祖母も目が悪くて、縫い物はできません。わたしの手では、明日までは無理だと思います。」
なんと、ハッキリ、そしてなんと自分の思いを上手に伝える子だろう。隣の女の子を見て、なんか自分と住んでいる世界が違うような気がしましたね。
女の子に対して、先生はなんて言うのか、43人全員、水を打ったような静けさです。
「じゃあ、誰か、その子の分まで、1枚縫ってきてくれ。以上!」
みんな初めて会ったような人ばかりで、その子のことなんて知らない人ばかりです。みんなキョロキョロ、どうしていいのかわかりません。その女の子も、申し訳なさそうに下を向いてしまいました。
4月のドキドキは、学校に通う子ども達だけではありませんね。保護者の皆さんも、そうかもしれません。「うちの子どもは、今度誰が担任するのだろう?」と、心配しておられる方もいるでしょう。なにせ、わたし自身そうなのですから。わたしには小学生の長男と幼稚園児の長女の2人の子どもがいます。自分の子どもの良さを見つけて、伸ばしてくれる先生に出会って欲しい、そんな願いがわたし達夫婦には強いです。反対に、自分がそんな教師に慣れるかと言われると不安ですが、そんな教師になりたいという気持ちは常に持ち続けたいと思います。
小学校の新しいクラスが決まった日、家に帰ると、雑巾を明日まで縫って持っていくことを母に伝えました。でも、あの隣の女の子のことが頭を離れません。全然話をしたことのない子の雑巾を持っていくと、変におもわれやしないか、悩みました。でも、思い切ってもう1枚、母に追加のお願いをしたんです。自分の勇気と、あの女の子の勇気を天秤にかけて考えたんですね。
次の日、新しい学級の5年6組に行くと、女の子の机の上に、40枚以上の真新しい雑巾があがっていました。わたしも、雑巾の山の上に、母が縫った雑巾をのせます。
「ありがとう。」女の子がにっこり笑顔で返してくれました。
教卓では、あのおっかなそうな先生が、やさしい笑顔の先生に変わっているんです。
4月のドキドキの後に来たのは、やさしさのニコニコでした。
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