2.彼らの戦い方に関する一考察

 相手取っていた最後のイミテーションを短剣で粉砕し、ジタンは手近にあった浮石に勢い良く着地した。足の動きで衝撃を緩め立ち上がる。他の仲間が奏でる剣戟の音が今も響いているけれど、少しだけと、肩の力を抜く。仰ぎ見た先には、自分のものと同じ形、しかし大きさは桁違いのクリスタルが鈍色がにじんだ空に浮かんでいる。
 吸い込まれそうになるのを振り切るように視線を周囲へと向けたジタンは、こちらに近い高台の端に突っ立っているティーダを発見した。フラタニティを構えることもせず、ぼうっとしているようだ。
 危ないだろ。そう思った時にはすでに空中を駆けていた。
「突然敵が出てくるかもしれねーんだから、あんま余所見してんなよな」
「あー、うん」
「ん? なんか見つけたのか?」
 ティーダが返した生返事に、ティーダの隣に立ったジタンは、その青い目が向く先を追う。
 高台の向かいのさらに先、空中に浮かぶ足場にバッツとクラウドの二人がいた。まだ戦闘中のようだ。彼らの周囲には分厚い雲に鈍った光を反射させるイミテーションが数体。それらの攻撃をいなす二本の大剣が目に留まり、おや、と思う。クラウドはもちろんだが、バッツもバスターソードを手にしている。同じ武器を扱っているくせに、真剣な顔のクラウドに対し、バッツはどことなくたのしそうだ。
 すっかり引き込まれ見つめていると、思わずこぼしたようなティーダの声が聞こえた。
「クラウドとバッツって、あんまりべたべたしないんスね」
「戦ってるんだし、しないだろ。つか、目の前でやられてみろ。オレらがダメージ食らうぜ、たぶん」
「まあ、そうッスけど」
「おまえら、戦闘中だぞ」
 背後から堅い足音と共に鋭い声がかかる。しかしその正体を知っている二人は振り返らない。それがわかっていたのか、スコールは深いため息をジタンたちに聞かせて、そのまま隣に並んだ。
「こっちは片付いたし、あとは向こう側だけだから大丈夫だろ」
「だからといって警戒を怠るな」
「オレらの代わりに注意してくれる頼もしい奴がいるじゃんか」
「そうそう!」
 ばしばしとその肩を叩くと、スコールは分かりやすく顔をしかめた。
「向こうの援護に――」
「スコールおまえ、行けるか?」
 あれ、と示した方向には先ほどより量の減ったイミテーションを相手取る二人の姿。
「…………」
 ようやくきちんと彼らの姿を見たのだろうスコールが、ため息をもう一つ。そして、手慣れた動作でガンブレードを肩に担いだ。ジタンたちと同じく静観することにしたようだ。
 それみろと笑ったジタンの横で、バッツとクラウドの戦う姿を一番見ていたはずのティーダが、今気づいたとばかりに声を上げた。
「クラウドじゃなくてバッツが援護に入るんスね」
「そうだな。まあ、バッツの『ものまね』はどんな距離の攻撃もできるし、援護向きだよなあ」
 オレらと組んでるときはそうでもなかった気がするけど、とジタンは一人思案する。どちらかと言えば、出現するイミテーションの戦い方でバッツは使う『ものまね』を分けていたように思う。
 けれど、ティーダが気になっているのはバッツのことではなかったらしい。
「オレといる時だと、クラウドがオレのことを援護してくれるんスよ」
「……おまえがなにも考えずに突っ込んでるんじゃないのか」
「そう!」
 悪びれもせずに笑うティーダに、スコールの眉間のしわが深くなる。そんな二人を見て、ジタンは仕方ないよなと内心で苦笑する。スコールみたいに訓練されているならともかく、普通だったら敵と見たら倒さなければと気を取られるものだ。ジタンももちろん自覚している。そして、それがわかっているからスコールも何も言わないのだろう。
「でもクラウドってたいてい援護だと思うッス。たしか、フリオの時もセシルの時もそうだった……ような……」
 腕を組んで悩み始めたティーダに、ジタンも頭をひねった。聖域への帰還というまだそこまで長くない旅路を経て、ジタンだってそれなりにクラウドの戦いぶりを見ている。確かに思い返すと他の仲間を庇う位置にいたり、仕留め損ねた敵を倒していたりする姿が多く浮かぶ。
「あー、そういうことか」
 思わず手を打ったジタンに、ティーダが振り向く。ただ、ジタンが気付いたのはクラウドのことではない。
「どういうことッスか?」
「クラウドが援護ばっかりしてるってことはさ、それを『ものまね』してるバッツも援護しかできないってこと」
 バスターソード以外ならまた違うんだろうけど、と続けると、なるほどとティーダが頷いた。
「じゃあ、オレの剣使うときは思いっきり突っ込むばっかりになる、ってことッスか?」
「そうなるな」
「突撃以外もできるようにした方がいいんじゃないか?」
「う、頑張ってみるッス……」
 そうッスよねフリオだって特訓してるんスよね、とティーダが唸った。

 涼やかな音が聞こえて、ジタンの意識が会話から引き戻された。あたりはすっかり静かだ。振り仰げば、戦闘を終えたバッツが手にしていたバスターソードを消したところだった。武器の大きさゆえか消えていく光の粒がいつもより多く見える。
「おつかれさん! おれたちが最後だったな!」
 ジタンたちが待機していたことに気付いていたのだろう、「待たせた!」と大きな声が届く。
 バッツは高い位置にあった足場からジタンたちがいる高台にひらりと降り立ち、そのまま駆け寄ってくる。クラウドもその後ろから、ゆっくりと歩いてきていた。
「大量だったなー。でも、たいしたことなくてよかったな!」
 みんな怪我もないな、とバッツが笑う。そうだなと答えてから、ジタンは聞いた。
「なあバッツ、どうしてバスターソードだけで戦ってたんだ?」
「ああ、せっかくクラウドの技を近くで見れるいい機会だから、クラウドの武器だけで戦ってみようって思ってさ」
「やっぱそうか。立ち回り、援護ばっかりだったな」
「うん、クラウドのものまねするとどうしてもな。ああでも、そのせいかクラウドが前に立ってくれたから、最後の方はおれも攻撃してたぜ? アレンジしながらだったから変な動きしてたかもしれないけど」
「そんなことなかったッスよ?」
「そうか? まあ、ジタンたちが待機してたからなにかあっても大丈夫だろ、ってさ」
 笑顔を崩さないバッツは、柔らかく細めた目をクラウドに向けた。
「おれたち、いつもクラウドに助けられてんだなあって思ったよ」
「あ、それはオレも思ったッス」
「オレもオレも」
「…………」
「――それだけ喋れるならまだ余裕があるな。次に行くぞ」
 次々と集まる視線に耐えられなくなったのか、きちんと話を聞いていたらしいクラウドが背を向けて歩き出した。しかし、その耳が少し赤くなっているのを、ジタンはばっちりと記憶に刻み込む。
「照れた」
「拗ねたッス」
「……両方だな」
「可愛いなぁ、クラウド」
「何をのんびりしている」
 続かない足音に、クラウドが振り向いた。ばつが悪そうにしている表情にまた笑ったジタンは、軽くバッツの背を叩く。
 ジタンの意図に気付いたのか、バッツは「今行く」と答えながら、ふわりとクラウドの元へ走っていった。

3.バッツ、カエルになる。
2019-04-30
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